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叶わぬ夢と戦闘準備

 短時間の休憩だったが、その間に回復した体力で夜明けまで歩くことにする。

 ヨンやヘススらが「オケアノの姉さんの魔法はすごかった、あんな魔法は見たことがない!」とオケアノを取り囲んで称賛と質問攻めにしながら歩くのをエッジオと一緒に少し後ろから眺める。

「カオルもあれ使えるの?」

「あれはまだ習ってないねえ」

「僕が使えば炎の長脚種(グランターク)とか出てくるかなあ」

 エッジオは本当に長脚種(グランターク)が好きだな。

 自分でだした長脚種(グランターク)ばかり気にしてたら剛力な竜(ポデラゴ)がやきもちを焼くんじゃないか?


 エッジオは真っ赤に燃える長脚種(グランターク)にまたがって旅をする勇ましい自分の姿を想像した。

「出せるかどうかは別としてさ。そんな大きいの出したら一瞬で魔力なくなって倒れちゃうんじゃないかな、どのくらい魔力が必要なのかしらないけど」

 カオルに言われてみれば確かにと納得する。

 魔力量のことなんかまったく考えていなかった。

 今出せるだけの魔力を出したら手のひら大くらいの長脚種(グランターク)を一瞬だけだすことはできるだろうか。

 手の平で生まれた長脚種(グランターク)が元気に肩に飛び乗り小さな声で鳴く想像をした。

 長脚種(グランターク)は大きくても小さくてもかわいいと再確認した。


 実際に出せたとしたら小指の爪より小さい卵が出てきた瞬間、エッジオは魔力切れを起こして倒れ、魔力の供給がなくなった卵は空中に霧散してなくなってしまうのだがエッジオは卵から育てる必要があるということを知らないため、見ることすら叶わないという現実に直面することはなかった。


 それからしばらく歩いて遠くの空が黒から紺色になり、輝く輪郭を表し始めた。

 冷えた体に暖かい日の光が当たり、じんわりと暖めてくれる。

 今のうちに野営の準備をしないと暑くてどうにもできなくなる。

 まだ体力は残っているうちにテントを立てることにした。

 もう日が出てきて寒さから身を守る必要が無いのでテントは風通しの良い日よけの形にして立てて、全員日よけの下に入る。

 あと1基の大型テントは砂の悪魔(アル・ザルボ)に壊されてしまったし。


 昼間は明るく、平坦な地形は明るい砂色(カーキ)一色で見通しがいいので見張りの人数も少なくて済む。

 最初の見張りは身体強化のおかげで体力が余っている私がやることにした。

 日陰で座り込んだまま寝るハビエルやオケアノ達を見て、もう少し身体強化できるようになってくれると無駄な時間が減るのだが。と思う。


 そもそも、固い地面で座ったまま寝ても疲労がとれるわけじゃないので、こんな調子で何日かかけてたどり着いた頃には疲労困憊でまともに動けないんじゃないだろうか。


 寝ている彼らのために(カエンテ)の魔法を使って少しでも寝やすい様にしながら自分も退屈でうとうとしながら昼間を過ごした。

 昼間は暑すぎるのでよほど運が悪くない限りは何かに襲われると言うことはないらしい。

 たまに起きては目が覚めただれかが勝手に飲めるよう桶に(アグーラ)を満たしておく。

 お尻の痛みに耐えながらだらだら過ごして夕方、1人ずつ起きてきては固まった腰をほぐしつつ付近の見回りをして晩ご飯のおかずを探しに行った。


 見晴らしが良すぎるため鳥も獣も見つからず、干し野菜と干し肉のスープと乾いて堅くなったパンで腹を満たす。

 食にこれといってこだわりはないつもりだったが、毎食このメニューはきつい。

 そう思いながら乾いて固くなったパンをスープに浸しては風味の薄いスープを味わう。そうしているうちに味気ない食事が終わる。


 明日、大怪鳥(コカトリス)がいるという場所に到着する予定なので、体力の消耗を抑えるよう移動と休憩のバランスを変える。


「なあ、リーダー。ちょっといいか」

 ハビエルとヨンが言いづらそうに話しかけてきた。

「どうしました?」

「ちょっとは魔力を扱えるようになりたくてよ、休憩の時にちょっとやりたいだが」

 やる気があるのはいいのだけど、魔力量が圧倒的に足りてない。

 商人か召使いなら重宝されるくらいの魔力量は戦いに使うには圧倒的に足りない。

 だが、どんぐりの背比べの中でちょっと増えたと思うのだと今、どの場所にいるかがわからないのだろう。

「布を(アグーラ)で濡らしてから熱風(アレ・カエンテ)で乾かしてみてください」

 濡らした布を絞ってオケアノに渡して熱風(アレ・カエンテ)を使ってもらう。

「え? 熱風(アレ・カエンテ)?」

 渡された意味もわからず布の端を持って言われたとおりに熱風(アレ・カエンテ)を唱える。

 黒焦げになった布がちぎれ飛び、熱い風が隣にいる私の服を撫でた。正面に立ってたら火傷してたな、と背筋に冷たいものが流れた。


「制御できていないのならこうなっちゃうくらい魔力量がないと枯渇して倒れてしまうんですよ。なので今は制御と増強ですね、自分で(アグーラ)で水を出して飲んでも訓練にはなるので」

 視界の端でちぎれて飛んで行く黒い布だった物が飛んで行くのが見え、とてもじゃないがあんな真似はできないと冷や汗が背中を伝った。


「そ、そうか。すまんな」

「魔力を体の隅々まで広げられるようになったら次に進みましょう、身体強化できるようになりますよ」

「まだまだかかりそうだな」

「まあ、焦らずがんばってください。本来なかったものなんですからゆっくり育てればいいですよ」

「そうか、なかったものだもんな」

 ハビエルは頭をかきながら戻っていった。

 

「あ、(イ・ヘロ)なんかは消費魔力も少ないのと松明いらずなのでいいですよ!」

 そういうと指先に(イ・ヘロ)の鈍い光をともして見せた。

 元々大盾なんて持てる体じゃなかったのを持てるようになるまで鍛錬を積み重ねてきたんだから魔力だって一緒だ。

 ハビエルはそう自分に言い聞かせて簡単に力尽きてしまう昔の自分の様な貧弱な魔力で足下を照らして歩いた。


 いざという時動けなくなるから使いすぎるなと言われているから小まめに付けたり消したりしながら歩く。

 魔力量が少ないせいか目眩がしそうなタイミングで消してしばらくすると満タン近くまで回復していることに気づいて再び付け直すことを繰り返す。

 ヨンに鈍く光る(イ・ヘロ)を見せてそう言うと意外そうな表情をした後、(イ・ヘロ)を使って歩き始めた。


 その姿を見ながら覚え始めた最初の方は結構使ってても平気なもんなんだな、と意外に思った。

 中途半端が一番良くないということか。

 またしばらく歩いて日が昇る前に最後の休息を取る。

 エッジオが食事を用意して水で流し込み、仮眠を取った。

 その間エッジオが寝ずの番にたつ。

 マントに包まって横になる。固い地面が寝返りのたびに骨に当たって違和感と痛みで目が覚める。そして、また寝る。を繰り返して数回、空が白み始めて空気が緩んできた。


 エッジオが休憩前に朝食を用意しようとしたが早めに休憩してもらって私が作ることにする。

 朝なら遠くから見えることもないから火を使っても大丈夫。

 地面に炎の矢(フェゴ・エクハ)を2、3発打ち込み熱した地面に水を張った鍋を置く。

 ボコボコと沸騰してきたところで適当な量のショートパスタを放り込み、少しゆでたところで固さをみて、少し湯をすてて乾燥肉と乾燥野菜を放り込んだ。

 塩で味をつけて匙を突っ込んで味見をしてみる。

 なんとか食べられなくもないものができあがった。

 鍋いっぱいの乾燥野菜パスタは各自適当によそってもらって足りない分はパンでも食べてもらう。


「やっぱり時間が無いときでも火が使えるのはいいね、僕も練習するよ」

 休憩のために広げた荷物を片付けながらエッジオが呟いた。

炎の矢(フェゴ・エクハ)2、3発なら魔力操作ができるようになればすぐだよ」

 これ見よがしに水の玉と火の玉を浮かせて動かして見せた。

 それをみたエッジオは指先にだしたパスタの様な細さの魔力を伸ばしたり振ったりしてなんとか指から離せないか挑戦しはじめたがすぐに諦めて片付けた荷物を剛力な竜(ポデラゴ)の背に乗せた。


 日が昇って暑くなる前に移動を開始する。

 腰をひねったり叩いたりしながらオケアノが並んで歩く。

「せめて下に厚い布でも敷かないと地面が固くて体中痛くなっちゃう」

「寝るときは砂地がよかったですね」

「固い地面を砕いて砂地にする魔法とかないかしら」

「あれば逃げるとき便利そうです」

 きょとんとして意味がわかってなさそうなので「砂って足取られるじゃないですか」

 というと納得した顔で歩き始めた。


 それからしばらく歩くとハビエルがエッジオに言う。

荷運び(ポーター)はここで待機だ」

 目的地が近いのだろう。

 最後の休憩をとって目的地に向かう。

 今までの緩んだ雰囲気と違ってだれも口を利かず魔力で遊ぶこともない。

 エッジオだけは少し離れた場所で、待機だ。

 そう言われたエッジオはもう待つだけだからと手のひらに張り付いた(イ・ヘロ)で遊んでいた。

 

 私はいつでもよかったので暇だな、と思いながらその時を待つことにする。

 準備としてせめてできることを、とアーテーナへの祈りを捧げて身体強化の祝福を与えた。


 ついでにバドーリャで覚えた魔法も使ってみようと思いつき筋力向上(大)(グレートパワー)、|防御力向上(大)《ダイアモンドプロテクション》をかけ、(くちばし)の石化の呪いは魔法障壁(マァヒ・ヴァル)で防げたことを思い出して念のために魔法障壁(強)(シャイニングウォール)、あとはフアンの矢筒にシャープエッジ。

 自分にも他人にもかけられるバドーリャの魔法は多人数にかけるとその分消費魔力が増えた。

 間違ってエッジオとオケアノにもかけてしまったのできっちり8倍。

「相変わらずとんでもない量の魔力ねー」なんてオケアノが感心して軽く跳ねてかかりを確認する。

 私の魔法をきっかけにして各々(おのおの)自分の体の調子を確かめるように腕を回したり、屈伸したりして戦いに備え始めた。


「いくか」

 しばらくして強化が体になじんだ頃ハビエルが立ち上がった。

 バラバラに返事をしてヨン達が立ち上がり移動を開始しはじめたが緊張しているのかだれも口を利かず硬い表情で歩き続ける。


「今回は準備してきてるしすぐ帰れるといいわね」

「なんか不吉なこといいますね」

「遠征なんて久々にしたから疲れちゃった」

「確かに早く帰りたいですね」

「おい、そっちは楽勝だと思ってるがこっちは命がけなんだからはしゃぐんじゃねえよ」

「あっ、はい、すみません」

「リーダーは軽々しく謝るもんじゃない」

「そうですか、すみません」

「謝るなよ」

「すみません」

「人の話を聞け、わははは」

 謝り続ける私が面白くなってきたのかヨンの拳が軽くコツンと私の頭に当てられた。

 身体強化しているので軽くではないが、こちらも強化しているので差し引きなしにはなっている。

 いよいよ大怪鳥(コカトリス)討伐だ。

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