砂嵐の過ごし方
その後もバドーリャのハンターの仕事の話をしていると日の出の時間になった。
私とルディは身体強化のお陰でまだまだ活動できるけど、できるからと言って無理をして無理しなきゃいけない時に動けないんじゃ話にならない。
それに、魔法が使えないエッジオ達には睡眠が必要なので朝食もそこそこに仮眠を取る。
「ねえ、カオル」
「どうした少年」
「なんかその表情いやなんだけど」
イレーネの顔をみるとニマニマと興味津々な笑顔が満面に浮き出て、おいおいと思いながらきっと私も似たようなもんなんだろうとちょっとだけ反省した。
「カオルとイレーネが思うような話じゃないよ、ただあの体術すごかったっていうだけの話でさ」
「確かに足を取られずに歩く方法があるならイレーネにちょうど良さそうだね」
「明日にでもピエールフさんにあたしにも教えてもらえるか聞いて見てよ」
「わかった」
「じゃ、おやすみ」
転がって凍える風を使ってテントを冷やす。
1回寝入って、ちょっと目を覚ましてウトウトしながら凍える風で涼みながら寝ようとした時、ロペスとリノさんの声が響いた。
「起きろ! 砂嵐だ!」
テントを剥がされて一瞬にして照りつける太陽の下へ引きずり出された私達が、目をくらませながら見たのは巻き上げられた砂が壁のように立ち上がり迫ってくる砂嵐の壁だった。
目の前に迫る幅何kmあるかわからない砂嵐に驚き、眠気なんて一気に覚めてしまったが対処法なんてわからないのでルディもイレーネも私も立ち上がってパニックになった。
「落ち着け! テントの張り方を変えて皆ですぎるまで籠もるだけだ」
「え? そんなもん?」
「あとはジョアンナ達の顔に防砂布をかけてやるんだ」
ロペスに布を渡され、イレーネとジョアンナの元に向かう。
いつすぎるかわからない砂嵐の接近を見ながら、ジョアンナに水で水分補給させつつ満足した所でイレーネが布をかけて首筋を撫でた。
「カオル!イレーネちゃん!こっちにも水をくれないか」
エッジオが呼ぶので手分けして水を飲ませて砂嵐を避けるためにテントに潜る。
砂嵐を避けるためのテントは中央に柱を立て、布の端に座ってめくれ上がらないようにおさえたまま過ぎ去るのを待つのだとピエールフさんがルディに教えていたのを盗み聞いた。
内向きに間隔をあけてロペス、リノさん、ルディ、ピエールフさん、イレーネ、エッジオ、私の順番で座った。
薄暗いテントの中を光で照らし、ピエールフさんがルディと話をして、ロペスとリノさんが話をしていた。
ピエールフさんは大声で叫んでいるが私の方にはほとんど届いてこない。
それはゴウゴウと音を立て吹き荒れる風と砂を巻き上げバチバチとテントに叩きつける音のせいなのだが、やることがない。
普通は通り過ぎるまで大人しく待つものらしい。
積もった砂がテントに降り積もりだんだんとテントが埋まってくる。
「そろそろテント直すから端を持って立ち上がって!」
とエッジオが叫んで、端を持って示してくれたのでその通りにする。
リノさんは中央で柱にしている棒を持って全員で一斉に立ち上がった。
立ち上がって隙間が開いたテントの下から防風と砂が吹き込んで来て思わず目をつぶる。
外では嵐で砂が巻き上がるせいでおもったより陽の光が入ってこないらしく、差し込む光もぼんやりと照らすだけだった。
「リノに合わせて歩くんだ!」
エッジオはそう言うが目も開けられないほどの砂嵐が顔を叩き、息もできない気がしてくる。
布が引っ張られる感触に従って少しずつ歩き、蟻地獄の様に凹んだ砂地から這い出る不格好な蜘蛛の様に移動して再びテントに籠もった。
「うまるまで放っておいてもいいんだけど、砂嵐の中で長く座ってると腰から根が生えて砂漠の砂に魂を持っていかれるから少し埋まるくらいのタイミングで移動しなきゃいけないんだ」
「長く座っていると立ち上がった時にお尻から魂が抜かれて死んだことに気づかないまま倒れてそのまま死んでしまうんだ」
エッジオとリノが教えてくれた。
そうやって数時間毎に少し移動すること数回、砂嵐によって薄暗かった外の景色は段々と明度を落としていき、すっかり真っ暗になった。
外では風と砂が暴れる音が止まず、話しをしようにもテントを抑えてないといけないので耳元で話をすることができず、ほとんど会話にもならないし、カードゲームをしようにも距離は離れてるしで何もできずただ座っているだけ。
そして朝から晩までなにもしないのもいい加減疲れてきた。
だれも口を開くことがないので喧嘩も起こらない。
薄暗い光の光に照らされながらテントに寄りかかっているうちにいつのまにか寝てしまったようで、気がついたら砂嵐はとうに過ぎ、みんな寝入ってしまっているようだった。
砂は背中の中頃まで降り積もってテントを埋めて一人でこっそり抜けようとするとテントの中に砂がなだれ込んでくるのが容易く予想できたので出るに出られずお尻でテントを抑えたまま、もじもじと体を動かした。
「ああ。起こしちゃったか」
「いや、ずっとウトウトしてただけだから大丈夫。それにしても全員起きてもらわないとテントから出ることもできないの?」
「そうみたいだな」
目を覚ましたロペスと小声で話しをしているうちにエッジオとリノさんが起きて私に言った。
「苦悩するような表情で寝てたけど何か悩んでいるのなら僕に話しておくれ」
「妙なのにくっつかれて困ってる」
「こいついつもこうなんだ、すまない」
そう答えるとエッジオをじとっと横目で見て解決策にならない答えを私に提示した。
「砂嵐のせいで体中砂まみれだよな」
こいつ強いな、と感嘆しているとイレーネとルディ、ピエールフさんが起きてきてやっとの思いで表にでて満天の星空を見ることができた。
ぐっと伸びをして鼻が変な感じになっていたのでちょっと強めに息を吹き出してみると砂の塊がぽんっと出てきた。
それをちょうどロペスとイレーネに見られて微妙な表情をされ
「いや、まさかそんなことになるなんて思わないじゃん」
と自己弁護をしたが無視され、彼らはマントで隠してこっそり出していた。ずるい。
頭を触ってみると指も通らないほどゴワゴワになっていて、顔も砂がくっついてまるでパックの様に固まっていた。
イレーネも髪を触って手櫛で整えようとしたが力加減を間違えて引っ張って顔を歪めていた。
日が登ったら水浴びをして砂を落とそう。