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勇者の贈り物  作者: なお
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99度目の決着

九十九回目。九十九回目にも及ぶ二人の戦いはまた決着を迎えようとしていた。


もう陽も沈み始め、夕日が草原を黄金色に輝かせている。


あたりは静寂そのもので、ゼェゼェ、ハァハァと二人の吐息以外なにも聞こえはしなかった。


一人の男は光り輝く白銀であったことを解らせないほどにボロボロになった鎧に身を包み、身の丈ほどもある巨大な剣を構え敵を睨みつけている。


睨みつけているその眼は開くのがやっとといった具合に力なく霞んでいたが、隙を微塵ほども見せない百戦錬磨を思わせる構えをしていた。


その男の体は淡く儚げであるが白く発光しており、満身創痍な状態であっても力強く感じられた。



もう一人の男はところどころ破れ素肌をさらしてしまっている黒のローブをその身にまとい、脱力した様子で右手に長剣、左手に短剣を握っている。


ローブのフードを目深にかぶっており目線は読めないが、眼前にいるその男を睨みつけていることは明白だった。


その男の体も淡く儚げに発光していたが、その光の色はどこまでも黒く深い恐怖を感じさせた。



どちらも深く息を吸い込み、呼吸を整えると長い沈黙があたりを包んだ。


どちらも言葉を発しない。両者とも確信していた。次の一撃が最後になることを。


次の自分の一撃が相手を死に至らしめると。



白銀の騎士の片時も休むことなく敵を睨みつけるその瞳には強固たる意志と、燃えさかるような激情を宿していた。


黒衣の剣士は勝利を確信してか、はたまた狂気からなのか、不敵な笑みを浮かべていた。


お互いが相対して無限とも思える時間が流れた時、それは不意に訪れた。一秒も百分の一秒程の誤差もなく、まったくの同時であった。


白銀の騎士の光が力強く、眩く、世界すべてを照らしてしまうように輝き、高く跳躍していた。

――同時に黒衣の剣士の光も禍々しく膨れ上がり、世界を侵すかのような邪悪さをまとい、獣のように地を這い突進し、左手に握る短剣を白銀の騎士に向かって投擲した。


禍々しい光を帯びた短剣が突き刺さる寸前、白銀の騎士の軌道が不自然に変化する。


両肩より光を放出しその反動で急降下、急加速した。


白銀の騎士は短剣を僅か頭上に躱し、その先、黒衣の剣士に向けてさらに加速していく。


黒衣の剣士はその動きをあらかじめ知っていたかのように白銀の騎士に向かい跳躍する。


お互いの最大の一撃が交錯した。白い光と黒い光がせめぎあいキィーンと甲高い音を立てている。


白銀の騎士の肩から放出される光はまるで翼に見え、その姿は天使のように神々しかった。

対して、黒衣の剣士は相手を喰らいつくさんとするような光はまるで餓えた獣のような姿だった。


互いの力が高まり、やがて限界を超え轟音と共に凄まじい爆発が起こる。


その爆発の光で一瞬、周囲は昼間のように明るくなり、爆風で付近の木々はなぎ倒された。


二人が交錯した場所には爆発凄まじさから、地面に大きなクレーターができており、そこには"勇者"の姿も"魔王"の姿も見られなかった。


この九十九度に及ぶ二人の戦いの結末を知るものは誰もいない。

しかし、空に輝く大きな光を多くの人が目撃していた。


人々はその光が魔王を撃退した奇跡の光と信じ、それを勇者ソラリスの奇跡と呼んだ。




それから二十五年後――勇者の再誕はまだ確認されていない。

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