魔力の扱い方を教えよう
「お、来たか。魔法の練習をしながら大怪鳥を狩って、あと適当に獲物をとってきてくれ」
「なんですかその適当な指示は」
「前の時に祈って祝福かけたろう? 無事に全員発現したそうだ」
そういうとニヤリと笑った。
「そうすると、彼女は?」
フードの様にふんわりと頭に布を巻いて、顔を少し隠したオケアノを指してルイスさんに聞く。
「別口だが、お前の関係者だろう? 魔力はあるが使い方が違うからな、基礎から教えてやってくれ。いい戦力になる」
ルイスさんがそういうと若い方のオケアノがぎこちない笑顔で手を振ってくる。
言いたいことだけいうと、ルイスさんはさっさと上の事務所に上がっていってしまった。
ゴロツキの様なハビエル達に囲まれて緊張しているのか背筋を伸ばした良い姿勢で石のように固まり、機械の様にぎこちなく振る手に軽く手を振り返すとヘスス達が小声で話しかけてきた。
「あんな育ち良さそうなの連れて行って大丈夫か、居るだけでガチガチだがお守りなんてしたくねえぜ?」
「服汚されたくないとか言わないよな? まあ年は少し上だが魔法使いで世間知らずなら悪くねえかもしれねえな」
「下品とゲスが服を着てる様なのがいると思えば何をされるか心配で緊張もするだろうよ」
ヘススに続いたヨンの言葉にため息交じりでハビエルが煽りながらたしなめる。
「きっと私と一緒にいることになるので手間をかけさせることはないと思うので」
「ならいいけどよ」
基本的に関わり合いは無いよと伝えるとヨンが焦ったようにヘススにいうのが聞こえた。
「いやいや、嬢ちゃんじゃねえちゃんとした女だぜ? お近づきになっておいた方が」
私には関係ないのでもう少し聞こえないようにしてほしい。あと人妻です。
「それで結局フアンに持って行かれるんだからそろそろ学習したらどうだ?」
まあ、戦斧振り回すような大男よりだったら痩せて高身長で無口で陰があった方がモテるのかもしれないな。
「で、嬢ちゃん。あの人はどういう人なんだ?」
諦めてないのかヨンがホルヘと一緒に聞き込みに来る。
「魔法ギルドと掛け持ちで加入した魔法ギルドのちょっと偉い人の奥さんでオケアノさんといいます」
「なんだ人妻か……」
「短い雨期だった」
そういう場合は春じゃないのかと口を挟もうと思ったが、水の貴重な地域では雨期が幸せの象徴らしいとホルヘのつぶやきで知った。
「じゃあ、やる気が出たところで今日の仕事内容について伝えます、オケアノさんもこっちへ」
オケアノを呼ぶとだれとも目を合わせないようにしながら目立たないように目立ちながら歩いてきた。
「みなさんにはこれから大怪鳥を討伐してもらいます」
「なんだそれ! そんな話聞いてねえぞ! たったこれだけでやれるもんかよ」
ホルヘが文句をいう。彼は割と短気なところがあるみたいで我が班で噛みついてくる3人の内の1人だ。
まあ、前衛だし急に大怪鳥と戦えと言われびっくりすることだろう。
「いやあ、どうにかなるもんですよ。あとはそれ以外に適当に肉をとってきてということで」
「やったこともねえのに軽くいうんじゃねえ」
ヘススが食い下がってくる。
「ないのに言わないですよ、ねえ? オケアノさん?」「ええ、まあ」
「ということで経験者が2人いるので大丈夫です、得しましたね。前衛お願いします」
そういうとホルヘとヘススは舌打ちをして引き下がった。
「大丈夫、ちゃんと神殿につれてって石化解いてもらいますから」
冷静なハビエルがぎょっとした表情を浮かべていたのでジョークとしては失敗したのかもしれない。
あとで聞いたところによると無知な相手を安心させて突撃させ、報酬を1人締めするために石化したまま放置するときの常套句らしかった。
もしくは石化を解いてくれたとして目が覚めた時こう言われる。「わり、寄進に全部使っちまった」そんなはずは無いのだけど約束通り石化は解いてくれたし報酬から寄進もしたから文句を言うに言えず、無報酬となる。
そんな意図は無かったと謝ると「リーダーはそういうタイプじゃないからわかってる」と、許してもらえた。
そうじゃない場合はどうするか、きちんと用意があることを見せるために高位の神官を派遣してもらうのだ。
私が来た時点で出発する準備が終わってるというので無駄話をしながらぞとぞろと街の外へ移動する。
本当は身体強化して一気に駆け下りたいのだけど、ハビエルの鉄板兼大盾みたいな装備や個人の荷物がそれなりに多いのでしょうがなく足並みを合わせる。
次からは街の外で現地集合にしたい。
そう思うのは他のメンバーも一緒らしく、装備と口の軽いホルヘやヘススは調理器具兼大盾を持ったハビエルや柄の長い大きな戦斧を担いだヨンにもっと早く歩けと軽口言っては追い払われていた。
体感でものすごく時間をかけて街の外へでると、見覚えのある長脚種に寄りかかって暇そうに寝ているエッジオがいた。
剛力な竜は私に気づくと首をもたげてエッジオを揺り起こした。
「ああ、ああ。久しぶりだね、カオル。準備はできてるよ」
ハンターが砂地や岩場で活動するときに肌を日差しから守り、岩などで傷を負わないよう丈夫に作られたカオル曰くポケットの無いフード付き作業着姿のカオルがうれしそうに手を振るのを見てつい照れくさくなってしまった。
あくびをかみ殺す振りをしながら剛力な竜につかまり立ちをして固まった腰をほぐすために伸びをする。
約一週間ぶりに会うエッジオは初めて会ったときから顔を合わせるときはずっとぼさぼさか、整えてられてない髭だったんだな、と初めてわかるくらいピシッと整えられていた。
「今日はちゃんとしてんだね」
「普通はちゃんとしてるんだよ、どう?」
「かっこいいじゃん」
褒められると思っておらず不意打ちを受けたエッジオはヒュっと息をのむと照れ隠しに気にしてないそぶりで「だろ?」と言って荷物を整理する振りをするためにカオルに背を向けた。
エッジオの履くニッカボッカの様なだぼっとしたズボンを見て、私も履きたいなぁと思いながら自分のなんの面白みのないズボンを見下ろした。
「おう、リーダー、一緒に確認してくれ」
ハビエルに呼ばれ、エッジオと3人でエッジオが手配した荷物を確認する。
何を手配してもらったかしらないのに見せられてもどうにもならないと思うのだけどハビエルの顔色をうかがって問題なさそうなのを確認してしたり顔で頷いておいた。
「そんなに長い期間でるわけじゃないから根菜類と葉物は乾燥と生が半々、水はカオルがいるからその分、小麦とパスタを多めに用意したよ。それと乾燥肉は少し値が上がってたから少なめだよ」
「肉は現地調達できればいいね」
「害獣退治のついでに狩って帰りたいな」
大怪鳥が出たというのはついこの間、魔法ギルドの魔法の練習で使った所から1日ほど行った所らしい。
目的地は皆大体知っているので、特に意識はしていないがなんとなくグループができる。
私とオケアノが先頭を歩き、ハビエル達が少し離れて無駄話をしながらだらだらと付いてきて最後にエッジオは移動中も仕事があるので剛力な竜と一緒に続く。
歩きながらオケアノにファラスの魔力の扱い方の授業をする。
最初は魔力を出して自由に動かす。それができるようになると、切り離して操作できるように訓練。
どこまでできるようになるかな? そう思ってオケアノには魔力を出して伸ばしたり動かしたりして見せた。
「魔力ってそんなことできるの?!」
「これが最初で、次は切り離して消えないように制御するの」
切り離した瞬間に霧散する魔力を見てつぶやいた。
「できる気がしない……」
オケアノに魔力を操作して見せて「無言でもできるんだけどね、やっぱり口に出した方が意識はしやすいよ、火」
火の玉を操作してみせるとやる気になったらしく段々と歩く速度を落としながら魔力をうねうねと伸ばし始めた。
「魔力だけどうにかしようとしたことなんてないからすごく難しい……」
そういいながらも切り離して消える炎を見てため息をついた。
日が頂点に昇る頃、疲労を抑えるために休憩を取ることにする。
今度はハビエルやエッジオ達に扱いを教えなくてはいけない。
魔力操作をするオケアノを放っておいて、食事の準備をする前に少し離れた所に1人1人呼んでハビエル達にうっすらと魔力を流して魔力を感じてもらう。
魔力が流される不快感で顔をゆがめながら、声を出すのは格好悪いと思っているのか、体を震わせて我慢していた。
魔力の出し方から動かし方、そして最後は切り離して自由に操作できるようになること、と説明して休憩中にでも練習しておいて、と1人ずつ説明してはそう言いつけて次に行く。
私も召喚されて初めはこんな感じだったな、とハビエル達の苦戦している姿に懐かしく思い出した。