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お互いに恋人も婚約者もいないという話になった時、彼は唐突に言った。
「明日、休みだろう。どこか出かけないか」
いきなり、しかも世間で二人の家はライバルだと思われている。返答に困っていると
「プライベートくらい、いいだろう?」
どこか必死なその表情に、思わずOKしてしまう。
「どこに行きたい?」
「クレープ…」
「ん?」
「…クレープが食べたい、です」
行きたいところはたくさんあった。
遊園地、水族館、映画館、動物園
でも彼と行くなら全て貸し切りになるだろう。
5年前の、彼と行った最初で最後のデートを思い出す。
デートだったかは謎だが。
雪美がポツリと言った
「一度だけでも、デート、したかったです」
その一言で彼は婚約前の思い出にと連れて行ってくれた。
クラシックコンサート。最上級のホテルでのディナー。
貸し切り、エスコート、もちろん綺麗にドレスアップもされて。
贅沢すぎる時間だった。
けれど…、
「私は普通の高校生がするデートがしたい」
そう思っていても、とても言える関係ではなかったから。
リベンジ、ではないけど、勇気を出して言ってみた。
「…たまにはそういうのもいいか」
まさかの快諾。
その日の夜、雪美は今日あった事を相手の名前を伏せて海に電話で話した。
「は!?あの婚約者!?明日デート!?何言ってんの雪美、正気!?」
大きい声に思わず電話を落としそうになる。
「うん…」
「雪美の自由だけど、5年前みたいにならないように気をつけなよ」
親友の言葉を胸に、翌日彼の元へと急いだ。