急な遭遇は意外と動揺する
テントの日陰で凍える風を浴びながら干し肉をかじっているとルディとピエールフさんはフードを目深に被って、足運びの練習をし始めた。
元気だなぁと関心して岩に寄りかかって仮眠を取ることにした。
どのくらい寝ていたか。
まだ頂点に届いてないのでそんなに時間経ってないはず。
そう思いながらテントから出て見張りの2人を探す。
長脚種の近くにもいないし、見渡す限り隠れられるのは岩があるくらい。
岩の向こう側にいるのかな、と思って岩肌を左手で撫でながら歩いて行く。
「すごいな! 魔法ってこんなこともできるんだな」
「でもおれもロペス達に比べたらまだまだだからさ」
ルディとピエールフさんの話し声が聞こえる。
2人は岩陰で砂を掘り日陰を作って話をしているようだった。
そんな所で何してるの? と声をかけようと近づくとピエールフさんがルディの唇を奪った場面に出くわした。
思わず声をあげそうになるのをこらえて少しずつ下がりながら成り行きを見守る。
無理にされているようなら助けに行かないと、と思ったが身体強化使えるんだから嫌なら自分で引き剥がすか、と妙に冷静な気持ちになりテントに戻ることにした。
「髭って結構くすぐったいんだね」
「剃ったほうがいいかな」
「どっちでもいいよ」
なんて話しが聞こえてきて。
こっそりテントに戻り、改めて寝ようとしたけれどもさっきの光景が頭をちらついて中々眠れそうになかった。
友達のキスシーンというのは思ったより動揺させるらしい。
私もまだまだだな、そう思いながら寝るのを諦めてテントの中に凍える風をばらまいて暇をつぶした。
「ピエールフ探して近く通ったら冷気が流れて来てて気持ちよさそうだな」
外から顔だけをひょっこり出したエッジオが入れてほしそうにしていた。
「ピエールフさんはルディと一緒にいたのをさっき見かけたから入るといいよ」
ルディの邪魔をさせないようにテントに迎え入れると、凍える風を強くした。
「ああ、これは快適だ。一家に1人カオルちゃんがほしいな」
「私じゃなくて魔法使いだよ」
「でも特別魔力が多いんだろう?」
「人よりちょっと多いだけだよ」
寝ていたはずのイレーネとロペスが示し合わせたように一緒に嘘だ、と言って起きた。
「イレーネとカオルが特別なんだ」
「あたしは普通です」
「四六時中身体強化したまま過ごせるのはお前ら2人くらいなもんだ、ほんとにいつ回復してるんだ?」
「え? ロペスだってやる気になればきっとできるよ、自分を信じて」
「無理だ無理だ、途中で気絶するのが関の山だ」
「僕も魔法使えるようになりたいもんだね、キッチンが歩いてるようなもんだろ?」
「たしかにナイフの切れ味も自由だし間違って手を切っても簡単に傷つかないな」
「暑くなれば冷たい風もでるし、寒くなれば温かい風もでるし、なんという便利さ」
「一家に1人奴隷のように働かないといけなくなりそうでぞっとしないね」
「持つ者というのはいつだって孤独で大変なもんだろう?」
偉そうにそう語るエッジオも魔法を使えるようにしてこき使ってやりたいと思いながら
「わかってる風に言うもんだな」
「持たざるもんだからね、持ちたいと思ってしまうとつい意地悪を言ってしまうのさ」
ぬっとテントに顔を突っ込んできたリノさんがエッジオにそういうとエッジオは悪びれることなくそう言った。
「すまないね、お邪魔させてもらうよ」
リノさんがテントに入ってきて一緒に冷気を浴びて一息つく。
「どうだい? 涼しいだろう?」
エッジオが自分の手柄のようにいう。
「確かに一家に1人と言いたくなる気持ちはわかるな」
そう言ってロペスが差し出した水のマグカップを受け取った。
ふと誰も口を開くのをやめた一瞬、遠くから悲鳴が聞こえ、顔をあげるとリノさんとエッジオが顔を見合わせてテントから飛び出して行った。
「砂獣だ! ルディ君とピエールフが危ない!」
私達も慌てて後を追う。
さっき見かけた大岩の裏まで走ると砂地を真っ赤に染めてぐったりとしているピエールフさんと同じく血で染めながらうめいているルディを見つけた。
ロペスがルディを抱き上げ呼びかける。
「ルディ!」
「下から……でかいのが……気づいて突き飛ばしたんだけど……左腕をやられた」
そういうルディの腕を見てみると肘から先がなくなっていた。
「エッジオ! ルディが!」
「ああ! ピエールフは足をやられた! 手足で済むとは運がいい!」
「砂鮫だ! やつはまだ近くにいるはずだ! 応急処置をしたい。岩の上に運ぶんだ」
ロペスがルディを抱きかかえると、私にピエールフさんを頼む、と言って大岩を駆け上がって行った。
ぐったりするピエールフさんを担ぐとロペスを追って大岩の上に登った。
地面がしっかりしてたら飛び乗れて手間も少なかったのだけれども。
「岩の上は暑いな、カオルちゃん、岩を冷やせるか」
「ロペスとイレーネ、水を」
リノさんとエッジオが切断された手足の根本で止血をする間、ロペスとイレーネには水をかけて冷やしてもらい、あっという間に温まって乾いていく水を氷結の蔦で大岩全体を包み込むように氷の蔦這わせるが、熱であっというまに溶けて消えていく。
触れるだけで火傷をしそうなほどに温められた大岩は私の氷の蔦とロペス達の水で徐々に温度を下げて行く。
なんとか寝かせてもいいくらい下がった所でルディとピエールフさんを岩の上に寝かせると、エッジオは長脚種達を逃して方角を確認し、テント生地を手に戻ってくる。
ロペスとエッジオが端を持って岩の上で影を作り、ルディとピエールフさんの様子をみた。
「血を多く流したようだがなんとか大丈夫だろう。それより砂鮫をどうにかしないと移動ができない」
「どんなやつなんですか?」
「砂の中を泳ぐ鮫だな、4つに割れる顎を持っていてなんでも噛みついて食いちぎる。弱点は寒さ、夜になれば体が動かなくなるらしく巣に帰る」
「それで氷食べたら逃げていったのか」
「あとは目はほとんど見えないが耳がいい、砂を歩く音を聞いて襲ってくる」
人の頭より少し大きいくらいの氷塊を作ると、大岩から落として見る。
同じ大きさで作るよりものすごい量の魔力を持っていかれた。
氷結の蔦を使い続けたのもあってか、ちょっとだるさを感じた。