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オレらはオレンジ  作者: じぇい
第1章  "エロ"は男の真髄なり
5/5

05 『二人の生活はそこから』




 手術室を出て、元来た薄暗い廊下を外に向かって歩いていく。

 今のところ体調になんら変化はない。

 強いて言うなら身体が重い。

 なにせ、今俺の背中にはスミレがおぶさっている。

 決して不快ではないが、背中にしっかりと感じる、女性の柔らかく淡い重さ。



「俺らの敵。そして幻惑能力。一体何が出来るんだ?俺はこれから何を...」



 廊下奥へと進み、鉄製のドア前に立ち、ドアノブに手を掛ける。



「うわ、開けづらいな...」



 背中のスミレがずり落ちないように姿勢を前屈みにして、ゆっくりとドアを開ける。

 外に出ると、すっかり日が落ち、気温も肌寒さを感じるまで下がっていた。



「このフェンスどうやって開けるんだ」



 ドア先のスチールフェンスの前で難儀していると、フェンスの向こうでプッチとペッチが木の棒でチャンバラごっこをしているのが見えた。



「プッチペッチ!ここ開けてくれ!」

「ん?プッチ、アレは素材だな」

「うん、ペッチ、素材だね、プッチ達のナカマになったみたいだよ」

「おいお前ら、俺はもう素材じゃなく完成品だから。よろしく」


 

 挨拶をスルーされたが、二人の片方、腹に脂の乗った方がフェンス横の装置を操作し、フェンスを開けてくれた。



「素ざ...あぁ...えっと」

「ヨシだよ、ヨシ。お前はどっちだ?」

「プッチ」



 とにかくこの二人は体型、ファッションまでもがクリソツで、見分ける所と言えば、腹の出っ張り具合しかない。

 腹が出てる方がプッチだという事は何となく分かったが。

 覚えるには長く時間がかかりそうだ。



「よーし。よし。プッチについて来て」

「本当に覚えてんの?」



 プッチの後ろをついて歩きながら、改めて自分達が出て来た建物とその周辺を見回すと、どうやら俺達は砂漠に出来た巨大なクレーターの中にいるらしい。

 四階建てのビル程の大きさの建物を、地上へと曲線状に伸びる斜面がぐるっと囲んでいる。



「なぁ、プッチ?このクレーターはどうやって出来たんだ?」

「プッチは昔の事、わからない。プッチが知ってるのはスウィートジェムの事だけ」



 木の棒を振りながら、一切俺の方を見る事なくプッチは言った。



「じゃあそのスウィートジェムってのは何者なんだ?」



 それを聞いたプッチの足取りが少し遅くなり、彼はどこか物悲しげに空を見つめた。



「スウィートジェムはプッチ達を作った。スウィートジェムも、作られた」

「いやまぁ子作りって言うからね。でももう少し言い方あるよな。っていうかお前らアイツの子かよ!?」



 スウィートジェムがコイツらの親!?歳的におかしいと言えばそうなんだが、なんかもう本人達の特徴が何一つ一致しないじゃないか。

 スウィートジェムとプッチとペッチなんて、冗談にも似てるなんて言えるような容姿じゃない。コイツ仮面被ってるし尚更。

 しかしコイツらの仮面の内側は意外とハンサムフェイスだったりするのか?

 


「聞かないでおくよ...」



 そこでプッチが建物横に位置した粗末なエレベーターの前で立ち止まり、俺の方へ向いて言った。



「よーし。ヨシ、このエレベーターで屋上に上がって。そこがこれから二人の場所になるよ」

「俺達の部屋って屋上?」

「うんうん、空がキレイだよ」



 柄にもない事を言ったプッチの横を過ぎて、エレベーターに乗り込んだ。

 人間二人分の重さに(かご)が上下にふんわり揺れる。

 出入り口横には一階から、屋上を示すRの文字のついたボタンが並んでいる。



「Rだよヨシ。R押して。屋上はR」

「屋上のボタンくらいわかるよ」



 屋上のボタンを押すとゴロゴロと音を立てながら扉が閉まり、プッチの姿が見えなくなった。



「はぁ...そろそろ起きてくんないかな?流石に重いんだわ」

「───失礼な事言うわねアンタ」

「って起きてんのかよ」



 俺の耳にスミレの澄んだ心地の良い声が唐突に流れ込んできた。

 いつから起きていて、いつから寝たふりをしていたのか。



「スミレさまはいつからお目覚めで?起きてるなら自力で立ってくれよ。疲れたし、流石に重い」

「私だって疲れたのよ。突然誘拐されて、挙句に得体の知れない手術をされたんだから。もうちょっと我慢して」

「お前!俺は遠い地下シェルターから何時間も灼熱の大地を歩いたんだぞ!重い!降りろ!」



 俺の背中にへばり付いて降りようとしないスミレを左右に揺さぶり、引き剥がそうとする。

 ところがどっこい、彼女に脚を腰へ巻きつけられ、揺さぶろうにも動きが封じられて、上手く動けない。



「そんな体力あるなら自力で立てよ!俺は汗臭いから無理なんじゃないのかよ!?」

「鼻の機能を止めているからそれは問題じゃないわ!もう、じっとしてなさいよ!」

「降りぬのなら。強行手段だ」



 ユサユサと揺れる籠の中で、俺のアゴ下でガッチリ固定されたスミレの手の甲を、お産を終えた母犬の様にベロンと舐めた。



「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ハッ!思い知ったか!?」



「───んフッ...!」



 俺の空きっ腹に、彼女の怒りのこもったボディーブローの衝撃が響き渡った。



「次やったら、その時はアゴいくわよ」

「キッツイわぁ...この子...」



 そこでエレベーターが停止し、目的地に着いた事を知らせる効果音が籠の中で鳴った。

 その後に左右にゆっくりと扉が開いていく。



「ちょっと...こんなとこで寝ろってわけ?」



 車二代がすっぽり入る広さの屋上は、周りが落下防止フェンスで囲まれ、ど真ん中にバルーン投光器、その両脇に見窄(みすぼ)らしい布団が二つ置いてあった。



「まぁまぁ!手術台の上で寝るよりかマシだろ?ほら、照明器具の横に冷蔵庫が!スウィートジェムの粋な計らいだよ」

「手術台の方がクッション制ありそうだわ」

「文句言うなよ。ったく。これだから腐れ富裕層は」



 どうせ彼女は俺の知らないどこか別の地下シェルターで、自分だけの部屋、自分だけのフワフワのベッドで育ったのだろう。

 俺からすれば隣で眠ってるのが加齢臭漂うオッサンじゃないだけ大大大感謝なのだ。



「あぁ...もう色々と疲れた...。もうワタシ休む事にするわ」

「お、おう」



 彼女がそう言い、薄い布団へ寝転ろんでペラペラの毛布を肩まで羽織る。

 疲れてるのはお互い様だ。俺ももう休む事にしよう。

 俺も彼女に(なら)い、貧相な布団に倒れ込んだ。

 と。眠りにつく前に、素性が謎過ぎる彼女に色々話を聞いてみたくなった。

 誘拐されてきた身でありながら、なんだかんだで謎の組織への加入を拒まず、自分の身体を弄くられる事にも動じなかった事には、俺も違和感を感じていたのだ。



「なぁ、スミレ?おま...あぁ...星が綺麗だな」

「臭いわアンタ」

「明日直ぐシャワー浴びるって」

「明日言い回しについて学ぶといいわ」



 いやそうじゃなくて!

 


閲覧ありがとうございます! 

投稿が1日空いてるのは書いてるうちに日付が変わったからです。めちゃ悔しい。

自分のペースでがんばるう


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