魔力さえあればだれでも強くなれるもんだと思ってたよ
昼食でも、と思って見渡すと私がやらせた魔力を操る訓練のおかげでハビエル達もエッジオもオケアノも自分の手元に夢中になってしまっている。
どうやら食べたいのなら自分がやるしかないらしい。
こんなことになるなら料理人を同行させたら良かったと今更ながら思いつく。
自分の手元と魔力しか見えない彼らのことは放っておいて何か食べるものを作ろう。
乗せてはくれないけど撫でられるのは好きな剛力な竜の頬を撫でてから背に積んだ荷物の中から少し大きめの両手鍋を取り出してなんとなくコンコンと叩いて丈夫さを確かめる。
辺りをうろうろして拾ってきた石と砂と水を混ぜて簡単な竈を作った。
鍋をのせる前に火力を上げた火を出して竈を乾燥させる。
湯気が出てある程度乾燥した所で水を満たした鍋をのせ、湯を沸かした。
ヨンとホルヘが「こんなんほんとにできるのかよ」と叫びながら転がり、ハビエルとヘスス、フアンは真面目に手の中の魔力をこねくり回している。
そろそろやってくれないかなーと淡い期待を込めてエッジオを見ると、がんばりすぎてぐったりとして座り込んでいた。
水を持って歩かなくてもいいし、なんならお金も取れると思うとやる気がでたのか、自分の限界まで魔力を使ってしまっているらしい。
しょうがないので、適当に干し野菜と干し肉を取り出して沸いた湯に放り込んで煮る。
味を見ながら塩を足してはみるが、どうにも味が足りない気がする。
そう思いながらあーでもないこうでもないと具を足したり塩を追加した結果、鍋の淵ギリギリまで増えてしまい、どうにもできなくなってしまった。
ふつふつと沸騰したスープは使い古して黒ずんだでこぼこの鍋の淵からこぼれてじゅうと音を立てた。
このまま煮込めば味が濃縮して美味くなるかと思ったが、なにか足りないしょっぱい物になるだけだろうと容易に想像がつく。
みんなにはこの一味足りないスープと堅パンで我慢してもらおう。
そう思いながらこぼれないように鍋の中のスープをぐるぐる回していると私に向けられた視線に気が付いた。
我に返って頭を上げるとハビエルをはじめエッジオやオケアノさえ私がいまいちスープを作るのを見守っていた。
「おや、どうしました」
「いや、いい匂いしてんなと思ってな」
匂いは確かにいいがこれは失敗作なのだ。
「カオルちゃん、あなた料理なんてできたのね」
「お湯に乾燥野菜と乾燥肉と塩を入れただけですよ」
「たったそれだけでこんなの作れるのね」
ただ突っ込んだものに対してそんな言われ方をしてちょっと気恥ずかしい。
鍋を温めている火を握りつぶすように消火すると、エッジオが荷物の中からパンと器と取り出して配膳を始めた。
エッジオに配膳をまかせて近くの腰を掛けるのにちょうどいい岩の上に座って待つことにした。
まだ出発してそんなに時間が経ってないのだけど疲れを見せはじめたエッジオはパンとスープを1人ずつに配り終えると自分のパンにかじりついた。
その頃にはハビエルやヨンの体が大きい組は食べ終えてしまっていて、昔は自分も早食いしてたなと思い出した。
自然に早かった訳ではなく、昼に悠々と休んでいると「休んでる暇はあるのか」と言われる様な職場だったので慌てておにぎりを押し込むように食べて仕事をする環境のせいだったのだけど。
それぞれ適当に座り早めの昼食を食べ終えると、寝る者と訓練を再開する者に分かれた。
訓練中のハビエルに近づき調子を聞く。
「順調ですかね?」
「難しいもんだな、魔力さえあればだれでも強くなれるもんだと思ってたよ」
「まあ、使えるんですけどね。魔力があって力ある言葉を唱えるだけで使えないことはないですよ。火!」
手のひらに人の頭の大きさほどの炎を出現させる。
ハビエルは今自分が出している魔力を見つめると、戸惑うように言葉を絞り出した。
「フ、火」
端からめくれ上がるように魔力が炎へと姿を変える様を戸惑いとも喜びとも言えない表情で見守る。
さっき「こんなんほんとにできるのかよ」と言っていたヨンが恐る恐る力ある言葉を口にした。
魔力の制御がうまくいっていないようで手のひらの上でまとまらず手のひら全体が燃えているようだった。
「お、おい。手が燃えてて熱くねえのか?」
「ヘスス、お前もやってみろよ。不思議だぜ」
物珍しそうに燃える手のひらを見たり手の甲を空にかざして見たりしながらヘススに促した。
ヨン達はでかい図体で子供のようにはしゃぎながらその辺の枯れ草を握っては燃やして遊びはじめ、ヘススは困った様な表情で小声で私に言う。
「リーダー、その、火はちょっとあれだからもう少し違うのは無いのか?」
私よりは背が高いけれど、他のメンバーに比べるとちょっと背が低く痩せた男が恥ずかしいのかもじもじとしながら
火以外の魔法はないかという様は、ヘススが痩せているせいかより貧弱に見えて水か身体強化か悩んだ。
少し悩んで水でいいだろうという結論に至った。
ちょっとだけ使える身体強化なんて生兵法も良いところだ。
『光』なんかも悩んだが、コツをつかまないうちは集中してないと消えてしまう灯りなんて不便すぎるのできちんと扱えるようになってからでいいだろう。
「じゃあ、水を出せるようになりましょう。水です」
「水」
出した水は浮かべることもできずパタパタっと音を立てて地面に落ちて吸い込まれた。
すうっと土の色を変えて消えていったコップ1杯分の水を悲しげな目で見送った。
「容器が必要でしたね、もっと魔力の操作に慣れるとこうして浮かせておくこともできるので早く慣れるといいですよ」
テニスボール大の炎と水を浮かべて動かして見せてからぶつけて消滅させて見せた。
夢中になって訓練するハビエル達を見ていたらこのタイミングで魔法を教えたことが良かったのか自信がなくなってきた。
魔物と戦うときにヘロヘロで戦えませんなんてことになったら無事に帰れなくなってしまう。
「魔力を使う練習もしすぎは体に毒なので、休憩中以外はやらないでください。魔法覚え始めたのに死にたくないでしょう」
教えてやらせておいてこういうことをいうのはどうかとも思うが人に盗み見られない所で教える必要があったので仕方が無いといえば仕方が無い。
今朝出発したばかりなのに多少疲れが見えるあたり、やっぱり間違えたなと心の中でつぶやきつつ大怪鳥がいたという場所まで移動する。
ハビエル達は休憩前と違って口を開くこと無く黙々と歩いている。
疲れたのかと思っていたが実はこっそり魔力操作をしながら歩いていたらしい。
それがわかったのはホルヘが砂に足を取られて転んだからだった。
しばらく起き上がってくる気配をみせず、のろのろと立ち上がり、立ち上がってもすぐ歩くには辛そうにふらふらとしていた。
「どうしました?! 体調が悪いんですか?」
もごもごと口ごもるホルヘにどうしたのか、中止して帰投した方が良いかと矢継ぎ早に話しかけると気まずくて自分で答えなかったくせに怒りだした。
「うるせえ! 魔力操作しすぎただけだ!」
「ええ?! なんで怒ってるんですか?!」
「しつけえからだよ!」
そんな理不尽な! と思った瞬間、ハビエルが早足で寄ってくるとホルヘに拳骨を落とした。
大男のハビエルから垂直に落ちてくる拳はホルヘの頭がとれるんじゃ無いかと思うくらい上下させた。
「いてえな! お前がリーダーに無駄に面倒かけるせいで全体が遅れてるんだ! すまねえな、リーダー」
ホルヘは言い返すことができずに舌打ちをして引き下がった。
「一応全員が部下なのでハビエルさんに謝ってもらわなくても大丈夫ですよ」
「だったら早めに拳骨落としてくれや、魔法があればどうにでもできるだろう?」
そういうハビエルに曖昧に返事をする。
そして改めて小休止をとると再び歩き出す。
ちなみに、エッジオは魔力操作をやりたいが為に剛力な竜にちょっと無理をさせてその背に跨がったまま訓練をしている。
魔力量に余裕のあるオケアノは歩きながら訓練を続け、火と水を投げる様に飛ばせるようになってきた。
手から離れてする消えてしまうのだけど、今日覚えてもうこれかと思うとこれが才能かと感心しきりだった。