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正直、気持ちがないとしても、自分を選んでもらったのは嬉しい。
でも、あの時みたいになるのが怖い。
初めてのデートの数日後、メディアに取り上げられた、婚約者とアイドルの熱愛報道。
その次の日に来た婚約解消の話。
そう、婚約破棄はあちらから…
今さら、何?というのが正しい反応なのだろう。
親友の海もそれであんなに怒っていたのだ。
元婚約者が誰とは言っていないが、他に彼女がいて婚約解消された事は話している。
当時支えてくれたのは海なのだから。
雪は答えを出せずにいた。
海に相談しようとしたが連絡しても繋がらない。
翌日の夜になっても返信もない。
こんな事は今まで一度もなかった。
「呆れられちゃったかな…」
答えも出ない、暗い気持ちのまま月曜日になってしまった。
職場に行くと休みの前の日の事を周りに聞かれる。
なんとか誤魔化して席につくと珍しく先に来ていた先輩がいた。あの苦手な先輩だ。
「バカみたいね、どうせ遊ばれてるだけでしょ。それか利用されてるだけよ」
そこへ上司が入ってきた。
一条グループと日向瀬グループでのパーティーが開かれると発表される。
しかも全員参加らしい。
ここぞとばかりに声がする。
「ほら、やっぱり利用されたんじゃない。
誰かさんのせいでこの会社、買収されちゃうんじゃない~?」
彼は次期社長。こちらはライバル企業の平社員、と言っても社長令嬢。
買収は可能性が低いが、
確かに会社と会社を繋ぐのに利用されるかもしれない。
「や~ね、口もおしりも軽い女って」
社長の娘だと知っている上司が周りに落ち着くよう言っていたが、
企業秘密でも流したのではないか、などと噂され、
朝とはうって変わって周りに人が寄りつかない。
一緒に仕事する同僚にさえ避けられていて、一日中仕事どころではなかった。
家に帰り、ベッドに顔を埋める。
彼の事も親友の事も仕事の事もどうしよう…
自分の部屋で考えていると電話が鳴った。