召使い奴隷と荷運び奴隷
昨日は思ったより飲みすぎたようで、朝まで部屋を温めて置くつもりで出した火が、魔力の込め方を間違ったかおもったより長持ちしなかった。
夜の寒さに叩き起こされてガチガチと歯を鳴らして起き上がって光を灯した。
1階に降りてトイレに行き、木戸の窓を開けてみると遠くに明け方の光が見えるところから朝には遠そうで外の風はひんやりと冷たく、家の中と外との気温差はないようだった。
どおりで寒いわけだ。
ぶるっと体が震えすぐには寝付けそうになかったので何かないかとキッチンを物色してみるが思った通りお茶を飲むにもポットもないしなんならコップもない。
いや、コップはあるか、私が持ってきたやつだ。
我慢して寝るしかないか、と肩を落として寝室に戻り、ベッドに腰掛けた所で思いついた。
石なら燃えないから熱を溜めて暖房にしたらどうだろうか。
幸いこの家は1階は石造りだ。なので素足で歩くと冷たすぎて体中の体温が奪われて死んでしまう気がする。
部屋の床に炎の矢を叩きつけて焼き石にして床に寝るよりましなベッドに横たわった。
野宿が続いていたので気にしていなかったけど、綿と草のベッドに比べるとファラスのベッドはいいものを使ってたんだなといまさらになって思う。
知ってたら担いで逃げることもきっと考えた。というのは冗談だけど、このマットレスは動くと下の方で乾いた草がカサカサ鳴るのだから。
そんなことを考えているうちに意識は遠ざかり、寝入る瞬間に明日起きたときに足やけどしないかなと一瞬よぎったがまあ、大丈夫だろうと意識を手放した。
目を開けてみると真っ暗な闇が広がっていて手を伸ばしても指先さえ見えない。
なんでこの家の2階は窓一つないのだろう。
光をいくつか出して四隅と中央に浮かべ昨日の恰好のまま1階に降りながら廊下と階段にもいくつか設置した。
1階に降りて台所に立っては見たものの、買ってきてないんだから食べ物がない状態では結局は外に買いに出なくてはならないということに気づいて巾着の中身を確認してイレーネの家に向かった。とは言っても隣に住んでいるわけで家を出て鍵をゆっくり時間をかけてしめても1分もかからない。
家をでて首をイレーネの家の方に向けるとノッカーで扉を叩いているロペスがいた。
「ああ、カオルか。ルイスさんに2人を呼んでくるように言われたんだがイレーネが出てこなくてな」
「昨日一緒にご飯食べに行ったからね」
「じゃあ責任をもって連れてきてくれ、飯も用意しておくらしいから」
そういうと手をひらひらと振りながら自分の家に向かった。
ドアノッカーを少し強めにダムダム叩いて反応が返ってこないのでさて、どうしたものか、としゃがみこんで考えていると、世話係がいれば起きるの待ちなんてこともなくなると思うと高々飯がまずいくらいどうでもいい気がしてきた。
そうだ、料理なんか教えればいいだけだし簡単なことじゃないか!
気を取り直して再びドアノッカーを叩く作業に入る。
ドアに寄りかかって片手で本を開きながら空いた手で一定のリズムでダン、ダン、ダンと叩いていると
「あれ、開かない」という声が中から聞こえてきた。
「あ、ごめん。寄りかかってた」
「どうしたの? 急ぎ?」
「召使い? 世話係? 的な人の紹介をするからロペスの家に来てほしいんだって」
そういうとものすごく面倒そうな顔をしたが朝起きられるようになるんだからいいじゃないかと心の中で答えて
「そういうことだからなるべく急いでね、ご飯は用意してくれるらしいから」
面倒そうな顔が嫌そうな顔に変わり思わず笑いそうになりながらイレーネの家をあとにした。
2軒戻ってロペスの家へ。
こっちはドアノッカーを鳴らすとすぐに見覚えのない女性が出てきて対応してくれる。
中に通されると椅子に座ったルイスさんの隣に初めて見る3人の女性と3人の悪そうな顔をした男が立っていた。
男の方は右手と右足、左手と左足を繋いで鎖がつけられ普通の人ではないことがわかった。
テーブルをはさんで向かい側に椅子が3脚。
1脚はこの家の主のロペスが使っているので隣の空いている椅子に腰を掛けた。
「イレーネは?」
「なるべく早く来るように言ったのでもう少ししたら来ると思います」
「朝弱いのだけは治らんなぁ、まあいいか。マリアローザ」
「はい」
「朝食を先にだしてやってくれ」
「かしこまりました」
ルイスさんの隣に立っていたマリアローザという青色の髪をした女性はお辞儀をするとキッチンの方に向かって行った。
「来るまでやることもないから先に飯にしよう」
しばらく待つと何かのスープの入った鍋と焼いた豚肉と濃い茶色のパンをもってマリアローザが戻ってきた。
「話しながら食べるつもりだったんだがイレーネは冷めたので我慢してもらうことにしよう」
スープ皿より少し深い皿に注がれたスープを一口飲んでなるほど、芋のポタージュか意外と美味しいな、と思いながらパンを半分に割るとちょっと硬くてぼそぼそと崩れる。
硬さは洞窟とかで食べるような堅パンよりはましだけど見た目通りぼそぼそで臭みがあって美味しくない。
なるほど、スープかポタージュでもないとどうにもならないんだな、とパンでポタージュを掬うようにしてふやかして食べる。
ポタージュは美味しい。
美味しくないのが表情にでていたのか
「やっぱり安いところで買ってくるとそんなもんだよな」
なんだか楽しそうにルイスさんが言った。
「もっといいパンがあるなら次からはもっといいものにしたいと思います」
「ああ、そうするといい」
後で紹介すると言うから放置してはみたものの、ルイスさんの隣で表情を動かすことなく立ち尽くす男女6人はやっぱり気になる。
「やっぱり名前だけでも紹介してもらっていいですか」
「まあ、いいか。こっちがロペスの所で住み込みで家事をやってもらうマリアローザ、あっちの男が通いで力仕事を任せるチェーザレ」
マリアローザはきれいな礼をしたがチェーザレはふてくされたように顎だけで礼をした。
「で、その隣がニコレッタ、あれがアンドレア」
ニコレッタはマリアローザの様に礼をし、アンドレアは小声でよろしくといって肯定するよりも小さく頷いて礼をした。
私のところに来るニコレッタは20代も半ばくらいの私より背が高く明るい青い髪をしたニコレッタとヒゲも髪の毛もぼさぼさで汚れすぎてて年なんかもよくわからないが20代~30代っぽい。背はロペスより小さいがルディくらいか?
あと、だいぶ臭う。
で、その隣がと言った所でドアノッカーの音が響いた。
「来たか」
「呼ぶにしても急ですよ」
そう不満を口にしながら入ってきたイレーネは私の隣に座りマリアローザから給仕を受けていた。
「イレーネ、こっちがエレオノーラ、あっちがデビス、エレオノーラは住み込みで家事をしたり留守の間の管理をする。デビスは力仕事があるときに用事をたのむから住み込みではない」
エレオノーラはイレーネに向かって礼をし、デビスは他のアンドレアとチェーザレに勝ち誇った様に笑みを浮かべ
「お嬢様、本日からお世話になりますデビスともうします」
口を開くと口が回る小者のような感じだったが、見た目は妙に体ががっしりしてなんだか見た目と性格にギャップを感じさせる。
犯罪奴隷の3人は薄汚れた灰色のボロを身に纏っていて少し臭うのが最初の印象だった。