独り
「お兄ちゃん。」
と、藤恋がさっき買ったモンブランを渡してくる。
ケーキ屋でもらったフォークで手のひらに器用に乗せて食べ始める。
「お兄ちゃん、今度パーティ行こうよ。」
「昨日みたいなところは嫌だ。」
「…わかってるよ。もっとちゃんとしたとこ。今度の休みに一緒に行こう。私も勉強がてら行ってみたいんだー。」
「…どんな所なんだ?」
「会食パーティみたいな感じ?」
と言って、藤恋は携帯の画面を見せてくる。
婚活パーティーって…。
この間よりは治安がいいのか?
「どう?このパーティは自由行動でいいから嫌になったらすぐに出れるよ。」
「それなら行ってもいい。」
「やったー!じゃあ予約しとくね!」
と、すぐに藤恋はネットで予約し始めた。
そして数週間後、俺たちは寒い夜の中パーティ会場に向かう。
今回は私はスーツを着て、藤恋がふわふわしたシフォンドレスを着てる。
パーティ会場は都会を一望出来る展望台の近くの会場。
「後で、登ろうね!」
「…分かった。」
自分にそんな体力があるか分からないが、とりあえず了承しておく。
会場の受付を2人で済ませ、中に入るとさっき見えていた展望台が見えるようそちら側全てが窓ガラスになっている。
スタッフの人がコートを預かり、ドリンクを提供してくれる。
ここにくる人はやはり、同性の友達のような関係の人ばかりで私たち兄妹のペアが浮く。
そんな中でも藤恋は男にすでに話しかけられてしまい、私は1人ドリンクをおかわりするだけ。
しばらくすると、司会が話し出す。
挨拶をして今日の出会いのルールを話し初めた。
「皆さん、今日はお集まり頂いてありがとうございます。
今回は、フリームーブの婚活イベントなのですが気になっていても中々声がかけられない方もいらっしゃると思います。
なので、わたし達アドバイザーに声をかけていただければ気になる方にお繋げ致しますので気軽にお声掛けください。」
と言って、本格的にパーティがスタートする。
パーティは3時間。
今10分ほど経ったがもう若干疲れた。
近くにドリンクを持ったスタッフがいなかったので仕方なく、バーカウンターに向かおうとした時、目の前に女性が2人現れる。
私はびっくりして少し後ずさる。
「こんばんは、私ミキと言います♡」
「私はマキでーす♡」
私はさっき受付で書かされたネームプレートを見せる。
藤恋にわざわざ書かれた特徴の欄の『無口』を指差す。
「本当に無口何ですかー?」
「絵になるイケメンって感じでチョー良い♡」
自分の精神が2人が会話するごとに削られているのが分かる。
私はその2人との会話を逃れるために隙を見て逃げるようにバーカウンターに行って、ムカムカし始めた胃にミントが入ったノンアルカクテルをもらう。
「ストロー咥えてるの可愛い♡」
逃げてきたつもりだったのにさっきの2人がついてきた。
桜香「あ、あの、私喋れないんで…、他の方…と話してください。」
私は精一杯声を発するが、流れるBGMで半分近くかき消される。
「なんて言ったかわからないけど、声もかっこいいですねー!」
もう、終わりだ。
黙って2人がいなくなるまでこのバーカウンターの席に座ってよう。
と、2人が一方的にしてくる質問を、YES or NOを首を使って表す。
こんなに頭動かしてたら首がもげそうだ。
そんなことしていると、アドバイザーと呼ばれる人が私の元に何人も女性を連れてくる。
数分後、私の周りは20人近く女性が集まっていた。
普通の男ならハーレムと思い、喜ぶんだろう。
でも私は息苦しくて仕方がない。
色欲の目で私をみてくる女性たち。
みんなが我が物にしようとする欲深い顔をしている。
怖い…。
また、あの学生時代の思い出が蘇り涙目になってしまう。
女性の向こうには私の事を睨む男性たち。
私だってこの状況を望んでいない。
気になってる子がいるなら連れてってくれ。
頼む、私に向けられる目線を少なくしてくれ。
「…お兄ちゃん?」
少し遠くで藤恋の声がする。
すみませんと藤恋が女性をかき分け、私を目線から逸らしこの欲の沼から救出するために、パーティ会場を出て、施設のロビーに連れてきてくれた。
藤恋「大丈夫?ごめんね、人がいっぱいで見失っちゃたの。」
藤恋がスタッフからもらったおしぼりで、私の脂汗を拭いてくれる。
桜香「…ありがと。」
藤恋「うん。」
その様子を見ていたのかスタッフが氷水をわたし達にくれた。
私は気持ち悪かった体に冷たい物を入れて、スッキリさせる。
藤恋「お兄ちゃん、帰る?」
桜香「そ…」
「藤恋ちゃーん、俺たちともう一回勝負してー。」
藤恋を呼ぶ男の声。
藤恋「待ってー!」
桜香「行って。」
藤恋「でも、お兄ちゃん…」
桜香「私は1人帰るから、藤恋は楽しんできて。」
私は藤恋からおしぼりを取り、会場に戻るように促す。
藤恋「…わかった。スタッフの人に荷物持ってきてもらうね。」
と言って、藤恋は会場に戻ってしばらくするとスタッフの1人が私のコートと荷物を持ってきてくれた。
スタッフの方に一礼し、1人電車にも乗らずマップアプリを頼りに家に向かった。