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勇者の贈り物  作者: なお
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魔王

アストリアは詰所を飛び出し、露店通りに目を凝らした。


タウロスも少し遅れて飛び出してきた。


露店通りは騒然とした様子だった。


走って逃げまわっている者。

何かを見ている者。

血を流して倒れている者。

そして、人々を斬りつけている者達。


ざっと見た感じ十数人の人間が人々を斬りつけていた。


「盗賊だ!」

アストリアは詰所に向かって叫ぶ。


おそらく骸盗賊団(むくろとうぞくだん)だろう。

行くぞとタウロスに告げて、アストリアは返事も待たずに露店通りに走り出した。


しかし、ほんの数歩進んだところでアストリアは足を止めることになった。


あまりにも強烈な殺意を感じ全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、すぐさま臨戦態勢を整える。


抜いた長剣と一緒になって汗も握っていた。


露店通りの方向からこちらに向かって歩いてくる一人の男がその殺意の主だということは明らかだった。


その男は黒いローブを着ており、フードを目深に被っていたため表情は窺えないが、その男の剣で刺すような強く鋭い視線をアストリアは感じた。


「とまれ!」


そう告げられた黒衣の男は意外にもすんなりと立ち止った。


そしてゆっくりとした動作で手の平をアストリアに向ける。



アストリアは驚愕した。


黒衣の男の手が淡く光を放ち始めたのだ。


勇騎士同士の訓練でギフテッドの放つ光は見慣れており、その程度のことでは動じない精神力は身に着けていた。


それでもアストリアは驚愕した。


理由は明白だった。


いつも見ている光とは決定的に異なっていたからだ。


勇騎士の放つ白い神々しさをもった光とは対称的に、その男の放つ光は黒く禍々しく邪悪な光だった。


騎士であるなら当然知っていることだった。


黒い光を放つことができるのはソレだけだった。


勇者と対をなす存在。


人類の最大の敵。


目の前にいる男こそが魔王であるのだ。


「アストリア!!」


そう名前を呼ぶ声がしたと思った瞬間、黒衣の男の手から黒いいかづちが放たれた。


しまった!黒い雷のスピードは凄まじく、アストリアはギフトを発動する暇すらなかった。


黒い雷がアストリアに直撃する寸前にドンッという衝撃を受け、地面から足が離れた。

タウロスが体当たりし、射線から押し出していた。


そのおかげで黒い雷はわずか隣を通過し、後方にあったデルポポの馬車の荷台に直撃した。


ドオオオンと激しい音と衝撃が身を包んだ。


荷台は無残に壊れ、勢いよく燃えていた。


アストリアはすぐに体制を整え、手の平を黒衣の男に向けて、状況を把握しようとした。


正直、絶望的だった。


相手は魔王なのだ。


勇者がその命と引き換えにようやく倒すことのできる相手。


いくら自分とタウロスがギフテッドであっても、倒すことはおろか足止めすることすら叶わないかもしれない。


それでも、騎士である自分にはやるべきことがある。


もし今騎士団内でされているとある想定がその通りであるならば、勝機があるかもしれないし、それを証明するまたとないチャンスかもしれなかった。


それにアストリアは恐怖を覚えてはいたが、不思議とそれ以上に胸の奥から強固な意志が溢れ出すのを感じていた。


この敵を倒す。

いや、倒さなければならないという義務とも思える意志を。



アストリアは黒衣の男を警戒しつつ、詰所から出てきた衛兵に告げる。


「魔王だ!魔王が攻め入って来たと領主に伝えろ!」


衛兵はギョッと青ざめた顔をし、たじろいでいたが、早く行けと一喝すると馬に乗りカージャス城に向け駆け始めた。


黒衣の男が手の平をアストリアに向けたままゆっくりと近づいていく。

そして再び手から黒い光と共に、黒い雷を放った。


それと同時にアストリアはギフト『アイギス』を発動させる。


黒い雷はまっすぐこちらに向かって伸びてきたが、アストリアのわずか一メートルほど手前で『アイギス』に弾かれ、消えさった。


やれるっ!

アストリアはその瞬間に自らのギフトがいかなる攻撃をも防ぎきることを確信した。魔王の力ですらも。



―――アストリアの勇者の贈り物(ギフト)『アイギス』は目には見えない壁を発現させ、いかなる攻撃をも防ぐ盾となる力だった。

今まであらゆるテストを重ねてきたが、この盾が突破されることはなかった。

他の勇騎士のギフトすらも耐えられるこの力は魔王の能力すらも防ぎ得るかもしれないと思っていたが、それがたった今、証明された。



黒衣の男は黒い雷が弾かれたことに驚いたのか、立ち止るが、その場からまたすぐに攻撃してきた。

三発、四発と続けざまに黒い雷が迫ってくるが、すべて『アイギス』に弾かれる。


アストリアの額に汗が滲み、焦りが表情に浮かぶ。


『アイギス』は長時間発現させられない。

最長でも一分ともったことはなかった。


黒い雷がどの程度撃てるのかは分からないが、永遠に撃ち続けることも可能かもしれない。


なにか打開策を考えなければ。


アストリアは絶えず迫りくる黒い雷を防ぐ中で、背後からタウロスの声を聞いた。


「うおおおおおおおおお」


振り向くことができなかったが、彼のやることは想像がつく。


アストリアは頭上を何か巨大なものが通過するのを感じる。


巨大な物体が黒衣の男を目掛けてまっすぐに飛んでいき、ズドンッと大きな音が響いた。


馬車の荷台だった。

馬車の荷台をタウロスが黒衣の男目掛けてほうり投げていた。


荷台が落下した衝撃で砂埃が巻き上がり、黒衣の男の姿は見えなくなった。


タウロスがアストリアに駆け寄り、声をかける。


「大丈夫か?」


「問題ない。今のところは・・・」



警戒したまま、砂埃がおさまるのを待つ。


不意に砂埃を切り裂き黒い雷がはしってきた。


アストリアはいつでも対応できるように備えていたが、アイギスで身を守る必要はなかった。


それの狙いはアストリア達を大きく外れていたからだ。



アストリア達の脇を黒い雷が伸びていき凄まじい爆音と共に、詰所が炎上した。

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