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電話が切れて数分、お迎えが来て着いたのはこれまた大きいお宅。
挨拶も早々に、リビングへ通され座るよう促される。
向かいに座る深刻そうな表情の海。
ここは親友夫婦の新居だ。
何かあったのだろうかと心配する雪美に、海は息を吸ってからポツリポツリ話し始めた。
「私、この前旦那とケンカしたの」
「え…」
新婚なのになぜ、と疑問に思う雪美の前のテーブルの上に裏に伏せた写真がスッと出される。
「これ、見つけちゃって…」
写真を表にすると幼い頃と学生時代の雪美の姿が写ったものだった。
「え?」
「雪美、元婚約者と再会してデートするって言ってたでしょ。それで私…っ」
そこまで聞いて理解した。海は誤解している。
式で会ったが、海の旦那さんに見覚えはなかった。
あれが初対面のはず…と思い、雪美が口を開く。
が、先に海が謝罪の言葉を口にする。
「ごめん、旦那とケンカするまで知らなくって…。避けちゃってごめんね」
海は勘違いだったと気づいているようだ。
それなら、どうしてそんなに深刻そうなのか…と思っていると
またポツリポツリ話し出す。
「旦那、歳が1コ下で、高校の時に生徒会の会長してたんだって」
「うん」
「就任日に前会長から引き継ぎのノートをもらったらしいわ」
「うん?」
「その中に挟まってたって」
「…?」
雪美と海が通っていたのは女子校だ。
なぜ関係ない高校に写真が?と雪美は混乱する。
「いつか返そうと思ってたらしいけど、その人、落ち込んでいてとても返せる状況じゃなかったらしいわ。
噂で婚約者と別れたと聞いて、写真に写っているのがその婚約者だったら余計に返せないって考えて…」
「…っ」
生徒会、会長、婚約者…
まさか、という考えが頭をよぎった。
顔を前に向けると真剣な瞳と目が合う。
「なんで今になっても返せなかったかわかる?
…まだ、その人の心の中にはその相手がいると知っていたからよ。雪美」
「え…」
「うちの旦那、その人と同じ大学入って今も同じ会社で働いてるの。
ずっと近くで見てきたからわかるって」
“一条さんの気持ち”
出てきた彼の名前に確信をもつ。
「数日前だったら反対だったけど、
一条さんは…ずっと雪美の事大切に思ってたと思うよ」
海は勘違いしてごめんねと謝り、雪美も隠しててごめんと謝る。
ぎゅっと抱き合い、それ以上は深く聞いてこない海に雪美は感謝でいっぱいだった。