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精算と報酬

 木に寄りかかって俯いて寝たおかげで今度は首の痛みで目を覚ました。

 固まった首の筋肉を解すために周りを見回してみると、そろそろ起床の時間らしく、起きてストレッチしている人やまだ寝ている人がいたり、そんな時間だった。

 エッジオは1人先に起きて火の準備をして干し肉を戻して簡単なスープを作っていた。

 おはようと声をかけ火に当たる。

「おはよう、カオル。すぐ用意するから待っててくれ」

 荷物から木のスープ皿と堅パンを出して朝食の用意をしてくれる。

 ナイフで切れ目を入れた堅パンを焚き火で炙ってスープが入った皿と一緒に差し出された朝食を受け取った。

 少しずつちぎりながらふやかしたパンを食べ、残ったスープを飲み干した。

「ごちそうさま、水で洗ったほうがいい?」

「いや、ここらの砂は綺麗だから砂をまぶして乾かしてから布で拭くだけで大丈夫なんだ」

 木の皿を拭く布は砂をはらうための布だったか。


 ペドロの所に様子を見に行ってみるとすでに起きて朝食も終えたペドロ達が帰り支度していた。

 木にもたれかかって眠るように息絶えたベルニの元に行き手を合わせた。

「何してるんだ?」

「私がいた所では死者を送るときはこうするんだ」

「そうか」

 ペドロはそういうと私に習って手を合わせた。


 撤収準備を手伝い、ハビエル達の元へ戻るとすでに食事を終えエッジオが撤収準備が終わっていた。

 ペドロ達のところはもう少しここで休憩してから帰るらしい。

 待たせたようで申し訳ない。

「もう今日は撤収でいいよな?」

 ヨンが文句は言わせないと撤収を提案する。

「ええ、ええ。いいですよ」

 もちろんですとも。


「しかし、2日で砂狼(アル・ロッブ)の毛皮と魔石が10は中々実入りがいいんじゃないか?」

 ホルヘがたいした活躍もしていないのに機嫌良さそうに言った。

 人が死んでるんだから! と止めようと思ったがだれも気にしていないようでガサツというか、無神経というか周りへの配慮がないことにストレスを感じる。

 とはいえ、付き合いが長そうなルベン達も普通に帰還準備して気にしていなそうなので間違っているのは私の方なんだろう。


「何枚かは頭部が焼け焦げてるが体に切り傷がないからどう査定されるかだな」

 ヨンがエッジオが剥いだ皮を思い出しながら皮算用しているようだ。

 7人で分けてしまうと手元に来るのは大した金額にならないんじゃないのかね?

 そんな話をエッジオに帰りの道すがら聞いてみると、砂狼(アル・ロッブ)なんて6人が全力で当たって2頭狩れば運が悪ければ死人がでることもあるし、けが人がでてせっかくの儲けが吹き飛ぶなんて当たり前にある。

 難易度の高く、リスクに見合った報酬が出る獲物なのだから、それが10頭分、そこまで危険にさらされることなく手に入れられることができたのはすごいことだよ、と教えてくれた。

「5人で6頭の砂狼(アル・ロッブ)なんて文字通り全滅だからね、普通」

 そういうと、エッジオも追加報酬でるかな、なんて夢想して、ホルヘとヨンは武器を新調して夜のお店に行こうなんていうのが聞こえ、フアンも口は開いてないが弓の手入れをしながら歩く様が楽しそうに見え、みんながなんだか浮足立っているように見える。

 

 警戒しながらバドーリャまで、私の緊張は全く無駄になってしまったが無事にたどり着き、馴染みの店に通りかかると後でいくよなんて挨拶して上機嫌に黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)に帰還する。

 受付のテーブルにどかどかと砂狼(アル・ロッブ)10頭分の皮やら魔石やら肉を乗せて、討伐完了と毛皮の納品を伝えると

「精算するのでお待ち下さい」

 と、鑑定のため、魔石と毛皮、肉を持って奥に行った。


「あーやって奥に行かれるとなんか細工されてる気がしてイラっとするよな」

「そんなわけあるか、だったら問題になってるはずだろ?」

 不満をいうホルヘに諫めるヘスス。

「信用問題になるのでそこは厳しくやらせてもらってます」

 鑑定を終えた受付嬢が音もなく現れ、感情を表さずに一言釘を刺し、ホルヘが驚いて謝る。

「あ、はい。すみませんもういいません」

「では、1人ずつ呼ぶので来てください、カオル様」

 はーい、とテーブルにつく。


「初めてのリーダーお疲れ様でした」

「いえいえ、大したこともできずに」

「あなたがリーダーになっていきなり狩猟の成果が10倍になったのですから」

「そういわれると確かにそうなのですが」

「報酬ですが、こちらが成功報酬の銀貨2枚と大銅貨5枚、討伐報酬の銀貨1枚、毛皮と魔石で銀貨30枚です」

 事務手続きが終わり、合計37枚の硬貨が積み上げられた。

 今日は仕事をするつもりがなかったので手ぶらで来てしまっていたため、そんな大量の硬貨を持ち帰る準備ができていなかった。


「大銅貨1枚ですけど、袋、入りますか? それとも預けますか?」

「銀貨5枚と銅貨を手元に。残りは預けます」

 遠くから貯金するくらいなら1杯おごってくださいよー! とやじが聞こえた。

 聞こえなかったことにして受け取った麻の袋に報酬の硬貨をカウンターから流し込むように収めて口をきゅっと閉めた。


 ハビエル達が待っているテーブルに戻ってくると、次はハビエルが呼ばれた。

「この後は?」

だれともなしに聞いてみると、ヨンとホルヘは「へへ、そりゃあなあ」と言って言葉を濁していたのでそういうことなんだろう。

 ヘススはハビエルとフアンの3人で飲みに行くと言っていた。

 エッジオはいつもはまっすぐ帰るんだけどね、ボーナスが出たらどこか行こうかな、と言っていた。

 砂狼(アル・ロッブ)10頭のインパクトは相当なもののようだ。


「へっへっへ、遊ばなきゃ2、3ヶ月何もしなくても暮らせるんじゃなねえか?」

「飲みにいかねえなんてできるわけねえじゃねえか、もって1ヶ月だな」

 ハビエルが腰の袋をぽんぽんと叩いて戻ってきて、ヨンが呼ばれ、すれ違いざまに突っ込んでいた。

 ヨンが戻ってくると武器を直してもお釣りが来ると喜んでいた。

「あ、あの。私のミスで壊してしまったので修理代払いたいのですが」

「几帳面なやつだな、ありゃあ、おれが変な場所に置いたせいだからな、嬢ちゃんは気にしなくていいさ」

「それではこちらの気も済まないので」

「じゃあ、半分でいいさ。たぶん銀貨2枚もしないだろう。刃は無事だったしな、銀貨1枚だ」

 麻の袋から銀貨を取り出してヨンに渡すと「変なリーダーさんだよ」と呟いた。


 それから1人ずつ呼ばれて報酬をもらい、何を買おうか話し合いというか、雑談というか。

 私は欲しいものはなかったので参加せずにぼーっと眺める。

 そうしてるうちに全員に報酬は行き渡り、自然と如何わしい店に行く組と飲みに行く組と帰る組に分かれる。

「リーダー、次の仕事はどうする?」

「毎日じゃないんですね」

「毎日仕事するとか死んじまうわ」

「じゃあ、3日後くらいでどうですかね」

「それだとおれの斧の修理が間に合わないから7日は見てほしい」

「そうですか、それなら8日後の朝、ここで」


 解散になって昨日帰る予定だって言ってたことを思い出し、申し訳ない気持ちになる。

 ギルドからの帰りの道すがら休みの予定について話を振ってみる。

「エッジオは次の仕事までどうするの?」

「僕ぁ、明日休んだら短気の荷運びかな? そろそろピエールフも退院できるらしいからね」

「そっか、無事でなにより、私は基本的に遠出しないから何かあったら声かけて」

 私の家の前で分かれて後ろにいるエッジオにひらひらと頭の上で手を振った。


 ポケットから鍵を取り出し差し込んで回すと、がちゃりと大げさな音を立てて解錠された。

「おかえりなさいませ」

 奥から慌てたようにパタパタと足音をさせてニコレッタが出迎える。

「ただいま、昨日帰るようなこといったのに帰らなくてすみませんね」

「いえ、お戻りにならないので心配していましたが無事で安心しました」


 ダイニングのテーブルに腰をかけると頭に巻かれた長い布を外す。

 汗で張り付いた髪をくしゃくしゃっとしてほぐすと空気が入ってすっきりする。

 そういえば巻かれた布はそのまま枕になるというのも新しい発見だった。

「お召し物もお脱ぎください」

「え? まだいいですよ」

「汚れていますし、その、砂が落ちますので」

「そうですか、そうですね」

 浴室に移動してから服を脱いでニコレッタに渡した。


 ニコレッタがお手伝いしましょうか? と声をかけようとした瞬間、大きなたらいいっぱいくらいの量の(アグーラ)を出して頭から浴びた。

 ニコレッタが手を出すべきか悩んでいる間に、濡れた髪をがしがしと指先で地肌をマッサージして、汚れと脂を浮かせて再びざばあっと(アグーラ)を浴びる。


「あ、石鹸買っておいたのですが、使われますか?」

「あ、はい。どこですか」

 顔に張り付いた髪の毛を手ぐしで書き上げるとニコレッタが手渡してくれた。

 さっさと出ていくのかと思ったら脇に立っていたせいで、裾にちょっと水しぶきを浴びてしまったニコレッタと、裸の私。

「お、お手伝いします」

「いやいやいやいや、大丈夫です。恥ずかしいので出ててもらえると」

「そうですか、失礼します」


 ニコレッタは使用人に見られて恥ずかしいというのも初めて言われたことだった。

 見せつけてくる中年か、存在を無視されることしかなかったので新鮮味を感じるが、使用人としてこんなことではいけないのではないか、とこれからどうしたらいいか悩みながら夕食の準備をしに台所へ向かった。



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