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勇者の贈り物  作者: なお
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ギルとジーク

ギルとジークは二人組の盗賊だった。


まだこの仕事に慣れないうちは護衛と戦闘になることもあったが、二人とも腕には自信があり失敗したことはなかった。


慣れてくるとギルが奇襲を仕掛け、人質を取ることで楽に成功するようになる。


無駄に争うのはリスクがあるし、何より疲れる。

今回もいつもと同じ、簡単な仕事のはずだった。


馬車の前には無様に三人が縛られている。


太ったおっさんと、その護衛らしき男女。


ギルは持てるだけの麻袋をすでに頂戴し、腰に括り付けていた。もしもの時のために両手は開けておくのが彼の流儀だった。


「まだかー?」

「今終わった」


両手にいっぱいの麻袋を持って、のそりとジークが荷台から出てくる。


「よっしゃ!じゃあこれだけ頂いていくね。魔物に襲われたら可哀そうだし、これ使ってね」と、縄を切れるように女騎士の長剣を地面に突き立てる。


少し離れたところに突き立てたのは逃げる時間を稼げるようにだ。


じゃーねーと捨て台詞を残して小走りに逃げ出した。


深々と茂った森の中、木々の間をスルスルと駆け抜け、二人はまるで世間話をするかのような調子で話始めた。


「今回も余裕だったなジーク」


「ああ。でもあの二人とは少しやりあってみたかった」


「おいおい。俺が上手くやるから戦う必要ないんだよ。ホント悪い癖だな。でも確かにあの二人はかなり

手ごたえあったかも。つーか聞いたかこの交易品三十万エンズだってよ!全部は持ってこれなかったが二十万エンズくらいはあるだろ!これでしばら―――」


ギルは会話の途中に後方から何かの気配を感じ取る。


ジークに警戒を促そうとした瞬間、何者かがジークに飛びかかった。


「ジーク!」


ジークと何者かが組み伏せあっている。

ギルにも姿がはっきりと確認できた。


あの護衛の男だ。早すぎる。いやそれより―――。

思考をめぐらせた直後にもう一つの気配が飛びかかってきた。が、事前に察知していたため身をかわすことができた。



「ちょっと二人とも早すぎない?どうやって縄ほどいたの?」


短剣を抜きながら時間稼ぎのつもりで会話を始めるが、護衛の女は問答無用といった具合に上段に構え、剣を振り下ろしてきた。


素直な太刀筋だった。


ギルは短剣を構え女騎士の剣をいなそうと目論む。


その隙に懐に潜り込めば獲物が小さく小回りの利くギルが有利になるはずだった。


しかし女騎士はその考えを悟ったのか短剣に当たる直前にユラリとその太刀筋を変化させ短剣をかわしギルの首筋に刃を迫らせる。


ギルはすんでのところで後方に飛びなんとか身をかわすことができた。



「おーこわっ。殺るき満々?」

軽い口調とは裏腹にギルは嫌な冷たい汗をかいていた。


明らかに相手の方が腕前が上だったからだ。


ギルの軽口が聞こえてないかのように女騎士は休む暇を与えず攻めたててきた。


上下左右と隙の無い攻撃を打ち分け、反撃にうつる暇すら与えない。


一撃の重さは大したことはないもの隙も少ない華麗な連撃を見舞ってくる。ギルはそれを防ぐことに精一杯だった。



「もうちょっと、そのお顔みたいにっ、可愛げ見せてよっ」

そんな惚けた台詞を吐いている間も、少したりとも手を緩めてくれる気配はない。


ギルは防戦一方ながら反撃の糸口を探るため、相手を観察していた。


太刀筋に、足さばきに癖は?息継ぎをする瞬間は?


相手の一挙手一投足を観察し、わずかだが隙が見える。


左からの水平斬り、それから連携する斬り返しに移る際にわずかだが隙がある。

この隙をつければ"アレ"を使わずとも勝てる!


相手の連撃を受けつつ左からの水平切りを待つ。

―――来たっ!まずは左からの水平斬りを引きつけて躱す。予想通り斬り返しに連携してくる。

そしてこれも予想通りに僅かだがもたつき隙をさらす。

その瞬間に一気に間合いを詰め、短剣を振るう。


ギルの予想通りに事が運んでいた、たった一つを除いては。


女騎士がその両の手で握っていた剣から右手を離し、その手のひらをギルの短剣に向けていた。

手で受け止めるつもりか?

ギルはそれでも自分のほうが早いと気にせず短剣を女の首筋に向けて進める。



しかしその瞬間、女の体が淡く光ったと思うとガキッと音を立て刃が届く前に短剣は弾かれた。

まるでみえない壁に弾かれたかのようだった。


―――やられた!これは!


そう思った瞬間に女の剣がギルの首筋に押し当てられていた。


これほどの実力の相手にここからの逆転は期待できそうになかった。


唯一、助けが期待できるジークの方をみると、うつ伏せの状態で腕を極められ取り押さえられていた。


ギルはハァーっと深いため息をつく。


「色々と聞きたいことはあるけど、とりあえず降参ってことで」


引きつりまくった笑いを浮かべることが精一杯の抵抗だった。

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