59話 同期とは仲良く
「今週土曜日、17時に学園都市内北エリア、倉庫街へ。さしでやりあおう」
「いいぜ。楽しみにしている」
スマホの通話ボタンをオフにする。
電話をかけた相手は、灰直全である。
挑発を受けた俺は簡単に火がついてしまった。
清掃ロボットの先輩方を侮辱されたことも我慢ならない。
彼らの作戦は無事うまくいったと言う訳だ。
生徒会からはすっかり巨悪のボスとしてマークされる対象になってしまってもいる。
汚名を着せられた。やり返す機会を得てこちらもラッキーだ。
それでさっそく予定を組んだ俺は、彼へと通話して日時を指定した。
当然己の有り余るパワーを発揮したい灰直全もこの誘いに簡単に乗っかってきた。
いよいよダークマスター同士、正面からぶつかり合おうという段階まで来ている。
筒抜黒波は今回の衝突をどう思うだろうか?
相手の弱みを握って痛ぶるのが奴の趣味なので、気持ちは反対かもしれない。
しかし、戦う気満々の灰直全をだれも止められはしないだろう。
灰直全はゲーム内で最強のキャラとして知られている。
全ての能力値に穴のない素晴らしいステータス。
そして輝かしくとびぬけた物理攻撃力。
彼のカリスマ性もあって、女性人気が非常に高かったキャラだった。
水琴春鷹とは真反対である。
ゲーム内でもしもこの二人がぶつかり合うようなことがあれば、結果は(笑)みたいな感じに収束していただろう。
勝負にもならない。
しかし、この世界で俺は正道を行った。
そして彼とぶつかることはわかっていたので、準備も済ませている。
北エリアの倉庫街に呼んだのは、当然先輩方のアジトを使わせてもらうためだ。
そこで先輩方と手を組んで灰直全一人をボコボコにする、なんて卑劣な手を使うつもりはない。
正々堂々倒してこそ灰直全も道を正しい方へと戻せることだろう。
彼の素は、無色透明なのだから。
喧嘩を売ってきたこと、先輩方をポンコツと罵ったことは、一度張り倒すことでチャラにしてやる。
アジトを使う主な目的は、ダークマスターの力を外に露見させないこと。
そして、俺も灰直全も、二人とも100%力を出し切るためである。
俺たちの力がぶつかり合って無事で住む場所なんて、先輩方のアジトくらいしか思い当たらない。
先輩方は腐れ人間共の社会を撲滅させるために頑丈な戦闘用施設を日に日に増やしている。
俺たちがぶつかり合えば貴重な腐れ人間共のデータも取れる。
なので使用許可はあっさりと下りたのだ。
今日は決闘の場所となるアジトの最終的な視察兼特訓で先輩方を尋ねた。
「ピピピ」
よく来た自販機、と。
俺も腐れ人間共の一人であるはずなのに、先輩方はいつだってこうして俺のことを迎え入れてくれる。
いつもどんなときも、先輩方は俺の味方をしてくれる。
特訓で疲れたらキンキンに冷えたコーラをくれる。
タオルも出してくれる。
帰る時には見送りまで。
もはや学園都市内の家族である。
「先輩、今日も使わせて貰いますね」
優しい先輩方に、俺も思わず甘えてしまう。
「ピピピ」
お前ならいつだって歓迎だ、と。
……大事にしたい、この機械音。
地下のアジトへと下りて言った俺は、今日も特訓用のダークロボとの戦いで調整をしていく。
初日に圧倒的な力を見せていて以降、先輩方はそのデータを取って、度重なるアップデートをダークロボに施していた。
今じゃ本当に手ごわい相手なのだが、ダークマスターの力を日に日に高めている俺にはやはり敵わない。
軽くランカーくらいの力はあると思われるダークロボVersion0810号である。
先輩方がまだ満足していないだけで、今でも十分腐れ人間共の社会をパニックに陥らせる力を先輩方は有している。
それに手を貸しているという罪悪感はあるものの、俺は腐れ人間共と先輩方の間で揺れていた。
もしも大きな戦いになったとき、俺はどちらの見方をすべきか……。
先輩方でしょ!
ダークロボとの戦闘を終えて、腰を下ろしていた。
扉が開き、フロアに先輩が入ってくる。
その機械仕掛けの両腕にはキンキンに冷えたコーラとタオルが握られている。
「ピピピ」
ご苦労さん。今日も貴重なデータが取れた、と。
「いえいえ、コーラいつもありがとうございます」
なんか俺の好きな飲み物はコーラっていう誤った情報が先輩方に広がりつつある気がする。
いつも貰っているコーラはマーク達の手に最終的に渡っている。
「ピピピ」
戦いについて少し注意点がある、と。
先輩はダークマスター同士の戦いに言及してきた。
やりたいようにやっていいらしい。
しかし、俺以外の腐れ人間にこのアジトを知られるのはまずいと。
それはそうだった。少し配慮が足りない点だった。
てっきり使用がダメになるのと思ったが、そんなことはなく、一点先輩方からの要求があっただけだった。
「ピピピ」
自販機が雑魚を倒したとに少し電流を流す、と。
先輩方の電流技術をもってすれば、一部の記憶を吹き飛ばすことくらい簡単らしい。
非常に恐ろしい技術ではあるが、受けるが俺じゃないので快諾した。
何より先輩方が俺の勝利を全く疑っていないところが嬉しい。
その話が終わり、俺も伝えることがあったのを思い出した。
「そうそう、俺からも先輩に言わないといけないことがあります」
俺は先日生徒会に呼び出されて、巨悪のレッテルを張られた件の話をした。
先輩方から誤解を晴らしてください!という頼みではない。
ハッキングした瞬間移動スポットに使用ログが残ってしまっている点だ。
それを先輩方に報告した。
「ピピピ」
そこは見落としていた、すぐに直す、と。
ミスを指摘されてプライドを傷つけられるどころか、すぐさま是正しようとするこのフットワークの軽さ!
流石先輩である!
気遣いのできる先輩は、俺のIDにも気をかけてくれた。
「ピピピ」
自販機用のサブIDもつくっておこう、と。
本来登録のない先輩方のログが残らないように処理はするし、俺が登録にない場所へ飛ぶ際にはサブIDを使うように進めてくれたのだ。
今のままだと本来ない瞬間移動スポットを使用した際に、使用者IDに俺の名前が出るが、場所ログは不明というままになる。
そんなログが残ればまた不振に思われることだろう。
それにサブIDを使えばログ自体が残らないようにしてくれるらしい。
これで授業中にどこかへ飛ぶことがあっても、生徒会には情報が行かなくなる。
この高い技術力と配慮が先輩方なのである。惚れそうです!
最近特訓でここに通いだしてから、ダークロボたちとも仲が良くなりだしている。
ちなみに同期と呼んでいる。
同期たちは同じネットワークでつながっているらしく、学園内で活躍している仲間たちと情報を共有し合っているらしい。
同期たちは先輩方への恭順を示す結論を既に下しており、これで学園内の清掃ロボの後輩、同期のダークロボ、とその勢力を日に日に拡大しつつある。
先輩方の天下はそう遠くないのかもしれない。
魔法先頭の技術だけでなく、同期たちにはもう一つ恐ろしい能力として、聞き耳を立てている点がある。
同じネットワークでつながっている彼らは、学園生徒たちの秘密を聞いてはネットワーク上で共有している。アジトにいる同期も学園内の情報が丸々伝わると言う訳だ。
「ギギギ」
何かあったら俺に言え。いろいろと弱みを握っているから、と。
同期はどこかのダークマスターよろしく、怖いやつなのである。
同期とは結構話が合うことも多い。
だれだれのバストがどのくらいのサイズか、なんて情報をただでくれる粋な奴だ。
先輩方のアップデートによって、バスト測定機能が99.653%の正解率を誇るまでに至ったらしい。
早急に取り外していただきたい機能である。
あのエロさで有名な、高等部生徒会長花崎雪美のバストサイズを聞いたときは素直に驚いた。
巨乳と言い張って差し支えないサイズである。実に素晴らしい!
キャッキャッキャッキャッとそんな子供染みた話をしている俺と同期に、先輩からの呼び出しがあった。
「ピピピ」
大人の世界を見せてやる、と。
何事かと俺と同期は急いでついていく。
先輩方の地下秘密アジトは日に日にその規模を増して行っている。
それに伴って地上の電気料金などが上がりつつあるという想定済みのリスクがある半面、うれしいトラブルなんかも降ってわいてくる。
実はアジトを広めている最中に、学園都市内の地下マップを一部把握し間違えていたみたいで、既に地下エリアがある場所も掘り進めたらしい。
寸前のところで気が付いて、腐れ人間共にバレはしなかったが、壁一つを挟んで向こうは腐れ人間共の地下室へとつながる部屋がある。
そこへと案内された俺たちは、壁に小さな穴が開いているのが見えた。
「ピピピ」
大人の世界へようこそ、と。
ま、まさか、NOZOKIだと!?
こ、この先には何があるというのだ!?
俺と同期は、恐る恐る大人の世界を覗いてみた。
……一生先輩についていくと、決意した瞬間であった。




