調理器具兼防具
「そろそろ食らってくれて終わらせようや」
「私の拳の威力とか気になりませんかね?」
「それはこんど砂獣にでもやってくれや」
「うあっと、残念です」
喋りながらというのは意外と目の前に集中できないものなのだな、と改めて1つ学び次の攻撃を転がって避ける。
その時だれにも聞こえないようステロスを唱え不可視になる。
「なっ! どこに消えた!」
どこにも消えていないのだけど、初めて見るときっと驚くだろう。
私からも見えないけどだいたいの位置はわかる。
ハビエルが同じことを考えて適当に殴りつけられたら感知するとなくクリーンヒットするのだけど初見ではきっとわからないだろう。
私も私で時間がたつと正確な位置がわからなくなってしまうので『いる』であろう場所を蹴り抜いた。
途中で足にあたった感触を感じそのまま押し込む。
どこにあたったかわからないけど私の肩の辺りの高さを蹴ったので腹より上のどこかだろう。
ハビエルのうめき声とハビエルが転がった音を聞き、ステロスを解除した。
「出てきた!」
私の目の前には見学していたはずのイレーネがいつのまにか延し終えたのかイレーネの部下が転がっている光景が広がっていて私はハビエルを探してキョロキョロと辺りを見回した。
私の斜め後ろに転がったハビエルを見つけ、なるほど蹴り抜いたからかと納得した。
「どうです?!」
「わかったわかった、お前の勝ちでいいよ」
思わず腰に手を当ててふん! と強く鼻息を吐いた。
「ずいぶん時間かかったな、理由は想像つくが」
ロペスも早々に自分の部下を転がして見物をしていたらしい。
「怪我させないように魔力を調整して逆に怪我させちゃったね」
「向こうの魔法は使えないから自分のものならいいだろうと閃いた」
「いや、まあ、そうなんだけど」
「全部一撃で終わらせれば早いし怪我もなかったんだがな」
「だってほら、力の加減未だにわかんないしさ」
やっぱりここでもダメ出しをされてしまった。
ちょっとだけ落ち込んだけど、いつものことだと開き直ることにしてカバンから2級の飲み薬を取り出して班ごとに集まっているハビエルの所に向かう。
「怪我大丈夫ですか? 飲み薬あるんで、どうぞ」
「おう、最後のありゃあ、なんだ?」
「あれは私が作った魔法です」
「なんだそりゃ、魔法は魔法屋で買うもんだろう?」
「たまたま作れたんです」
「そうか、よくわからんが飲み薬はもらっておこう、リーダー。これからよろしくな」
「よろしくおねがいします」
休憩を取ったばかりなのにまた休憩が必要になってしまった。
ハビエルは飲み薬を飲み干すと左手の動きを確認してフアンやヨンに指示をだして子供の頭くらいの大きさの石を4個持ってこさせ四角形を作るように四隅において中心で火を起こした。
なにか儀式でもするのだろうか。
火を大きくした後、焚き火を少し動かして大盾を石の上に置いた。
鉄板っぽいと思っていたけど本当に鉄板なんだ! 表情には出さなかったがものすごく驚いた。
リーダーになったはずなのにできることもなく佇む。
まあ、いままでどうしてたか確認もなしに急に仕切れと言われても私には難しい。
「これって鉄板ですかね?」
「まあ、見ててくださいや」
痩せて背の小さい、なんといったか……、ヘススだ。ヘススが私の横でこれから休憩のついでに腹ごしらえをするんだと説明してくたがハビエルにさぼってんな! とどやされ作業に加わっていった。
影の薄かったエッジオは大きなリュックから色々と取り出しハビエルに渡している。
エッジオは荷運びとしてついてきていたらしい。剛力な竜は留守番だろうか。
鉄板の上で野菜や肉をナイフで切って端に寄せる間にヘススが強火にした側で調理を始めた。
野菜や戻した干し肉を炒めているとフアンがどこからかうさぎと少し大きな水鳥を持って現れた。
フアンは猟師だったらしい。
無言のまま無造作に鉄板の脇に置いて、あとはもう何もすることはないと言うように少し離れた所に座り込んだ。
するとエッジオとホルヘが皮を剥いで肉にしていく。
ぼーっと鉄板焼きを作っていくのを見守り、最後に平たいパンを鉄板で焼き目がつくまで温めてから半分に切り具を詰めて完成らしい。
「リーダーも、どうだ?」
「ああ、すみません、いただきます」
ぬっと目の前に突き出された肉野菜詰めパンを受け取ると1口頬張ってみる。
味がない。
そういえば調味料を使った様子はなかったものな。
期待した味と違う素材そのままの味を味わっているとイレーネやロペスの所でも同じものが作られていたようで、目があった時思わず苦笑いで通じ合った。
「外で有るき回るのに味付け薄いんですね」
「塩は安くないからな。ありゃあいいが、その分儲けが減る」
「あー、なるほど」
そう言われてしまうとまずいからどうにかしろというのはだったら自分で用意しろ、という話になる。
次は私が用意しよう。向こうでいう残業してると上司が栄養ドリンクを買ってくるようなものだと思えば。
薄味過ぎて辛い。
香ばしい堅パンと薄い塩味の干し肉のサンドイッチを食べ終え、ハビエル達旧リーダーと私達新リーダーの8人で集まってこれからの話をする。
主にハビエル達、旧リーダーの話の内容を聞くだけなのだけど。
「流石に26人で一度に歩いていたら出てくるものも出てこないな」
「班ごとに分けましょうか」
「そうするしかないだろうな」
「なら、一旦2つに分けて西と南に分かれてからその先で分かれて広い範囲を捜索するとするか」
「そうするか。森を囲んで中を捜索することにしよう」
ルイスさんの話では中々危険な魔物らしいので散開する前に保険はかけておきたい。
「あー、すみません。祈りを使っていいですかね?」
「祈り? お前巫女だったのか」
「巫女ではないのですが祝詞がいえます」
「ただのまじないか、まあいいか」
「時間は取らせないので」
そういうと魔力を込めてアーテーナに祈り、この場にいる全員に奇跡を与える。
戦と知恵の神、アーテーナ、強き心と剛力を汝の使途へ与え給え
魔の者に打ち勝つための御身の奇跡を
「お? ほんとに祈れるのか!」
「こりゃあ、すげえ!」
「勝手が違うんで少し動く練習してからにしてくださいね」
そう言った私の声が聞こえているのかいないのか、ハビエルを始め初めて祝福を受けた男達はすげえすげえ言いながら力比べをしたり飛び上がったりしてなんだかんだ体を慣らした。
その後、班ごとに集まって移動を開始する。
私の所はハビエルを先頭にヨン、ヘススが続き、後衛としてフアン、私、エッジオ、殿にホルヘが続いた。
イレーネの所も似たような隊形で、ロペスとペドロの所はペドロが殿に付き、ロペスは先頭のアルドに続いて前衛についた。
広めに取った隊列では近くにいるのは無口なフアンとエッジオ。
「いやー、急にいるんだもん。びっくりしたよ」
「僕だって! いつも通り荷運び屋やってたらカオルが来て殴り合い始めたと思ったら祝福するんだから驚いたさ」
「こればっかりはほんとになんでか」
「予想がつかない所がカオルらしいよ、でも荷運び屋の仕事も楽になったよ。ありがとう」
「どういたしまして、何一つ望んでないのに不思議だよね」
「お前らは、知り合いなのか?」
無口だと思ったフアンがぼそりと言った。
喋らないと思ってた人が急に声を出したので驚いてしまって返事が遅れる。
「ああ、そうなんだ。ボーデュレアから砂漠を越えてきたカオル達と知り合ってね」
「そうか」
それきり黙り込んでしまった。
無口というか無駄に喋らない人なのだろう。
それからエッジオとバドーリャについての話を聞きながら狩り場へと移動し、それぞれの班が自分の割当のエリアにつくと離脱していく。
最初にイレーネとロペスの班が分かれてペドロの班と少し離れてまた少し歩く。
「リーダー、おれらはあっちだ」
ハビエルが顎をしゃくって方向を変えた。
今更ながら群れを狩るのになぜ散開するのだろうと疑問に思いながらペドロに軽く手を上げて挨拶をして分かれた。