砂漠を生きる生き物の驚異
「氷の矢!」
ロペスと同時に氷の矢を唱えた。
使った魔力の割に弱くて少ない氷の矢を2人であちこちにばらまいて砂地に突き刺した。
その中の1本に砂獣が食いついて砂の中からジャンプをして砂煙をあげる。
「実は私も魔法使いだったんだ。さあ、急いで!」
そう言って笑ってみせた。
「ああ! ああ! すまない! 恩に着る!」
砂獣が近くまで迫ったリノは顔色を失くし、大急ぎで熱き砂漠の風に飛び乗るとジョアンナを追って全力で走り始めた。
あちこちに氷の矢をばらまいて、着弾に反応してあちこちに移動しながら砂地に刺さった氷を飲み込んでは砂に潜った。
時間稼ぎはできそうだがこのままでは延々と音を立てていなくてはいけなくなる。
「さて、どうするか」
ロペスが小声で囁く。
私もそれに答えて参ったね、と囁いた。
十数分氷の矢を打ち込んで飛び出した横っ腹を叩こうと繰り返し、何十回目かの空振りの後、巨体は砂に潜り込むことなく砂の上に打ち上がった。
疲れたか諦めたのかと思ったがそうではないらしく、探るように頭を振ると私とロペスの方に向き直り砂に飛び込んだ。
砂埃を上げながらこっちに向かって突っ込んで来る。
泳ぎ始めは表面に姿を見せていたが深く潜るとどこを泳いでいるのかわからなくなった。
真下から来る。
氷の矢をばらまきながら逃げよう。
そう思って身体強化をかけてその場から飛び退いた。
踏み込んだ砂が力を逃したせいで思い切り滑ってバランスを崩して転んでしまう。
地面と近くなったからか身体強化で聴覚が鋭くなったのか、砂の下から砂獣が移動する低い音と振動が伝わってきた。
このままでは襲われてしまう! 足元から飲み込まれる姿を想像してなんとかしなくては、と立ち上がって逃げ出そうとしたが砂の柔らかさと身体強化のせいで手で砂を掻き、足で蹴っても砂が飛び散るだけで立ち上がることができず、焦りのせいでますます頭に血が登ってくる。
「ヒヒヒ氷塊!」
頼むから追っていってくれよ! と人の頭より大きいくらいの塊を出して放り投げた。
大きな丸い氷の塊はゴロゴロとどこかに転がって行った。
地響きはドンドン大きくなり砂の上で格好悪くもぞもぞと逃げ出そうともがく。
下から砂が持ち上げられる感触が伝わってきていよいよもうだめか、と覚悟すると焦って追い詰められた心が落ち着いてきた。
「カオル! 手を伸ばせ!」
ロペスがこっちに向かって引っ張ろうとしてくれるのが見えた。
きっと引っ張った勢いで2人で転んでしまうに違いない。
なにも2人で犠牲になる必要はない、飛び出した所を私と一緒に攻撃して倒してくれればいい。
そう思って頭を振って詠唱を始めた。
「破壊と再生を司る大神よ! 誉れ高い我が神よ!」
私が差し出した手を無視して破壊の輝きの詠唱を始めたことにぎょっとしたロペスの顔が面白くて思わず笑ってしまった。
「宇宙の真理たる御身より出ずる力を我に貸し給え!」
ぐぐっと私の体が持ち上がり、いよいよかと思ったがまだ詠唱が終わってない!
私の体を持ち上げた砂の塊は急に進路を変え、私が放り投げた氷塊に向かって飛びかかり、大きな顎で噛み砕き、悲鳴を上げて逃げ出した。
「吠え猛るおん……助かった?」
いつのまにか日が落ちて冷えてきたからか、はたまた恐怖からか体が震え始め、まるで溺れた様に息ができなくなった。
大丈夫、落ち着け、落ち着け。もう大丈夫だ。
自分に言い聞かせながら体を擦る。
「おい! おい! 大丈夫か!」
砂に足を取られながらロペスがやってきて私の肩を揺らした。
呼吸に一生懸命で揺らされることに対応できずにいると覆いかぶさるように抱きしめられ
「大丈夫だ、もう大丈夫だ」
そう声をかけられ、暫くの間必死に肺を膨らませ、完全に日が落ちて真っ暗になった頃やっと落ち着きを取り戻した。
「ありがとう、落ち着いたよ」
私に抱きつくロペスをひっぺがしてお礼を言った。
「手のばしても断るし、もうだめかと思った……。いや、それよりとっさとは言えこの距離で破壊の輝きを使うのはどうなんだ。道連れになるところだった」
「確かにそうだな。やっぱり気が動転してたよ」
「すっかり夜になってしまったな、光でリノ達を呼び戻そう」
直接見ると目が眩む様な明るさの光を打ち上げる。荷物も預けてしまったので水くらいしか口にできるものがなく、しょうがないので水を飲みながら座り込んでだれかが来てくれるのを待った。
「死ぬかもっていう時に手を伸ばしたらちゃんと掴めよ、笑って死のうとするんじゃあない」
「お? 私、笑ってた?」
「笑ってたよ。破壊の輝きの詠唱した時」
「あ? あぁ、詠唱始めたのにぎょっとした顔が面白くてつい」
「ついじゃないぞまったく。心配して損した」
「いやー私ももうだめだと思ったさ、心配させたね。死なばもろともって思ったら思い出せる魔法あれしかなくてよく考えたら使ってたら大変なことになってたね」
私がわっはっはと笑うと笑い事じゃない! と叫ぶロペスも笑っていた。
無事に切り抜けられてよかった。
「だが、もういよいよだめな時でも諦めてくれるな」
「思い出せたら必死で切り抜けるよ」
砂まみれで転がり、光を見つけた彼らが帰ってくるのをまった。
体力が減ったわけでもないし、魔力をものすごく使ったわけでもないけどすごく疲れた。
まだ起きてそんなに時間経ってないけど今日はもう眠りたい。
しばらくすると光の灯りを頼りにリノやエッジオ達が戻ってきた。
「ほんとに遠くからでも見えるもんだな!」
「怪我はないか」
ルディが関心した様に言い、リノは怪我の心配をしてくれた。
「カオルは死にかけたが結果的に傷一つない」
「またなんか変なことしたんでしょ!」
「身体強化したままジャンプしようとしたら砂に足を取られて転んだだけだよ」
「身体強化?」
エッジオが驚いて会話に入ってきた。
「ごめんね、実は私も魔法使えるんだ」
そう言って魔力を込めて火を出してみせた。
「無詠唱!」
エッジオが驚きのあまり叫んだ。