標的
ガタガタと走る馬車の荷台にギルとジークは座っていた。
ほんの少し前とは立場が逆転して今度は自分達が縄で縛られている。
口元に巻いていたバンダナを外され、フードも脱がされご自慢のツンツンに逆立てた赤髪をさらされていた。
ギルはとにかく逃げ出す方法を考ているが、目の前で眼を光らせているこの二人がまさか王立騎士団員、それも勇騎士だとは。
そんじょそこらの傭兵ならどうとでも出来る自信はあるのだが。
チラリとジークを見やるとスースーと既に寝に入っている。
どんな神経してるんだこいつ。
とにかくジークには頼れない俺が考えるしかない。
とりあえず現状の状況を整理しようと、捕まった直後の出来事を思い出す。
俺達が捕らえられて、馬車のところに戻るときのことだ。
太ったおっさんはまだ縛られたままで不安そうな表情を浮かべていたが、俺達を捕らえた二人の姿をみてすっかり安心しきった顔で「さすが、勇騎士様」そう言った。
その言葉を聞いた女は咎めるような表情をし、それを見たおっさんは少しバツの悪そうな顔をしていたところをみると、勇騎士がいることを大っぴらにできない理由があるのだろう。
わざわざ商人の馬車に相乗りしている点でもそこは間違いない。
目的はよくわからんが、標的ならなんとなく察しがつく。
とりあえずギルは少し探りを入れてみることにする。
「いやーまさか勇騎士様だったとは、こんなとこに居るとは思いもよらなかったよ。騎士団も商人護衛に手を伸ばしたのかい?あー分かるよ金は大事だよなー」
質問を投げかけてみたが案の定、答えは返ってこない。
「勇騎士様だってわかっていれば、こんなことにはなってねーのに。油断したよ」
「油断?手を抜いていたとでも?」
女騎士がピクリと眉を動かし、聞き返す。
よっしゃ!ノッてきてくれたとギルは内心ほくそ笑んだ。
「いやいや、剣の腕はあんた・・・えーっと俺はギル。こっちの図太いのはジーク。あんたの名前は?」
女騎士は一瞬だけ躊躇を見せたがアストリアだ。そう答えた。
「どうも、よろしく。えーっとそうそう、剣の腕はアストリアの方が数段上だろうけど、他にやりようはいくらでもあったんだよ。勇騎士だってわかってれば縄で縛っただけじゃすまさなかったさ。戦って勝つことは無理でも逃げ切ることは出来ただろうね」
アストリアは呆れたような顔を見せ、負け惜しみだなと言う。
「厳しいねー、その通りだけど。そういえばさあの隙はワザとだよね?」
返答はなかった。
「ほんとしてやられたよ。勇者の贈り物ありきの戦い方なんて。受け継ぐ者と手合わせなんかしたことないし、受け継ぐ者を見たのも初め、いや、あの盗賊団のヤツ以来か」
僅かだがアストリアの目の色が変わった。
「いるのか?骸盗賊団に受け継ぐ者が!」
ギルの予想通り標的は骸盗賊団のようだ。
「いや知らない。さっき俺のこと骸盗賊団か聞いたでしょ?違和感あったんだよねー。王都の騎士様がこんな辺境の盗賊団の名前知ってるの。だから興味ありそうな話題だしてみたら・・・大当たり!ってわけ。で、やっぱり骸盗賊団が標的なんだ。だいたい普通の騎士じゃなくてわざわざ勇騎士様が出張ってくるってことは受け継ぐ者関係しかありえないっしょ。いやー奴ら壊滅させてくれたら俺達にとっても有難いんだけど」
ギルは、してやったりといった顔を作ってみせる。
アストリアは苦々しい表情でギルを見返していた。男の騎士に「今のはお前が迂闊すぎた」と窘められて、さらに渋い顔になった。
ギルが「怒った顔もキュートだね」とからかってみるが、睨みつけるだけでこれ以上は会話してくれなさそうだった。
得られる情報はこんなものだろう。