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勇者の贈り物  作者: なお
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商談

ギルは逃げ出すチャンスだと感じていた。


悲鳴が聞こえたかと思ったら外が騒々しくなって、厄介な勇騎士二人が出て行ってくれた。


チラリとジークのほうを見ると二人でコクリと頷いた。


周囲を見渡し、縄を切ることができるものがないか確認するが使えそうなものはない。


とりあえずここから離れられれば、縄なんてどうとでもなるだろう。


幸い腕しか縛られていないし、縛られている状態でもこの衛兵達からなら逃げ切ることができるだろう。俺なら。


だがジークはそれほど素早くないし難しい。どうしたものか。


色々考えを巡らせているとドオオオンと外からでかい音が聞こえた。


「なんだっ!?」


ギルが何事かと外に目を向けると、火薬でも爆発させたかのように止めてあったデルポポの馬車の荷台が燃えていた。


「私の・・・私の・・・・」


力ない声でデルポポが呟いたかと思うと、


「うおおおおおおおお」

と叫び、外に走り出していった。


その後に衛兵達が続く。


「おい!縄解いて行きやがれ!」


ギルは衛兵達に叫ぶも聞こえてないのか、無視しているのか、反応せずに外に飛び出す。


くそっ。さっきの爆発が爆弾だったとして、詰所の中に投げられたら逃げらない。


「ギル、外に出よーぜ」


「外はヤバいだろ。何とか縄ほどけねーの?」


「無理だ。外のがヤバいからいいんだろ。ドサクサに紛れられれば」


「くっそーそうするしかないか。じゃあ各自勝手に逃げるってことで」


「行くぞ」



ギルとジークがコソコソと入口に近づいていくと、外の衛兵達が見える。

彼らのその顔は青ざめており、丁度、一人の衛兵が馬に乗り城の方に駆けていくところだった。



よほどの一大事らしい。


ふと炎上している馬車の荷台がグラグラと揺れているのに気づく。


ギルが何かと思ってみていると、すすで汚れたデルポポが両手にいっぱいの荷物を持ち荷台から降りてきた。


どうやら積荷を降ろしているようだ。


この短時間でハーネスを外し馬と馬車を切り離し、積荷を降ろし始めるとは案外素早い。


それにしても燃えた荷台の中に突っ込むとは商魂たくましすぎるだろ。が、有難い。


積荷の中には没収された俺達の武器があるはずだ。それがあれば縄くらい簡単に切れる。


デルポポがもう一度中に入り、積荷を降ろす。


ご丁寧にお目当ての武器も下してれていた。


どうやら食料品以外の積荷は運び出したようで、馬車の隣で腰を下ろしている。


ギルとジークにとって、幸いにも衛兵達は街の入口の方を見ていて、二人のことは全く気にしていなかった。



ギルはジークに目配せをして、ゆっくりと積荷に近づく。


一歩一歩焦らず、音も立てずに歩いていたが、あと一歩というところでデルポポがこちらを振り向きギクリとする。


どうやら二人には気づいていたようだ。


デルポポは血走った目で二人に近づいてきて、意外な提案を持ちかけてきた。


「お二人を雇わせて下さい。報酬は私の積荷を奪おうとしたことを不問とします」


「はぁ?何言ってんだおっさん?」


「いいですか?このままヤツラがここで暴れ続ければ私は大損です。そしてこのまま何もせずにいればあなた方は捕まります。どちらにとってもいいことはないでしょう。しかしあなた方が協力してくれるなら少しは私の損失を減らせるかもしれません」


唐突な申し出にさすがに固まってしまう。確かに悪くない取引だが・・・。


「ギル、引き受けるぞ」


「受けてもいいけど、その前に俺達は何したらいいの?」


依頼内容を聞いてからでも遅くはないだろう。


「ヤツラをここから追い払ってください」


「えっ?それだけ?そんなことでいいの?そんなことで帳消しになるならオッケーオッケー。ジークもいいよな?」


ジークはコクリと頷く。


デルポポは商談成立ですねと、ギルに短剣を差し出してきた。


ギルは短剣を受け取り、自分とジークの縄を切ってやる。


このまま逃げ出すこともできたのだが、二人は約束事は守ると決めている。


「よっしゃ。じゃあ行くかジーク」


そうギルが声をかけると、ジークは自分の大剣を背に担ぐ。

常人には持つのがやっとといった大きさの剣なのだがジークは相変わらず軽々と持ちあげた。


ギルが盗賊団の方に向かおうとするといつの間にかタウロスとかいう勇騎士が馬車の荷台のところに立っているのに気づいた。


こちらのことなど眼に入らない様子で荷台の下に手を入れると、タウロスの体が白く輝きはじめる。


雄たけびを上げたかと思うと、荷台を担ぎ上げ、そのまま放り投げてしまった。


おもわず「マジかよ」と声が出ていた。


ジークは楽しそうに「すげーな。ハハッ」と声を上げていた。



ギルは自分の考えが当たっていたことを確信した。


やはりこいつのギフトは肉体を強化するもので間違いないみたいだ。


それにしても、と思う。


ギフトを使わざるを得ないということは、戦っている相手もギフテッドである可能性が高い。


まさか骸盗賊団に本当にいるとは。

安請け合いしちまったかなと少し後悔した。



荷台が投げられた場所は砂埃が舞っていて何も見えなかった。


「俺達の出る幕ないんじゃない?」

笑いながらジークに話しかける。


「いや、まだだ」

そう言うや否や、ジークは砂埃のほうに走り始めた。


「おいっ!たぶん敵はギフテッドだぞ!」


聞こえてないのかジークは構わず走り続ける。

むしろ走る速度が速くなった気がした。


ジークの悪い癖だった。


ギルがジークの後を追おうとした瞬間、砂埃の中が暗く光ったかと思うと、黒い雷がこちら目掛けて飛んできていた。


やばっ!


凄まじい爆音と共に詰所に黒い雷が直撃した。

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