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砂漠を越える準備をしよう

 その後もスーシーにからかわれて真っ赤になり口数が少なくなったルディにイレーネと一緒に真っ赤だ真っ赤だというのを肴にして飲んでいた。

「あれ? 手に力がはいらない」

 ジョッキを持つ手がテーブルから離れなくなってしまったのか、眉間に皺を寄せて腕を持ち上げようと努力しているようだった。

「飲みすぎたんじゃない?」

 イレーネの手を取り、力を入れさせてみるとピクピクと力は入るのだが、握ったり動かしたりするほど力が入っていない。

「右手だけでも! まだ! まだ飲みたいの!」

 とろんとした目でジョッキを睨むが、手はジョッキを持ち上げることなく

「そろそろ寝ようよ」

「しょうがない、寝ようか」

 そう立ち上がろうとしたが、足にも力は入らないらしく泣きそうな顔で呟いた。

だでない(立てない)

 しょうがないな、と軽くため息をついてルディと一緒にイレーネを肩に担いで宿の部屋に放り込んでからそれぞれ寝た。


 階段を登って部屋に入る前にちらっとロペスを見ると、珍しく大はしゃぎで分厚い木のテーブルを左手に掲げ、右手ではマリアが座ったままの椅子を持ち上げて明日大丈夫か、こいつ……、と思いながら部屋に戻ったのを覚えている。

 次の日起きてみると、二日酔い薬がないのをわかっているのに二日酔いになっているとは夢にも思わなかった。

 いや、あんなはしゃぎ方してたらそうなるだろうなと予想はしていた。


 そうなると思っていたのと、実際にそうなるというのは天と地ほど差があるが、この男は……。

 軽く頭を抱えながら、どっちにしろ昼間は出発できないのだから日が傾くまで延々と水を飲んでいてもらおう。


 起きた時はすでに日も昇っており中天まではまだしばらく、という頃。

 昨日は暗くてよく見えなかった街並みが日光に照らされてよく見える。


 中央のオアシスを囲むように町の外を背にして建物が立ち並び、街中では荷車を引いたロバとすれ違いながらイレーネの様子を気にした。

 手足に魔力が込められなくなるくらいの量だと二日酔いにならないらしく、朝から起きていたので一緒に買物に出た。

「昨日はありがとう」

「またしばらく飲めなくなっちゃうしたまにはね」

「手足が不自由ってほんと不便、今も結構集中しながら歩いてるのよ」

「意外とそうは見えないもんだね」

「で、何を買いに行く所なの?」

「砂漠を超える時の食料品とラクダを借りにいくよ、夕方に出るからラクダはその時でもいいんだけどね。パンと干し肉とあと怪しまれない程度に水もほしいよね」

「せっかくここまで怪しまれないできたもんね」

「そういえば、砂漠って越えた事ある?」

「砂漠なんて噂にしか聞いたことないよ、カオルの所にも砂漠ってあったの?」

「遠い外国にあったよ、私の所からは見たこともないけど話は知ってるよ、昼間は灼熱で夜は極寒になるんだってさ。あとはサボテンを食べるとか」

「えぇ、あんな棘だらけの食べられるの?!」

「棘を取って皮を向いて焼いて食べるんだって、美味しいかはしらないけど」


 そういいながら食料品店に入り、日持ちのする根菜や油の入った壺を抱えて歩くと店のおじさんが呆れたように言った。

「災厄で呪われたボーデュッカ砂漠の植物なんて食べようものならお腹を壊して死んでしまうよ」

「えぇ?! だめなの?!」

 いざとなったら食べれると思っていたので、驚いて思わず声を上げてしまった。


「準備不足でサボテンなんざ食う羽目にならんようになんでも買ってくといい、砂獣は昼動くから夜の寒いうちに移動して昼間は日陰を作って音を立てないようにして休むんだ」

「砂獣だって、カオル聞いたことある?」

「イレーネが知らないなら、私も知らないねえ」

「ホントに砂漠を越えようとしてるのかい? 遠回りでも迂回したほうがいいんじゃないかね。必要なものなんでも買ってくれるならうちとしては構わないがね」

 ムスッとした表情で砂漠を越えるなら1人分はこんな感じだね、と麻袋に次々と野菜や干し肉を放り込んだ。

「パンは入れないんですか」

「パンは嵩張るし、小さくなるまで焼き固めたら食べるのに水分が必要になるからおすすめしないね。多少高くても砂糖を買ってったほうがいい」

「砂糖あるんですか」

「砂漠の向こうのバドーリャからね、バドーリャにはその向こうのアレブラムからだしアレブラムには海を越えて来てるわけだ」

 何を言いたいのかわからず、イレーネと一緒に怪訝な表情を浮かべていたと思う。

「わからんか? 目が飛び出るほど高いぞ」

 ニヤリと笑って革の袋、手のひらに乗るほどのサイズなのでちょっとしたマグカップ2,3杯程度の量だろう。

 高いと言われ、私とイレーネの喉が鳴った。

「1人分で銀貨5枚だ」

 一般的な1家族の2、3ヶ月分の食費に当たる銀貨5枚がこれっぽっちの砂糖の値段だと言われた。

 茶色い砂糖がでてくるのかと思ったら意外とさらりとした白砂糖を革の袋からのぞかせた。

「これを水に溶かして飲むわけよ。まあ、なくてもなんとかなるもんだが夜は相当冷えるからな。あったほうが安心だろ?」

「どのくらい寒いんですかね?」

「昼間作っておいた薄い塩水は凍る時がある。しょっぱくて飲めないようなのは凍らなかったな」

 氷点下なのは確定のようだ。

「ということで塩も買っていくといい」

 革の袋をドンと置いた。

「ちなみに、これは……?」

 イレーネが恐る恐る聞くと

「量もそんなに必要ないし、元々砂糖ほど高く無いから安心しな、4人分で大銅貨3枚だ」

 たった数日間、砂漠を越えるための諸々に全員でちょっと裕福なご家庭の1ヶ月間分の収入を使うことになるとは夢にも思わず目眩いがしてきた。

「訳ありみたいだからちょっと負けといてやるよ、毎度! あと昼間は盾で卵が焼けるからな、ちゃんと日差しは避けるんだぞ」

 嬉しそうに負けてくれた店の店主にお礼を言って4人分のそれぞれの食料が入った袋を抱えて宿に戻った。

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