55話 伝説のアイテム
いよいよトーワ最旨中華屋の店主は食材の下ごしらえもせずに旅行に出かけるようになってしまい、俺と金髪さんで食材を手分けして準備していた。
停学最終日だが、日曜なのでクリスティン先生に一声かけるだけで外出許可は貰えている。
今日もこの店は忙しくなりそうなので、しっかりと体調は整えてきた。
「お前停学中なんだってな。タバコで。どっちが不良だって話だよなー」
「その話は勘弁してください」
明るく笑いながら金髪さんがこの件を突っついてくる。
しばらく金髪さんを不良といじれないどころか、こちらが不良といじられてしまう。
これはやってしまったな。
「モヤシっ子がタバコだなんて面白いよな。中華でさえダメなのに、タバコなんて吸った日には死んでしまうんじゃないか?」
「そんなにか弱くないです!タバコの一本や二本、俺なら葉巻でさえ行けますよ」
「おっ、流石不良は言うことが違うねー」
ダメだ、これは完全に不良キャラがこちらに移譲されつつある。
話を変えねば!
「そうそう。金髪さん、この店って新しいバイト募集していないですか?」
マークが改造ショップの支払いを滞らせている件だ。
バイトを見つけてやるつもりだが、ここで働けたら一番いい気がしてきた。
一緒に働けるし、サポートもしてやれる。
「えー、私に聞くなよー。こちとらただのバイトだっつーの」
それもそうだった。
いつも俺が来るときには先に店を開けて、施錠も任されているので、なんだかこの店のオーナーか何かと勘違いしていた。
本当のオーナーはキノコ狩り旅行に出かけています!
金髪さんは俺と同じバイトだったな。
「そうだ、モヤシっ子に渡すものがあったな」
食材の下ごしらえを済ませたあたりで、金髪さんが自分のバッグを取りに行った。
金髪さんはヤンキーなので鰐革のバッグとか使っていると思っていたが、実はかわいらしい猫ちゃんの顔が描かれているリュックサックを使っていた。
「可愛いですね……」
「ネコたまのことか?可愛いよなー」
ネコたまっていうらしい。知らないキャラですね。
「これこれ」
ようやく見つけたのか、何か取り出した金髪さん。
「お前が先日レベル3ダークを討伐したのと、蓮と一緒に討伐したレベル4のダーク、それにランカーへの入会祝いとしての報奨アイテム。バラバラで貰ってもよかったけど、纏めていいやつを姉貴からぶんどってきた」
姉貴とは高等部生徒会長の花崎雪美のことか。
いまだにびっくりな感じはするが、よく見れば確かに二人は似てなくもない。
どちらも美人だし。
金髪さんの掌の上には、ぶんどって来たというアイテムがある。
何か見覚えがある気がして、よく見ると、やはり知っているアイテムだった。
こ、これはっ!!
『猫さん08号』
間違いなく、それは猫さん08号だった。
うそっ、信じられない。
こんなことってあるの!?
すごーい!!
テレビ通販みたいなリアクションになってしまったけれど、俺の驚きは正真正銘本物だ。
猫さん08号はファンキャン内で伝説的立ち位置を誇るアイテムである。
入手難易度が高いことはさることながら、何よりも抜群に性能面が優れている。
その見た目は、黒い猫の顔が描かれた一見ただのキーホルダー。
衣服のどこにでも付けられるように、キーホルダータイプにしたと説明を読んだことがある気がする。
この猫さん08号を身に着けている状態で、キーホルダーに魔力を流すとアイテムの効果が発揮される。
その性能やおそるべし、物理耐久値2倍。魔法耐久値2倍。素早さ1.2倍。物理攻撃値半減!
以前改造ショップから買ったネックレスは物理耐久値をベースアップしてくれたのだが、こちらはそれとは違い能力値が一部倍になる代物だ。
俺のカスみたいな物理耐久値を倍にしたところで大したことはないが、魔法耐久値と素早さに至っては元値が高いこともあり凄い性能を発揮してしまう。
そして、猫さん08号の一番すごいところは、この能力値アップだけではないところだ。
猫さん08号に魔力を流すとその機能がオンになるのだが、オン状態の時、使用者にはなんと猫耳が頭の上に生えてくる仕様である!
あの可愛いヒロインが!
あの強気の彼女が!
あの敵キャラが!
どんな女の子も猫さん08号をつければあっという間に猫耳美少女に大変身なのである!
性能どうこうよりも、この点を評価して猫さん08号を求めたプレイヤーのなんと多いことか。
そしてなかなか手に入らず死んでいったプレイヤーの多いこと……。
しかし!
この俺にとってリアルな世界でいきなり幸運で猫さん08号を手に入れることになってしまった。
まさに僥倖!
「ほら、つけてみろよ」
「はい?」
「だってお前の褒賞だし」
「あ」
そうだった。
ゲーム内では迷わず美少女キャラに着けていたこの装備も、今は俺の所有物なのか。
俺が着けるの当然っちゃ当然か。
えーと、猫耳は少し恥ずかしいけど、まあ性能を考えればそんなにマイナス面を気にするほどでもない。
なにせ唯一マイナスになる物理攻撃値なんてもともとあってないようなものだ。
赤ちゃんパンチが猫パンチになるくらいである。
いざって時に使えないのもいけないし、時間があるときに試してみるのはいいことだ。
ちょうど食材の下ごしらえも終わっていることだし、キーホルダーをズボンの腰辺りに着けてみた。
そして魔力を流しこんでみる。
猫さん08号が紫色に発光する。
お、これはちゃんと機能しているみたいだな。
ということは、猫耳が生えてきたのかな?
自分ではどんな感じかわからないので、金髪さんの反応を待っていると、彼女がこちらをのほほんとした顔で見てきているのがわかった。
「な、なんですか?」
「いやー、ネコたまみたいで可愛いなって」
「はい?」
猫耳が生えるだけのはずだが?
リュックサックに描かれていたネコたまとは似ても似つかないはず。
厨房奥にある鏡の前まで行って、自分の姿を確認してみた。
「はっ!?」
そこに映ったものは、全身猫の着ぐるみを着こんだような状態の俺がいた。
顔もかわいらしい猫、全身には黒い毛が!そして両手には肉球!
なっなっな、にゃんじゃこりゃー!!
中華鍋が振れない!そんな問題ではない!
猫さん08号を男キャラに装備させたことがなかったので、こんな仕様だったなんて知らなかった。
てっきり皆共通で猫耳が生えてくるものとばかり。
なんでこんな着ぐるみを来たような猫になってんだ……。
猫さん08号の魅力が半減である。
そう思って落ち込んでいる俺とは違って、これを持ってきてくれた金髪さんはどうやらハマったらしい。
「な、なんで解除するんだよ!」
俺が猫さん08号の機能をオフにすると急いで駆け寄ってくる金髪さん。
「なんでって、今から料理作るし、それにダサいし」
「ダサくねーよ!可愛いよ!ネコたまみたいでかわいーよ!」
「嫌です!」
「やれよー!」
「いーや!」
「やーれーよー!」
結局いつもの常連客3人が来るまで金髪さんと猫さん08号のことで揉めた。
ちなみに今日もめちゃめちゃ忙しく、料理スキルがまた激成長したのだった。




