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鮮度は悪くて当たり前

「それよりもピエールフのためにそちらのルディ君が利き手ではないといえ、戦士の腕を失わせてしまった」

「あれはルディが好きでやったことですから、きっと大丈夫じゃないですかね」

「そうね、それにその気になれば10級の飲み薬(ポーション)くらいどうにかするでしょ」

「砂獣に飲まれてなければ9級の飲み薬(ポーション)でくっつけられたのだがなあ」

「ロペス君、それじゃまるで9級の飲み薬(ポーション)は持ってるみたいじゃないか」

「いくらなんでも持ち歩いちゃいないさ。あれ、思ったより日持ちしなくてな。材料があればそこのカオルが作るさ」

 ロペスがそういうと、とんでもない物を見たような顔で私達の顔を見回し苦笑いして言った。

「やっぱりうちのギルドに来てほしくなってきたよ」

「凄腕の薬師を紹介したってことでギルドの貢献ポイント相当もらえるからな」

 貢献ポイントが溜まったら何があるんだろう、食器セットとかもらえるのかな。


「さて、じゃあそろそろハンター協会に行ってルイスさんかフェルミン辺りを呼び出してもらおうか」

「近くだけど案内するよ。じゃ、行こうか」

 エッジオが立ち上がり、リノさんは食器を片付けおれは寝るからよろしく、と言って奥に引っ込んだ。

 家を出るとエッジオは心配してないようなことを言うけどあれはあれで僕らのリーダーだからね、あまり弱みを見せないようにしてるんだ、冷たく見えたら誤解しないでくれよ。と、小声で囁いた。


 昼のバドーリャの街並みを改めて見るとお金のかかってなさそうな粗末な2階建ての住居や商店、屋台が立ち並んでいる。

 その中でも大きめの建物は安くて多い食堂なんだそうな。


 エッジオが「ここの通り平民が多く住んでて比較的安全でいいものを売る通りなんだ」という道案内で平民の道を歩く。

 焼いた串焼きの肉を売る店や、香草のスープを売る店、野菜を売る店、質の悪いナイフや剣を売る店なんていうことを先頭を歩くエッジオに説明してもらいながら人の波をかき分けて岩山の方へ歩く。


 店の前で大声でここの店は肉の鮮度はいまいちだがつけダレが絶品だなんていうのを店の人の耳に入ると怒られるんじゃないかと思い顔色を伺ってみると気にしていないようだ。

「鮮度が悪いなんて聞かれたら怒られるんじゃないですか?」

「鮮度がいい肉は上の方のレストランで魔法の氷室で保存されているものか運がいい時しか食べられないからね」

 鮮度が悪いのは当たり前のことらしい。

「カオルって時々変なこと気にするのよね」

「美味しい肉を食べるのに鮮度って大事だよ~、鮮度がいいまま保存できたら魚も食べられるんだよ」

 そうはいってもピンと来てもらえなかった。


 結局、美味しそうな匂いには抗えず、みんなで串肉を持ってハンター協会に向かう。

「ここは僕のおすすめの店なんだ」

 エッジオはそういうと全員分の串焼きを買い、全員に配った。


 スパイスとニンニクの香りが強い塩味の赤身肉は噛みごたえがあり、噛めば噛むほど旨味が出てくる。

 鮮度が悪いわけじゃなく、常温で熟成できているのか、つけダレに腐敗を防ぐ効果があるのだろうか?

 腐敗と紙一重の神業とも言えるようなことをしているのだろうか。


 イレーネとロペスも私が貰ったものとは違う串らしく、1串に4つ刺さっている肉の塊を色々な味を頼めるように1つ食べる毎に次に回していく。

 ロペスが貰ったものは癖のある豚肉のような食感の肉で臭みとタレの香りと調和し臭みも美味しさの一部として存在するようで、

 イレーネが貰ったものは硬い鶏肉を思わせる弾力のあるくせのない肉は後から尽きること無く脂の旨味が感じられた。

「お金は後でまとめて渡すよ」

「なんとか生きて帰ってこれたお礼に奢らせてくれよ。今回の荷運びは納期の前倒しでボーナスもでたのさ」

 ならば、遠慮なく奢られることにしよう。


 道案内してもらいながら改めてバドーリャを見上げる。

 大きな岩山に道を通し、道沿いに岩山を掘って家にしたものと、石やレンガを積んで漆喰を塗ったと思しき建物が隙間なく立ち並んでいるのが見える。

 エッジオの案内で岩山の螺旋の4層目にあるハンター協会にたどり着いた。

 彼がいうには、平民でも資産に余裕がある家は岩山の下層に家を持つことがステータスで、上層は昔から議会員や時を告げる魔道具を管理する刻時院の関係者といった有力者達が暮らしているため登ることすら許されないらしい。


 ハンター協会はこの岩山の下から2層目の道の岩山側に建てられ、山に建てられた家、というより岩山の壁肌から突き出した建物といった感じで2階建ての建物だった。

「わが町のハンター協会へようこそ!」

 ニッと笑ったエッジオがドアを押さえて通してくれた。

 中に入ってみると建物が石造りなのと窓が少なく光があまり入らないことと、まだ昼前だからかひんやりとしている。

 魔術の光で照らされたハンター協会の屋内には人はまばらで受付職員は暇を持て余しているようだった。


「すみません、連絡を取りたいギルドがあるのですが」

 白髪交じりの紫色の髪をした痩せた40歳前後の職員は元気と明るさという言葉とは無縁な態度でだるそうに座り直す。

「バドーリャのハンター協会へようこそー、ギルドへの連絡は大銅貨5枚でーす」

 銀貨を1枚出すと嫌な顔をして大銅貨15枚のおつりを返してくれた。

「えぇと、この紙にギルド名とギルド員の名前を」

 5センチ四方の紙と鉛筆が差し出されたので、ロペスが『黄金の夜明け団』『ルイス』と書いた。

「時間かかるからその辺に座って待っててー」


 先に座って待っていたイレーネとエッジオの所に行き、テーブルに突っ伏して寝ている人や何をするでもなくぼーっとする人を見回しながら腰をかける。

 ファラスであればちょっとした飲食ができそうな所があったのだけど。

 そう思って見回すと仕事の受注と報告くらいしかなさそうなこのハンター協会に6人がけテーブルが8セットも置く必要はないんじゃないかと思ったが、減らしてしまうと殺風景になりすぎるので間を埋めるためだけに置いているのかもしれない。


「ふえー、これで旅の目的が果たせると思うと肩の荷が降りた気分だわ」

「いつも通り年寄りくさいこと言ってるけどこれからここで暮らしていくことになるだけだからね」

「そうだ、ここに住むなら、ロペス君はひげを伸ばさないといけないな」

「エッジオもそうだけど、そういえばここの人ってひげの人多いね」

「そうなんだ、ひげも無いやつは信用もされないし、大人の男とはみとめられないのさ」

 剃る機会がなくて少し伸びたひげを撫でながらロペスは伸ばすのか……とつぶやいた。

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