いつの世も自分の子が1番
「どうだい? この長脚種は? 大きくて乗り心地がいいだろう? 剛力な竜っていうんだ、名前を呼んで撫でてやると喜ぶから撫でてくれよな」
剛力な竜ー剛力な竜ーと呼びながら体をぽんぽんと叩くと剛力な竜がグエーと鳴いた。
確かに左右にも上下にも大きくゆれず私を運んでくれる。
ふさふさの体を撫でてみると思ったより毛が硬くて撫で心地は良くなかった。
私が撫でるとなにか気に入らなかったか、ちょっと不快そうに体を揺らした。
無視していいのかわからなくてエッジオの顔をみると、剛力な竜が低い声で鳴き、エッジオの背中に頭をグリグリと押し付けた。
「乗せたばっかりなのにすまないな、剛力な竜がごきげん斜めみたいだ」
エッジオの手を借りて降りると剛力な竜は頭をブルブルと振って足を踏み鳴らし私の背中に頭を押し付けた。
「うええっ? えっ? 痛た。どうしたらいいの?」
剛力な竜にグリグリと押されて困惑していると
「ははは、乗せるのは嫌だけど撫でてはほしいらしい。すまないが少し撫でてくれないか」
嬉しそうに剛力な竜の手綱を引いて笑った。
乗せたくないくせに撫でてはほしいなんてなんてわがままなやつだ、と歩きながらゴワゴワした硬い毛を撫でた。
ギィギィと甘えた声? を上げて喜ぶ? 剛力な竜をワサワサと雑に撫でながらルディを見てみると、ピエールフに肩を抱かれて困り果ててるルディが視界に入った。
「あいつはそういうんじゃないから安心してくれ」
ピエールフを見てエッジオが『そういうのじゃない』とフォローをしていたが、別にそういうのでもそういうのじゃなくても私には関係がないのだけど。
「タークは荷を守るが長脚種は荷物は運べないが人を乗せるんだ」
「何が違うの?」
「タークは危険が迫ると荷を守るために逃げ出すようにしつけられてるだろう? 長脚種は人と一緒に逃げられるまでついててくれるんだ、かわいいだろう?」
はあ、と相づちを打つとわかってないなという顔をして
「あと、例えば人を乗せると揺らさないように走ってくれるんだ、すごいだろう?」
「優しいですね」
「そうなんだ! わかるだろうこの瞳! 馬のほうが荷は運べるし人も乗れるなんていうやつがいるが人が入る所全てについてこれるのはターク達だけなんだよな、カオルちゃんわかっててくれてぼかぁ嬉しいねえ」
そんな深いことを言ったつもりはなかったがエッジオはひどく気に入ったらしくその後も剛力な竜のいいところをひとしきり語った後、リノのピエールフの長脚種についても語り出した。
リノの長脚種は熱き砂漠の風という意味のサーリーオという名前でピエールフの方は
誇り高き竜という意味のプーダレッゴという名前らしい。
「ここだけの話だが、彼らの長脚種も中々だが、僕の長脚種が一番速くて優しいのさ」
きっとリノとピエールフもロペスとルディにそういう言ってるんだろうな。
「で、こんな少人数で砂漠を越えようっていうのはどんな事情なのかな?」
踏み込んだことを聞いてもいいくらい仲良くなったと思ったのかなんなのか。
「ファラスは今大変なことになっててね、税金も高くなっちゃったし、ロペスとルディは腕に覚えがあるからそっちで稼ごうってことになってさ、私とイレーネも一緒にどう? ってね。こんなに砂漠越えるのが大変だとは思わなかったよ」
そう言って苦笑いしてみせた。
きっとあっちでもそんな雰囲気の話しをしているだろう。そう思ってロペスを見るとリノの熱き砂漠の風に乗ったまま寝ていて、ピエールフはルディに誇り高き竜の手綱を任せて寝ていた。
「ああ、あれは昼に見張りをするために長脚種で寝ておくんだ、長脚種の最大の欠点は上で寝づらいってことだね。まあ、それも背もたれを少し倒して寝ればそれなりに寝やすいもんさ」
話に付き合って歩いていたら気がつくと空も白み始め、これからまたあの灼熱地獄の中で1日過ごすのかと思うと気が滅入ってくる。
日が昇り始めた所でキャンプの用意をする。
どうせもうしばらくすると暑くて体も温まってしまうのだけれど、やっと緩み始めた今の時間なら温かいものも美味しく食べられるだろう。
リノたちから食材を集めて乾燥野菜と干し肉のスープにショートパスタを突っ込んだものを出した。
食材に限りがあるのでバリエーションもだんだんと寂しくなってくる。
「砂漠でパスタ……」
エッジオは私の手からスープ皿を受け取ると変なものを見るような目で私を見てつぶやいた。
「そういえば水どうしてた?」
「ロペスがいるからね、水はいくらでも使えるのさ」
冷えた体に出汁の薄い塩味のスープが暖かく染み渡る。
「美味いじゃないか!」
リノとエッジオが感激して声を上げる。
「普段どんなのを食べてるんですか」
「砂漠だと干し肉だけだな」
「僕らはだれも料理できないし、砂漠じゃ水使えないから料理は基本的にできないからね」
水の話はごまかしてるのに水の話はやぶ蛇だった。
「鍋1つ分水出せるってすげえよな、砂漠だとオアシスが歩いてるようなもんだもんな」
ピエールフさんに器を渡すと、爽やかに器を受け取り、苦笑いと緊張した面持ちのルディと一緒に食事を取っていた。
私はこっそりとエッジオに耳打ちする。
「ピエールフさんはそういうのじゃないんじゃなかったっていう話でしたが」
「おかしいな、今までそんな素振りを見せたことがないのに」
「エッジオさんとリノさんは体大きくて髭で黒いですからね、小さくて髭のない白いのが好みだったのかもしれませんね」
「そんなことよりエッジオと呼んでくれよ、さんなんて他人行儀な。もうカオルちゃんと僕の仲だろう?」
「そんな仲はしりませんよ。ロペスがジョアンナにテントを張ってくれたのでまた」
水の入った革袋と空の水袋を交換して、エッジオを追いやった。
テントの中に入ると大きく肩を落としてため息をついているルディがいた。
「イレーネはまたジョアンナの所?」
「いや、日傘を借りてロペスとピエールフと一緒に昼の見張りをするみたい」
ロペスやリノと話をしたり寝たりしながら1晩過ごしたのでまあまあ、元気があまっているらしい。
「そう」
ルディもそんなに固くならずに突っぱねたらいいのに、と思いながらごろり、と横になった。
腕を枕にしてルディに背を向け、寝るまでの間、涼みながら寝るために凍える風を使う。




