灼熱の砂漠と料理
おそらく今は真夜中くらいだろう。
時計も月も無いので星くらいしか時間が解るものがないのだけど、私達のだれも星が読める人がいない。
歩くのに夢中になっていたけど、思い出したらなんだかお腹が空いてきた。
「そろそろ1回休憩しない?」
「そうだな、止まれ」
ターク用の言葉らしい。
言葉に従ってジョアンナが座り込み休憩に入ったので荷台から桶を取り出し水を出してやった。
ジョアンナは桶に顔を突っ込みガブガブと音を立てて水を飲んでいたので相当のどが渇いていたのだろう、すまないことをした。
夜ご飯はいつもの通りパンと干し肉と塩をひとつまみ入れた塩水。
パンが固くないだけありがたい。
食後の休憩でイレーネがジョアンナジョアンナ言いながら撫で回しリフレッシュした頃出発する。
「行くぞ」
ロペスが声をかけるとジョアンナはイレーネの顔に鼻先をこすりつけてから立ち上がった。
「ねえ、ロペス。あたしもジョアンナの御者やりたいんだけど」
「いいが、別に面白いもんなんてないぞ」
そう言って手綱を渡して動かし方とターク用の言葉を教えた。
「おまたせジョアンナ! 行くよ」
イレーネがジョアンナと足を取られながら真っ暗な砂漠を進む。
平坦な荒野のような砂漠から風が拭き上げて丘の様になった砂漠を歩き数分、おっとかあれれとかいいながら操り人形の様に足を取られてはカクカクするイレーネを見かねたのかジョアンナがイレーネの襟をくわえて持ち上げると、自分の首の根元に置いた。
「ありがとう」
イレーネが首筋を撫でながら礼をいうと、ジョアンナはうれしそうにボエーと可愛くなく鳴いた。
「動いてないと寒い」
と呟いたイレーネが熱風を使い、マントの中でジョアンナの首とイレーネを温め始めるとジョアンナは気持ちよさそうに目を細めたりしながら、首を仰け反らせてイレーネに鼻先をこすりつけてイレーネを鼻水まみれにした。
やめてよーなんていいながら楽しそうだったのでちょっとうらやましい。
身体強化をかけて1晩中歩きとおしてはるか遠くの空が明るくなり始めるとそよ風が拭き始める。
目覚めた風は大地を砂を巻き上げ丘を作り、死の大地をより過酷なものにしていく。
「やっと夜明けだ……」
ルディが白い息をほっと吐いた。
地平線から太陽が顔を出し、凍えるような大気は陽の光を浴びて厳しさを和らげていく。
「暑くなる前にテントを張ってしまおう、止まれ」
ジョアンナを座らせるとイレーネは首から降りて甲斐甲斐しくジョアンナに水をやった。
荷台から布の塊を引っ張り出したかと思うと、バッと広げてジョアンナの荷台の屋根と結び、火かき棒の様な長さジグザグした変な形のペグを打った。
「カオルとルディでこれを敷いてくれ」
ペグを打ちながら、砂上に転がした巻いた布の棒を指し示した。
どれどれ、とルディと広げてみると薄手の絨毯が丸めてあったのでロペスが張った厚手の布の屋根の下に伸ばすと中で休めるようになった。
移動式で省スペースなテントなのだが、テントの躯体になっているジョアンナは放っておいて大丈夫なのかと思っていると、今度はイレーネとロペスがジョアンナの荷台の屋根部分から布を引っ張りだして、ジョアンナの頭にかける。
ジョアンナは安心したように首を丸めて休み始めた。
女将さんが水が使えるならパン以外がいい、ということで持たされた乾燥パスタを茹でようと思ったが地霊操作でかまどを作ろうとすると盛り上がった砂の山がサラサラと崩れてしまって形が維持できなかった。
「地霊操作が使えないんだけどどうしたらいいか知ってるー?」
「炎の矢を砂地に叩き込んでから砂の上に鍋を乗せるんだ」
そんな無茶苦茶な、と思いつつ言われた通りに熱量を上げた炎の矢を砂に打ち込んでみる。
赤熱する砂の上に鍋を置きしばらくすると鍋に張った水がぐつぐつと沸騰し始める。
ショートパスタと乾燥野菜を適当に掴んで放り込み場所を変えて炎の矢で火力を調整しながらパスタを茹であげる。
お湯を捨て少し残ったお湯にチーズと塩で味を調整して完成させた。
木の皿に適当に盛り、木のスプーンを添えてイレーネたちに渡した。
「見た目と違っておいしい!」
「いけるな、これなんて料理だ?」
「乾燥野菜とチーズのショートパスタ、砂粒を添えて」
「じゃりじゃりするけどこれが味わいだとは思わなかった」
朝ごはんをお褒めに預かったところで4人でテントの中に入って仮眠を取る。
木の食器は砂に突き刺し、汚れを砂と一緒に落としてから水で砂を流して適当な布で拭いてジョアンナの荷台にしまう。
水がない場合は布で拭うだけなんだそうで、水があってよかったと改めて思った。
砂漠は湿度が低いから日差しを良ければ暑くないよ、といったのはだれだったか。
確かに湿度が高い炎天下よりは暑くはないがどちらにしても熱風が吹き、熱せられた布が反対側に熱を伝えてくるのでじわじわと暑い。
救いは暑くなる前にテントと絨毯を敷いておけたので下から熱が上がってくるということがないということだ。
テントの入り口に氷塊でも置いておいたら涼しくなるかな、溶けてべちゃべちゃになっちゃうかな。
そんなことを考えていたらいつのまにか眠りについてしまっていた。
起きたのはだいぶ経ってから。
全身汗だくで目が覚め、這い出るようにしてテントから出るとテントの外の照りつける太陽はこれまで味わったことのないほど強く照りつけ、肌をジリジリと焼き、疲労感を押し付けてくる。
フードを被って水を飲み、凍える風で体を冷やした。
太陽は真上にいてまだまだこの暑さを許してくれる気がないことだけはわかった。