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魔力の訓練はほどほどに

 それから徒歩で半日ほど移動し、日が傾いた頃ハビエルに「そろそろ野営の準備をしましょうか」と言うと、ヨンやエッジオに指示を出して野営の準備をしてくれた。

 

 フアンが私の所に「獲物をとってくる」と言ってどこかに行こうとしていたので、シャープエッジを矢筒にかけて送り出した。


 360度見渡せる荒野の真ん中で小さいテント1つと大きなテント1つを張る。

 小さいのが私とオケアノ用、大きいのが男性用テントになるらしい。


 テントの用意ができた頃、フアンが憮然とした表情で帰ってきた。

 獲物が獲れなかったのかと思ったが手には渡り鳥を3羽、紐でくくって持っているのでそういうわけではないらしい。

 不思議に思っているとフアンから、「矢の威力が上がりすぎてどこかに飛んで行ってしまった」と、文句を言われた。

 本来なら突き刺さった矢を回収して再利用するつもりだったそうなのだが、シャープエッジをかけた矢は渡り鳥を貫いてそのまま飛んで行ってしまったらしい。

「高い物じゃ無いからいいが、数に限りがある。矢が無くなるとおれが役立たずになるだけだからな。血抜きするから手伝ってもらえるか?」

 フアンからクレームと同時に手伝いを頼まれた。

「いいですよ」と返事をして少し離れた所に穴を掘り、羽と血と内臓をすてた。

 解体作業のほとんどはフアンがやってくれた。

 私がやったのは地霊操作(テリーア・オープ)で穴を掘るのと血を洗って、肉を冷やすための(アグーラ)を多めに何回か出しただけで、解体を見学していただけだ。


「やっぱり魔法があると楽なもんだな」

「氷の魔法も使えると血抜きと一緒に冷やして腐りづらくできますよ」

「それはいいことを聞いた。それを目標にしよう」

「じゃあ、もう少し難しい目標もどうでしょうか。顔を合わせたことがあるか知らないのですが、ロペスって知ってます? 彼、身体強化をかけてイノシシを狩って後ろ足を持って振り回しながら血抜きをしつつ魔法で冷やすってマネをしてたので是非やってください」

「イノシシ? 振り回す? それは本当に人間なのか……?」

「もちろん! 頑張って魔力を増やすといいですよ!」

 どうにも信じてもらえてなさそうで、かといってムキになっても怪しいと思わせるだけかと言うのをやめた。

「まあ、おれの体でそれができるようになれると思うと夢があるな」

 鍛えてもあまり筋肉がつかないんだ、とぼやいた。


「身体強化しても筋肉が大きくなることはありませんけどね」

 長身で痩せ型のフアンは体が大きくならないのが悩みらしいのだけど、身体強化は強化するだけなので筋肉が付いたりしない。

 少しがっかりした様子で八つ当たりのように力を込めて鳥肉を切り分けるとエッジオに渡して魔力操作を始めた。


 日が落ちてうっすらと太陽の名残が残る中、エッジオが火を起こし、夕食の準備をする。

 今回は鉄板の出番がないため、エッジオが作るようだ。

 乾燥肉と根菜とパン、パスタが主な食糧なので鉄板は使わない。


 エッジオは藁と泥炭を混ぜて乾燥させアルコールをしみこませた着火剤に手のひらを伸ばし、緊張した面持ちで力ある言葉を唱える。

(フェゴ)

 一瞬めまいに襲われたが、すぐに治まり高揚感を覚えた。

 火を起こすことなく燃え上がる着火剤を手のひらに乗せたまま観察する。

 新しい力を手に入れた感覚で火が付いた着火剤を持ったままにして喜んでいたら手のひらに軽い火傷をしてしまった。

 自分用の物とはいえ、飲み薬(ポーション)を無駄遣いしてしまったことをこっそりと反省した。


 森の方にいけば枯れ木が手に入るが、そうでない場所は燃料を手に入れることが容易ではない。

 街でも木と言えば家や家具を作る材料で燃やすなんて使い古してバラバラになる家具を手に入れてやっと燃料として使えるようなものなのだ。

 だからどんな木でもいきなり薪にするという贅沢な使い方は岩山の上層に住む人達だってそんなことはしない。

 木が貴重な土地では木炭より石炭や泥炭の方が用意に入手できるのでこの地域では石炭や泥炭が使われる。

 泥炭も入手は面倒なのだが、木と違って燃やす以外に使い道はないために燃料として産出する土地から仕入れている。

 石炭はそのままだと煙が出たり匂いがでたりするらしいのだが、粉にして加工した石炭は煮炊きに使っても煙や匂いが出ることもなく使いやすい。

 粉にした石炭(コールポル)という名前の炭は目の細かい袋にさえ入れておけばあまり漏れることも無く荷物に合わせて収納しておけるので多少の重さに目をつぶれば運びやすく使いやすい燃料となっている。


 火をつけた着火剤に粉にした石炭(コールポル)をまぶして火をつける。

 ゆらゆらと炎が立ち、料理に使える火力になるまで粉にした石炭(コールポル)をまぶし続ける。

 この火は火の番をするときも粉にした石炭(コールポル)を継ぎ足して朝まで火を絶やさないようにする。

 

 夕飯はあるものでさっと済ませて見張りと火の番をする。

 エッジオを含めハビエル達は夕食を食べる前からそわそわと訓練したそうな様子をみせ、夕食は慌てて掻き込むように碌に咀嚼もせず飲み込んだあと、それぞれ就寝時間まで手元の魔力を見て過ごした。

 私が起きているとハビエル達は魔力操作の訓練を止められてしまうと思ったのか、私とオケアノは見張りを免除されてしまったのでさっさと寝ることにする。

 先に起きているハビエルを始めとしたヘススとフアンはたまに(アグーラ)をコップに落として飲むくらいで真面目に見張りをしたようだった。

 しかし、ヨンとホルヘはハビエル達より早く扱えるようになりたいからか、碌に見張りもせずに訓練に勤しみ、朝方にはヘロヘロになってハビエルに雷を落とされていた。

 エッジオは火の番をしつつ朝ごはんの準備として根菜を刻み、鍋いっぱいの(アグーラ)を出そうとしたが魔力が足りなくて私が呼ばれて鍋いっぱいに(アグーラ)を出した。

 鍋が沸騰したところで乾燥肉や野菜を入れて煮込む。

 しばらくするとゆでられすぎてくたくたになったドロドロの野菜スープが出来上がった。

 

 怒鳴り声で目が覚めてテントを出てみると碌に寝ていないことを叱責するハビエルと怒られて小さくなるヨンとホルヘ。

 ハビエルは無意識かヨンの頭にげんこつを落とそうと握った瞬間、ゆらりと魔力が揺らめいた。

 意識せずに身体強化するとはすごいじゃないかと感心し、あのくらいならまあ、大丈夫だろうと放っておいた。

 

 ドロドロのスープと堅いパンで朝食をとり、移動を開始する。

 今日は大怪鳥(コカトリス)の件を片付けてしまいたい。そう告げると彼らもやはりプロなのか何度やめろと言われてもやめなかった魔力の操作をやめて緊張した面持ちで歩き始める。

 オケアノは後衛以外するつもりはないし、自分自身だけでいえば危険なんてほぼないのでいつも通り服飾ギルドの友達の話を私にしながら、ハビエル達からみると脳天気にはしゃいでる様で苦々しい顔をしていた。不機嫌そうな表情に気づいてほんとにすまないと心の中で謝った。

 茶色一色の景色の中、オケアノには身体強化のやり方を少し教える。

 もちろん、実践で使うにはまだ早い。魔力の扱いができるようにならないと出力の調整はできないためだ。

「へえ、カオルちゃんの強化はそうなってるのねえ」

「あ、待っ……」

 軽く動いてみせると真似をしたオケアノが軽くぴょんぴょんと跳ねたあと、腰をかがめてジャンプする。

 一瞬で目の前から消えて空へと上がった。見た感じ3階建ての家を飛び越せるんじゃないかという高さでオケアノが悲鳴を上げ、ドップラー効果で悲鳴が近寄ってきて地響きを立てて着地に成功した。

「慣れないうちに飛ぶととんでもないことになるよって言おうと思ったのに」

「心臓が飛び出るかと思ったわ! 足がビリビリする……」

 胸の鼓動を抑えるために右手で胸をおさえると私の肩に寄りかかってよろよろと歩きはじめる。


 離れたところで付いてきていたハビエル達ははるか上空に飛び上がるオケアノをみて口をぽかんと開けたまま棒立ちになっていた。

「あれで足大丈夫なのかよ……」

「早く魔力の扱いになれてくださいね!」

 ぽつりと呟くハビエルにそう声をかけると、ハビエル達はカタカタと動く人形の様に頷く。

 すぐに気を取り直すだろうと私とオケアノは彼らを置いてまた歩き出した。


 しばらく歩くとヨンが小走りでやってきて私に声をかけてきた。

「なあ、リーダー、おれもあれやりたいんだが」

「あれ? ああ、さっきのオケアノさんの」

「そうだ、空から襲いかかって首を落として逃げられれば危険もなさそうだからな」

「魔力量がないと高く飛べませんし、飛べたとしても飛び上がっただけで気絶して落ちてくるのが関の山ですよ」

 豪快に飛び上がった自分が大怪鳥(コカトリス)の目の前におちて石化させられる様を想像して背筋を寒くした。

「身体強化はまたの機会にとっておくことにするよ」

「そうですね、訓練不足もそうですけど量も足りませんからね。頑張って増やしてください。訓練も魔力の増やし方も一緒ですから!」


 少女といってもいい見た目をしたリーダーは、ヨンの前に十数個の手のひら大の大きさの火や水、光の玉やなんだかよくわからない真っ黒な玉を出して楽しげにぐるぐる回して見せた。

 この手遊びができないことにはまともに魔力は扱えないというがその前の魔力操作もままらないのが腹立たしい。

 しかし地道にやるしかない。

 フードの様にふんわりと巻いたターバンの隙間からのぞく首筋を見ながら嫁に来てくれたらちゃんと教えてくれないかな、と心の中で呟いた。

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