灯り
沢山の人と関わってしまうと、気持ちが悪くなる。
自分の欲望を相手を使って満たそうとする人の目線が私に刺さってくるのが辛い。
男としても機能は持ち合わせてはいるけれど、その目や吐き出す言葉、うねった仕草が見ていて気持ちが悪い。
誰でも自分が欲しいと思ったら手に入れるために必死になるのはわかるけれど、その欲望満ちた顔を私に見せないで欲しい。
出来ることなら関わらないで欲しい。
その周りの嫉妬の目がさらに私を追い詰める。
私だって好きでこの体で生まれてきた訳じゃない。
女性に好かれようとしてこの顔をもらった訳じゃない。
なのに、周りは顔が良いから…、高身長は…、細身の感じが…、ベラベラとうるさい。
この体をあげられる物だったら、この体をあげたい。
けど、そんなことは出来ないから私が使うしか他ない。
自分の体だってそうだろう?
力強そうな体、肉付きが良い体、切れ長の眉、少し厚い唇、私だって君の素敵な部位が欲しいが、無理だって分かってるから何も言わない。
嫉妬しても何も変わらないから。
何でみんなわからないのだろうか…。
私は1人、花壇の石畳の上でバランスを取りながら歩を進める。
完璧な人間はいないんだから、みんな自分を好きにしたら良いのに。
その欲望や嫉妬を私に向けないで欲しい。
藤恋は自分の体をうまく使って、楽しんでいる。
素晴らしい妹だと思う。
私もそうなれたらと思うけれど、人の心情が分かってしまうから知らないふりをするのが出来ない。
それでいつも体調が悪くなる。
だから、人と関わる事はしたくなかった。
最低限の関わりで、人生を全うできれば良いと思ってる。
今日は藤恋のために来たのだから、藤恋がパーティを楽しんでくれればそれでいい。
私は私の関わる人が幸せであればそれでいい。
花壇の終点につき、飛び降りる。
考え事をしながら歩いてしまって、地図を見ずにきてしまった。
ここは何処だろう…。
路地を抜けると、小さい商店街に出た。
夜が深くなり灯りが付いている店は1つしか空いていない。
雰囲気は割烹の店…?
そういえば、飲み物しか飲んでなかったと思い出し、腹が鳴る。
その店から香る煮物の匂いに釣られて入ってみる。
[ガラガラガラ…]
横開きの少し重い扉を開き、中に入ると和服で割烹着を着て、料理の味見をしてる女性がいた。
「こんばんは。お一人ですか?」
桜香「…はい。」
ハープの音色のような少し力強いけれど優しい声で、なぜだかわからないが初めて初対面の人と会話出来た。
女性に席に案内されて、温かくてヒノキの香りがするおしぼりをもらう。
ここにいるだけでも、心が休まるのが分かる。
自分がそんな心情になるとは思ってなかったので1人驚いていると、女性に声をかけられた。
「お飲み物は何にされますか?」
桜香「…温かい緑茶はありますか?」
「はい。少々お待ちくださいね。」
と、優しく微笑んだ女性は鉄瓶を用意し、お湯を温める。
その間、無駄に会話をする事がなく、静かに流れる古い洋楽を流したラジオが聴こえる。
自分の家以外でこんなに居心地が良いのは初めてで、不思議な感覚になりながらメニューを見る。
メニューは和紙に筆で書かれていた。
この和紙も新品同然で、墨の匂いもするからきっと毎日書いているんだろう。
良いな…。
この店に今来たばかりだったけれど、また訪れたいそういう気持ちになった。