ロペスを迎えに行こう
「すみません、なにかお茶を」
「ヴィッテ茶なんてどうだい、スッキリした香りとキリッとした苦味のお茶だよ」
「じゃあ、それで」
本の続きを読もうかと思ったが、椅子の木の板の硬さのせいで痛くなってきた。
昔はこんな事なかったんだけど、この体は小さいことで地味に不便を強いられる。
ぐっと背伸をして気分転換するついでにトイレに行き、戻ってくるとヴィッテ茶らしき壺がテーブルに置かれていた。
手の中に収まるくらいの壺に金属のストローが刺さったヴィッテ茶を飲む。
確かに臭いは爽やかで苦味が強い。
強すぎて口の中身が全部バラバラに分解して取れてしまいそうだった。
にがすぎて思わず眉間に皺を寄せて苦味を我慢してちびちびと飲む。
「そうそう、濃かったらこれで薄めるんだぜ」
お湯の入ったポットをドンと置いて店主は次の客の所に行った。
出し忘れか。
お湯を足し、先が茶こしになっているストローでかき混ぜて一口吸い込んだ。
やっぱり苦いが耐えられないこともない。
そう思いながら飲んでいたら苦味もあまり感じず爽やかな香りだけを楽しむことができるようになった。
ふと顔をあげると眠そうな顔で向かいに座るイレーネが目に入った。
「おはよう」
やっぱり朝が弱いイレーネは青白い顔をして亡霊のように座っている。
「はい、目がさめるよ」
ヴィッテ茶を勧める。
イレーネは重そうに体を操ると器を手前に寄せてストローを咥え、ヴィッテ茶を飲む。
少し熱くて苦いお茶はばっちりイレーネの目をさますことができたようで、もう少しで吹き出す所だった。
「なにこれにっがーい」
「ヴィッテ茶っていう爽やかで苦いここのお茶だってさ、お湯足してるからだいぶ苦味は薄まってるよ」
軽くショックを受けたようにうぇーという顔をして、一口だけ飲んでやっぱりうぇーという顔をした。
「そこからで気づくかわからないけど、朝食はにんにくたっぷりの卵焼き食べたから今この辺がにんにく臭がすごいことになっててさ。にんにくの臭い気にするなら外出たほうがいいかもしれないよ」
「にんにくかー、夜ならいいんだけど、朝は辛いかもなぁ」
「今日はだれにも会わないって決めたときに限ってお客さんが来たりね」
「あるよね、そういうこと」
「そろそろエッジオの家にも行きたいし今日はやめておくよ、出る準備するね」
階段をのぼるイレーネに手をひらひらとしながら少しでも薄めないと、とヴィッテ茶をがぶがぶと飲み干す。
にんにく成分を薄めるためにがぶがぶとお茶と水を飲んだおかげでたぽたぽになってしまったお腹を抱えてイレーネと一緒に朝食を探しつつエッジオの家に向かう。
宿があったのは下から大体3層目くらい。
岩山を削って1枚の石畳と化した岩山の道を通って下っていく。
岩山の途中では歩きながら食べられるような物を売っているような店を見つけられず、岩山を降りた所で屋台があちこちにあった。
「お嬢さんたち観光客だね! バドーリャに来たらこれたべなきゃ! 注文の仕方がわからないならおすすめでサンドするよ」
なんていうのでバドーリャならではのなにかを挟んだサンドなのかと近寄ってみると、確かに美味しそうな匂いをさせるパンと鍋で煮込まれている具と新鮮そうな野菜が所狭しと並べられていた。
「お腹すいたからこれたべよ、おすすめでお願いします」
いよいよ限界になったイレーネは人差し指を立てておすすめを注文すると、店主のおばさんはあいよ、と威勢よく返事をしてひょいひょいと手早く何かのサンドイッチを作った。
作る間にトマトの様なタタンプをいれないでほしそうにしてたが口を挟むスキを見いだせずに完成してしまった。
「食べてみると普通なんだけどやっぱり真っ赤なのって気持ち悪いよね」
そうだね、とは返事しておいたがやっぱり紫色のトマトのほうが気持ち悪いと思うのは仕方がないと思う。
エッジオの家に着くと、ノックをしてみる。
中からはいはいはいと声が聞こえ、勢いよくドアが開けられた。
あと半歩前に出てたら鼻が潰れてしまうところだった。
「カオルにイレーネ嬢! もう大丈夫かい? 僕も昨日やっと動けるようになった所さ。ロペス達も戻ってきてるから入るといいよ」
ドアを開けて私達を迎え入れてくれた。
「やあ、ロペス。ずいぶん遅かったね」
「ああ、ひどい目にあったよ。あの後小型の砂獣の群れに襲われてな」
砂犴という砂漠に住む犬に似た獣の群れに襲われ、リノさんと協力してなんとか撃退してここにたどり着いたらしい。
風呂に入ってよく寝たようだが、服は砂まみれで洗っていないが砂漠の乾燥した空気のお陰で嫌な臭いが発生しづらいようだ。
数日ぶりに会った友人の顔をみてえづかなくて済むのはありがたい。
エッジオに案内されて中に入るとリノさんとロペスがテーブルでお茶を飲んでいた。
空いた皿を見るにどうやら朝食後に来たようで、いいタイミングで来たように思う。
イレーネと一緒に勧められるままに一緒にテーブルに付き、黄緑色のお茶が出してくれた。
ちょっと汚いものを思わせるそれをイレーネは気にせず飲んでいたので、飲めるんだこれ。と心のなかでつぶやき恐る恐る口をつけた。
「剣が通ったから足を引っ張らずに済んだが、魔法があるというのはすごいものだね」
ロペスがかけた防御力を上げる魔法は砂犴から身を守り切れ味を増す魔法は毛皮を容易に引き裂いて無傷で撃退することができたと、今体験したことのように興奮して言った。
それを聞いたエッジオは得意げな表情を満面に浮かべ
「だから、カオルにはうちのギルドに来てほしいとお願いしてるのさ。カオルが来ればイレーネ嬢もロペス君も来てくれるだろう?」
「私たちは行く先が決まっているって断っているところだけどね」
「そうだぞ、ロペス達は黄金のなんとかという所に行くんだ」
「わかるけどね、一緒に仕事をしたいと思うのも自由じゃないか。
で、話は変わるがルディ君とピエールフのことだが、もう傷はふさがって血もだいぶ回復したそうだが失った体を元に戻すには高位の神官を呼んでくるか神官と同じくらい高位の飲み薬を手に入れる必要がありそうだ」
ルディはまあ、身体強化があるし、盾代わりに肩から肘までのプレートでも作れば剣を振る片手があればどうにかなるだろう。
10級の飲み薬があれば欠損も治るらしいが残念ながら私達は9級までの作り方しかしらない。
「輸送隊は足は義足でも仕事には影響はないからな」
リノさんはあまり心配していないようで不思議に思っていると顔に出ていた様で、
「どうした? カオルちゃん、そんな顔して」
「いや、足無くしたのにあんまり心配してないなぁって思って」
「あの砂漠じゃ砂獣に一飲みなんてザラだからね、命があっただけ幸運なのに義足さえ付ければ仕事も続けられるんだ。むしろ生き残ったからこそ幸運の男として仕事が増えるかもしれないな」
リノさんはエッジオの話を聞きながら仕事が増えるのが嬉しいのか、あごひげを撫でながらうんうんと満足気に頷いた。
よくわからないがそういうことらしい。