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魔力注入と両手に花

「魔石に刻まれた紋様が魔力の再吸収を促すんですね、これがあれば使い捨てにしなくていいし、魔力を持たなくても魔道具が使えるようになってるんですね」

 壁に刻まれた紋様を読みながらつい独り言を言ってしまうと、女将さんにじっと見られている事に気づいた。

「私も少しは魔力があるから魔道具を作るのが好きで魔道具の紋様見るの好きなんですよ」

 ロペス1人に任せるには荷が重いのでこっそりとロペスに合わせて少しずつ魔力を込めているのをそう言ってごまかすが、正直、納得してくれたとは思えない。

 自分自身に苦笑いをしながら紋様をなぞり、はるか昔に刻まれたという見たことがない形の紋様を紐解きながらすべての魔石に十分な量の魔力を注いだ。

 いくつかわからない物もあったが魔力効率のいい書き方のヒントになりそうな物もあり意外と楽しく読ませてもらった。


 魔力を注いでいた紋様から手を離すと(イ・ヘロ)の光が氷室の天井から降り注ぎ凍える風(グリエール・カエンテ)の紋様から凍てつく冷気が吐き出される。

 よく見ると足元にも(イ・ヘロ)の紋様が刻まれ、影ができにくい作りになっていて棚に置かれた食料品がよく見える工夫がしてあるのがわかる。

 みんなでウロウロと氷室の中を見回っておかしな箇所がないか確認して回る。

 刻まれた凍える風(グリエール・カエンテ)の紋様からそよそよと冷気が吹き出されているのを感じてロペスと女将さんが満足げに頷いた。


「こんなもんだろう、どうだ?」

 ロペスが何事もなかったかのように女将さんにいう。

「まさかあんた1人でここの魔石をいっぱいにしたのかい!? これは驚いた」

 バツが悪そうにするが気取られないように、まあな、と答える。

「あたしの魔力じゃ1日も動かせないで止まっちゃうような状態だったからホントたすかったよ!」


「おかみさーん、あたし寒い」

 踊り子の様な格好をしているのだから寒いのは当たり前なのだが、マリアが最初に悲鳴を上げて、次にイレーネが寒そうに肩をこする。

 そんな格好ではマリアは確かに寒いだろう。


「そうだね、風邪引く前にもどるとしようか。さあさ、出た出た」

 手で押し出すような身振りをして女将さんがドアを閉めるとガチャガチャと大きな音をさせて鍵をかけ先頭に立って歩き出した。


「いやー今日は助かったよ、もう店は閉めちゃったから好きなだけ食べていくらでも泊まっていってくれてもかまわないよ」

「いや、急ぐ旅なので明日の夕方にはでるさ」

 女将さんはロペスのことを大層気に入ったらしく、滞在する限り一行の滞在費はかからないらしい。


 数人分の魔力供給を1人でやってくれたのに費用を請求せずにただでやってくれるんだから当たり前といえば当たり前の話ではあるのだが。

「あたしがもう少し若かったら逃がしゃしないんだけどねぇ! あっはっは!」

 そういいながらロペスの腕を抱いてとっておきの酒をだすよ! と言いながら席に引っ張って行き、女将さんに困っているロペスを見ているのは、我ながら性格が悪いと思うけれど正直楽しい。

 

「おかみさんだめだよ! お兄さん困ってるじゃないか」

 そういいながら女将さんの反対側に回ると腕を引っ張って女将さんからロペスを取り戻して並んで歩き始めた。


「ロペスモテモテだね、羨ましい?」

 イレーネがルディをからかうと

「あれはいくらなんでも羨ましくないかな」

 苦笑いで見送り、少し離れた所に席に着くと女将さんがテーブルに薄いエールらしきジョッキと茹でたマカロニにスパイスソースがかかったものをサービスで置いてくれた。


「あんたらもありがとうねえ、今日は好きに飲み食いしてってくれていいからね」

 その後も女将さんはマリアと一緒にロペスに酒を飲ませ続ける合間に私達の様子を見てくれて酒とつまみが空になるということがなかったものだから流石ここで店をやってて長いのだなぁと感心した。


 だらだらと飲み続けていると上から人が降りてきた。

 マリアと同じような踊り子のような衣装の女性が降りてくるとルディにひらひらと手を振り、女将さんとなにやら話しをするとエールを4杯持ってこちらのテーブルに座ると勝手に乾杯して飲みだした。

 払うわけじゃないのでいいのだけど。


「せっかく両手に花なのに来ちゃってごめんねー、あっちちょっと必死すぎでしょ? あ、あたしスーシーよろしくね!」

 全く反省もしてないであろう色白の踊り子風の彼女、スーシーは私達と握手をして奥に引っ込んだかと思うと

「こんなパスタじゃなくて肉だよね、肉。こちとら労働してきた直後なんだから!」

 作り置きしてあっただろう肉と根菜のスープとパンを人数分もってきて私達の前に並べた。


「今日はもう疲れちゃったよー、ひどいんだよ! すんごい勢いでお尻ひっぱたいてきてお尻割れちゃうかと思ったわ。ほら見てよ、お尻4つに割れてない? 今日はもうこれで終わりだからいいんだけどさ。あ、君お客さんじゃないよね?」

 スーシーはお尻を隠す布をぴらっとめくってルディに見せながら言うと、ルディにいうとルディは驚くやらあっけにとられるやら、そのままの顔で頷いた。


「客の話はここでするんじゃないよ!」

 女将さんに怒られてスーシーははぁーいと気のない返事をした。

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