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魔法屋に行ってみよう

 魔法屋の重そうな鉄の扉に手をかけ、押してみるとびくともしなかったので、全体重をかけて引く。

 ぎぎぎ、と扉が軋む音がして扉が開き、扉の隙間にするりと潜り込んで建物の中に入るとふかふかの絨毯が敷かれていた。

 柔らかい絨毯は足音を消すのが目的なのか、奥の方で黙々と事務仕事をしているのが見える。

入って左側に小さなカウンターがあり、カウンターの中でもフードを目深に被った老人が座って仕事をしていた。

 カウンターに座ると目だけでこちらをみて「御用は?」とだけ口にした。

「魔法を習得したいのですが」

「炎の魔法を習得するのであれば次の段階も炎しか習得できない。氷を使いたい場合は、氷も一番下から習得してもらう。これが魔法のリストだ」

 ぶっきらぼうに説明をして、料金と種類が書かれた羊皮紙に書かれた料金表を出して示した。

 生活に便利な魔法なら大銅貨1枚程度、攻撃魔法の最安値は銀貨2枚から。


「じゃあ、一番下の4属性全部ください」

「そう、慌てるもんじゃないよ、お客さん。魔力がなくなってしまったらその場で習得失敗だ。いくら自信があっても、もう少し慎重になった方がいいぞ」

「出直しになってもまた払えばいいんですよね? であれば、まとめてやらせてください」

「どんなに自信があるかわからないけど、最初に痛い目にあって置くこともいいだろう。1段階目の魔法1つ大銅貨1枚、4属性分、あとは奥の部屋の使用料で大銅貨1枚。合計5枚だ」

「あ、はい」

 カウンターに大銅貨を並べる。

 受けつけの老人は大銅貨を回収するとローブの中に手を引っ込めてどこかにしまい込んだ。

「ついてきなさい」

 カウンターに入る扉を開けて私を呼んだ。

 私より少し背が高いので大人の男としては背の低いだろうと思われるローブ姿の老人の後をついていく。

 建物の奥にもう1つ部屋があるのかと思ったら、奥は下へ下る階段がある。

「岩山をくり抜いてあるんですね!」

 ひんやりした壁を撫でながら思わず口にすると、無駄口はきかぬように。と一言だけ返事が帰ってきた。

 壁を撫でるのをやめて口をつぐんでゆっくりと歩く。


 足元だけ薄い明かりで照らされた薄暗い階段を老人についていくと、シューティングレンジの様な細長い部屋についた。

 ここは明かりが灯され、奥の壁の目の高さの位置に丸がたくさんかかれた的のような絵が書かれていた。

「ここは魔法の習得を行う部屋だ。大魔法を使っても威力を低く抑えるようになっている。利用料は習得する魔法のランクに関わらず大銅貨1枚で習得するか諦めるまで使える」

「あー、普通は1つの魔法で使用料1枚なんですね。なんかすみません」

黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)の常識の無さには慣れているからな、次からは砂時計をひっくり返すごとに銅貨を取ろうかと思っているところだ」

「大銅貨じゃないんですね」

「儲けるためにやっているわけではなく、魔法ギルドは魔法の深淵を伝えるためにあるのだよ」

「そうですか、こちらとしても専有していると言われるのも心苦しいので時間制にしてもらえると助かります」

「払う方がいいとは、変な女だな」

 面と向かってそんなことを言われて鼻白むが特に気にしていないようだ。

「さあ、来なさい。これより略式の入門の誓いを行う。導くは導師クレフ。新たな弟子は……キオル」

 そう言ってフードを取ると灰色がかった青い髪の老人が顔を見せた。

 髪の毛と同じ色のヒゲを蓄えた深い皺が刻まれた60代、と言った風貌で鋭い目が閉じられた。

「すみません、カオルです」

 小声で訂正したが無視された。


 それから魔法使いとしての高みを目指すことを誓わされ、やっと魔法の習得が始まった。

 クレフの隣に立たされ、呪文を習う。

「1段階目の魔法は魔法の素養があれば特に必要なことはないのでその名を唱えよ、炎の礫(ファイアシュート)!」

炎の礫(ファイアシュート)!」

 眼の前に現れた野球ボールくらいの炎の玉は、形作った瞬間発射されて的に当たって弾けた。

 魔力を込めることもなくずるりと引き出される違和感を覚えた。

炎の礫(ファイアシュート)! 炎の礫(ファイアシュート)!」

 再び使ってみると、全く同じだけの魔力が引き出された。

 威力を上げようと魔力を多めに込めて使ってみると、溜まった中からやっぱり少しだけ引き出されて全く同じ威力の火の玉が発射された。

 アレンジも利かなければ威力も変えられない。

 威力も低いし、使い道がない、と驚いた。

「嬉しいのはわかるが、そんなに空打ちして魔力が尽きてもしらんぞ」

 その後、同じ様な氷の塊を飛ばす氷の礫(アイスバレット)、魔力をまとった風の刃を飛ばす風の刃(ウィンドカッター)、ゴルフボールくらいの石を作って飛ばす石礫(ストーンバレット)を習得した。

 どれもこれも使い物にならなそうだ。


「1段階目はこんなもんだろう、まだ使えるがどうする?」

「もう覚えたので大丈夫です。ありがとうございました」

 ふん、と鼻をならすと入口に向かって歩き始め一緒に出た。

 カウンターの表にでて、クレフが受付につくのを確認して話しかける。

「あの、2段階目を覚えたいのですが」

「さっきの今でまだやるつもりか!」

 ぎょっとして怒られた。


「いや、あの、まだ余裕があったので……。その分部屋の使用料払うので、だめですかね?」

「今日はまあ、いいだろう。2段階目の魔法は銀貨1枚、1つにつき大銅貨1枚」

 気が変わらないうちに払ってしまおうと銀貨4枚と大銅貨4枚を取り出してクレフの前に積み重ねた。

 チャラチャラ、と持ち上げて1枚ずつ落としながら枚数を数えると、ため息をついてついてきなさい。と歩き出した。

 2度目にして慣れたものでクレフの後ろを歩いて魔法を覚える部屋に行く。

 2段階目の魔法は4つ。

 3本の炎の矢が狙った敵を焼く炎の矢(ファイアボルト)

 3本の氷の矢が狙った敵を貫く氷の矢(アイスボルト)

 3本の不可視の風の矢が狙った敵を切り裂く切り裂く風(ウィンドエッジ)

 3本の石の矢が狙った敵を打ち砕く打ち砕く石(ストーンキャノン)


 どれもこれも1度で使えるようになり、1段階目の魔法の5倍ほどの魔力が吸い取られた。

 ここでやっと気づく。

「RPGか……。それなら、これを作ったのも召喚された現代人ということか」

「何を一人でぶつぶつ言っているのか」

「いや、そうですね、大丈夫です」

「で、表にでたら今度は3段階目を覚えたいというつもりかね」

「あー、その、できたらお願いしたいなぁ~、と」

 クレフは、はあ~と長い長い溜息をついて

「常識はないが礼儀知らずではないらしいな。いいだろう。私かそなたのどちらかが力尽きるまで付き合おうじゃないか」

 ニヤリとしてカウンターまで戻り、クレフのお茶を飲んで待ってもらいながら料金表を見ながら8段階目まで覚えようか、思案する。

 金貨6枚半くらい、なら払えなくもない。

「7段階目までお願いできますかね?」

 クレフは口に含んだ茶を吹き出し怒り出した。

「殺す気か!」

「えぇ?! そんなに魔力使いますか?! どこまでならいけますか」

「5段階ってところだな」

「じゃあ、今日のところはそれでお願いします」

「どれだけ自信家なんだ、おぬし」

「いやいや、量だけは多いんですよ」

「そうか、おぬしには何を言ってももう無駄な気がしてきたわい」


 3段階目は身体強化系魔法の初級、これもやらなければ中級も覚えられないらしいのでしょうがなく、使ってみる。

筋力向上(小)(レッサーストレングス)!」

 うっすらと身体強化がかかった感じを味わい、増やすことも減らすこともできない不便さに閉口する。

あと2つ、防御力向上(小)(ガーディアンフォース)と、剣を借りて攻撃力向上(小)(バーンエッジ)をかけてみる。

 自分にもかけられて人にもかけられるらしいが魔物と戦うならかけてもかけなくても変わらなそうだ。

 これなら忘れてしまっても問題なさそう。



「第3段階わかりました! 次いきましょう!」

「はあ、覚えて帰るだけのおぬしと違ってまだ仕事があるんだからな?」

 指先に出現させた電撃の槍を投げ飛ばす電撃の槍(サンダーランス)

 指先に圧縮した魔力を集めて直接的にぶつける魔力弾(マジックバレット)

 第4段階までの魔法攻撃を防ぐ魔力障壁(弱)(マジックガード)

 指先に集めた水を高圧の鞭にして標的を打ち据える水の鞭(ウォーターヴィップ)


 やっと使えそうな魔法がでてきた。が、やはり威力調整なんてできないので使い道にこまるなぁというのが正直な感想。

 威力の調整は効かないし、いちいち指やら手をかざさなければいけないのが良くない、格好はいいのだけど。

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