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6話 探し物

水琴家に着いた俺と早瀬は、早速限定モデルのスカイフットボールシューズを探すことにした。

「ほんと大きいおうちー」

と早瀬が声を漏らすのも仕方ない。

実際水琴家は大きい。


和風の平建てで、大きな日本庭園も持っている。都内のどこにこんな広大な土地があったのかというくらい規模の大きなものだ。

春鷹がよく買い占めしていても置き場に困らないのがこの家である。そんなこともあり、限定モデルのシューズをどこに置いたのか全くわからない。


「えー、春鷹わからないの? 自分のものなのに」

素直に場所が分からないと早瀬に伝えたらあからさまにガッカリされてしまった。彼女は感情を隠さないタイプみたいだ。

車の中ですっかり俺のことを気に入ってしまた彼女は、俺を名前で呼ぶことにしたらしい。

俺も記憶にある春鷹もコミュ障気味なので、少しこそばゆい。けれど、嫌じゃない。むしろいい!


うむ、それにしても自分の家の自分の持ち物なのに、全くどこにあるか把握できていないこのずぼらな感じ。とても嫌である。

春鷹に乗り移ったこの俺は結構シンプルイズベスト、質素な生活を好むタイプである。

不要なものを貯めておくのは性に合わない。


いい機会だし、不要な物を一度集めて全部処分してみるのもいいかもしれない。

となると、人手がいるな。

「ちょっと手伝ってもらうとしよう」


俺はお手伝いさんたちが生活するエリアへと出向き、顔を覗かせた。

ちょうど料理を作っていたみたいで、凄く忙しそう。

「忙しそうだね」

「うん」

お手伝いさんだから気軽に頼もうと思ったのだが、それは大きな間違いだった。

彼らは彼らで普段から割り当てられた仕事があるので、忙しいのは当然だった。

急に要件を申し付けられても困るのは当然だ。それなのに、俺の記憶にある限りじゃ春鷹はめちゃくちゃ使用人をこき使っていたな。

俺専属に何人か雇入れられているはずなのだが、その人たちの手に余るようなことまで頼んでいたりしたな。

例えば巨大ジグソーパズルの制作を頼んだり。例えば彫刻の依頼をしたり。

それの何が楽しんだと春鷹に言ってやりたい。自分でやってこそ楽しめることだと思うけどな。


そういえば俺専属のお手伝いさんたちが見当たらない。

それを早瀬に伝えた。

「春鷹学園の寮に入るんだから、専属のお手伝いさんたちはやめちゃったか他の部署になったんじゃないかな? 」

「なるほど」

そうか。そうだよな。俺がいなくなるのに、専属のお手伝いさんだけ残して置くわけないか。

あちゃー、このままだとこの巨大な屋敷内を当てのなく探し回らないといけない。

子供二人にはかなりきつい作業になってしまうんじゃないか。

どうしよう。見つかるかな? 早瀬はかなり期待しているみたいだけど……。


「坊ちゃん。どうしました? 」

早瀬と向き合って困っていたところを、後ろから声をかけられた。

振り向いたそこには割烹着に身を包んだ若い女性がいた。


仕事用の割烹着を着ているからこの家のお手伝いさんなのだろう。

見たことのない顔のはずだが、どこか見覚えがある。不思議な感じだ。

凄く若い人だった。忙しそうに料理を作っている他のお手伝いさんたちより一回り位も年若いのではないだろうか。

顔は化粧気が少なく、清楚な薄顔美人である。

早瀬を数段大人しくさせたような人だ。

なんだろう。俺はこの人に何を感じているのだろうか? わからない。


……けど、なにか見落としている気がする。


思いつかないので、一旦それは放置することにした。

「あなたは料理を作らないんですか? 」

「ええ、私は休憩中ですので。少しお茶を頂きに行こうとしたところ、坊ちゃんをお見掛けしましたので声をかけさせて貰いました」

休憩中か。

いやー、それは手伝いに協力させられないな。


これまでさんざん悪いことばかりして来たんだ。

俺が乗り移ったからには今までの罪を償っていかなきゃと思っている。それが自分のためにもなるし、周りのためにもなる気がするからだ。

「そうか。じゃあそのままお茶を取りに行ってくれ。俺たちは行くとするよ」

「あの、坊ちゃん。何かお困りの様子でしたが」

「いや、いいんだ。わざわざお手を煩わせてまで頼むようなことじゃないから」

俺がそういうと、彼女は優しそうな笑顔を見せて緩やかな動作で裾をまくった。


「他の方はどうか知りませんが、手を煩わせて貰いたくてこの職場を選んだんですよ。いいから、何かあるなら言ってください。それが仕事ですので」

相変わらず優しい表情のまま彼女は言った。

「でも休憩中だし。それに他の仕事もあるんじゃ」

「私はここで一番若いですから。仕事はたくさんあるほうが張りがあるものです。ほら、言ってみて下さい! 」

困った俺は早瀬と顔を見合わせる。

早瀬が頷くので、俺もそれに同意することにした。


「じゃあお願いしようかな。俺が以前買い占めたキンドレッド社の100周年を祝って作ったスカイフットボールのシューズなんだけど、どこにしまったのかわからないんだ。家が広すぎて適当に探すのも大変だと思って協力者を募っていたんだけど」

「そうでしたか。なら尚更私に声をかけて正解です」

胸を叩いて彼女はその理由を教えてくれた。


どうやら彼女はこの家で働くにあたって、家全体を把握するためにどこになにがあるのか全てを記憶したらしい。結構すごい記憶力な気がするのだが、信じていいのだろうか。

「こっちです! 」

と自信満々に俺たちを先導するので、不安感じる時間もなく慌ただしく彼女に続いた。

自分の家のはずなのに、見たこともない場所を何度か通り過ぎ、奥まった場所の一番奥の部屋の前にたどり着いた。


「この中にありますよ」

ここまで迷わずに来たぞ。

物の起き場所も覚えているし、本当にすごい記憶力だ。

彼女が部屋の扉をあけると、中には積み上げられた大量の荷物があった。


見ていくと、どれも俺が買い占めただけ買い占めてその後放置していたものばかりだった。

とても勿体ない。

この大量の荷物の中からシューズを見つけるのは結構大変な作業になりそうだった。

けど、若いお手伝いさんはこの中もある程度把握しているみたいで、心当たりがある場所を探り出した。


俺と早瀬も手伝っていく。

荷物をあさっていくと、うわー、こんなものも買ってたなーと記憶の整理にもつながった。

手を動かしている間、早瀬やお手伝いさんとも会話をしていった。真面目な学校生活を送るためにも、コミュ障気味な性格は常時回復を心掛けてリハビリしていくべきだろう。


「はやせー、あったか? 」

「ないー。春鷹は? 」

「ないぞー。お手伝いさんはー? 」

「ないですー」

「ねえ、綺麗なお手伝いさん。お姉さんって何歳なの? 」

作業中、早瀬がお手伝いさんに年齢を尋ねた。正直俺も気になっていたので、ナイス質問だ。


「私ですか? 私は17歳ですよー」

高校卒業してすぐ働いているのだろうか? もしかしたら高校も行っていない?

「大学行かないんですか? 」

俺の聞きたいことを聞いてくれる早瀬、ナイスー!


「私は魔法の素養がないので。それに水琴家への就職も決まったし、大学への興味はあまりありません」

「そうなんだー。記憶力凄いのにねー」

本当にそうだと思う。これで魔法の素養もあれば、きっと別の道もあったんじゃないだろうか。

なんだかこの人、やっぱり凄く気になる。

何か見落としてんだよなー。

まあいいか。今は手を動かすとしよう。



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