52話 特訓
時計が17時を過ぎたので、俺は早速職員室に向かうことにした。
もちろんクリスティン先生から外出許可を得るためである。
チーズバーガーを食してちょっぴり顔色の悪いを俺を気にかけながら、先生は俺の行き先を尋ねてきた。
「ちょっとした特訓に行ってきます」
「ジム?スカイフットボールのチームメイトが行っているところですかー?」
クリスティン先生がマークたちを知っているのも驚きだが、ジム通いしていることを知っているのも驚きである。
「いえ、違う場所です」
「そうでしたかー。マーク君たちのジムには先生もたまに行くから知っているんですー。水琴君が来てくれないっていつも嘆いていますよー。せっかくなら同じところに行けばいいじゃないですかー」
そんなやり取りをしていたなんて知らなかった。
嘆くほどのことか?とは思ったが、思われているうちが幸せである。そのうち着いて行くとしよう。
「ちょっと一人で特訓して驚かせてやります」
「あ、そういうのいいと思いますー」
「じゃあ、外出許可貰えますか?」
「ええ、悪さしちゃダメですよー」
ウインクしながら先生が可愛く指でOKサインを出してくれた。
寛容な先生でよかった。
感謝を述べて、俺はさっそく部屋へと戻る。
本来なら外に出ない向かわないといけないはずだが、先輩方のご厚意で俺の部屋に瞬間移動スポットが設置されている。
使用許可リストにも名前が入っているので、いくら使用しても構わない。
ゲーム内では当然気にする必要のなかった点だが、おそらく瞬間移動スポットというのは使用する際にかなりの電力消費を伴うのだと思う。
それゆえ、学園生徒でも一部にしかその権限は解放されておらず、皆の様子を見るに一般的な移動手段に使われてはいない。
そういうわけで、少し贅沢な気分を味わいながら俺は瞬間移動スポットで北エリアの倉庫街へと飛んだ。
そういえば飛ぶ先をまだ聞いていなかったと思ったが、目の前に広がる光景でどこだかはすぐに判明する。
清掃ロボットの先輩方が収納されている充電倉庫の真下に建設している秘密アジトである。
前回来た時より少し広がっている気がするのは、果たして思い違いなのだろうか?いや、違わない。
腐れ人間共は、早いうちに先輩方へ白旗を挙げたほうがいいかもしれない。
「ピピピ」
よく来た自販機、と。
さっそく俺を見つけた先輩の一台が近づいてきて迎えてくれる。
自販機とは俺の通称である。
先輩方の間ではそう親しまれている。
夏は冷たくクールに、冬は暖かく温めてくれる、自販機とはそういう存在だ。
きっと先輩方も俺のことをそう思っているに違いない。ありがたいことだ。
「ピピピ」
今日はまたどうした?、と。
俺が来るという情報は行き届いているみたいで、先輩はそんな言葉で迎え入れてくれた。
俺はこちらの都合を素直に伝えた。
まずは先輩方が定期的に憑りつかれているダークの除去をすること。
先輩方はそれで定期検査にパスできて、俺はダークの吸収とレベルアップを図れる。
先日大先輩の件でここがボーナスステージだと判明したので、それの利用がしたいことを伝えた。
「ピピピ」
こちらもありがたいし構わん、と。
話の分かる先輩で助かる。
そして、ボーナスステージの了承を得た俺は、続けて先輩方に特訓施設がないかどうか聞いてみた。
腐れ人間共の社会を倒すのが先輩方の大義である。
きっと何か表に出せないような危ないことをしているんじゃないかと俺は想定している。
まあなければないで、ボーナスステージを消化、都市内の見回りでダーク吸収のコースもある。
しかし、当然そんな選択はなくなる。
なぜならば、先輩方は当然戦闘に特化した施設を用意していたからだ。
「ピピピ」
ちょうど良いのがあるぞ、と。
どうだ、先輩方は日進月歩で進化を続けている。震えて眠るがよい!腐れ人間共!
いかんいかん。たまに先輩方に毒されていることがある。
俺は止める側でなければならない。腐れ人間側で、しかも俺は代表的な腐れ人間だ。忘れないようにしよう。
「ピピピ」
ついて来い、と。
先輩が新たに増設されたエリアへと俺を導き、その途中で背中を向けながら計画の進行具合を説明してくれた。
いよいよ秘密アジトの完成が見てて来た先輩方はアジト内だけでなく外にもその手を広げ始めているとのこと。
瞬間移動スポットのハッキングによりその技術を得た先輩方は、学園都市内に実に100箇所を超える瞬間移動スポットの設置に秘密裏に成功しており、あとは機を見て、戦闘型ロボットをそこに送り込み、腐れ人間社会を壊滅させる作戦なのだと。ちなみに、清掃作業中にひっそりと学園都市内の都市機能を停止させられる場所を的確に選んでスポットの設置をしているらしい。
俺が働いている中華屋は攻撃対象エリアではないことも教えてくれた。
流石先輩!
いやいや、褒めている場合ではないな。
先輩方の計画の進み具合が俺の想定よりもはるかに速い。
誰か協力者がいるんじゃないかと思うほどだ。
人間で手を貸している奴……、うわ、俺だよな。
まだまだのんびり見守っていようとも思っていたが、これは本格的に手を打つ必要がありそうだ。
うーむ、先輩方の怒りの発端である火をつけた金持ちでも捕らえられたらいいのだけど、なかなか現実的なアイデアではない。手がかりがあまりに少なすぎるからだ。とても見つけられないだろう。
適当な金持ちでも捕まえて生贄に差し出すか……。
水琴家の力をもってしたら、できなくもないこともない。
しかし、それでは罪を重ねるだけだ。もうこれ以上水琴春鷹という男に罪を重ねるのは流石に気が引ける。
今でさえ牛車が必要なくらい重い罪を背負っているのだ。
「ピピピ」
ここだ、と。
先輩方の暴走を止めることを考えていたが、いいアイデアが出てくることもなく目的地へと着いた。
「ピピピ」
随分広がっただろう。最終的には学園都市地下全てをアジトにするつもりだ、と。
恐ろしい計画をまた一つ聞いてしまった。
そうなったら更なるインフラ設備も必要になってくる。田中家と鈴木家、さらには山田家の電気代も心配になってくるレベルである。
先輩が新しく作ったというフロアは、完全に戦闘訓練用の部屋だ。
フラットな地面を四面の壁が囲み、扉から入ってすぐに見える正面上部には特殊窓が張られて、奥でデータを取っている先輩方がいる。
怪物と戦わされる実験施設みたいな感じだ。俺は今から何と戦わされるのだろうか……。非常に怖いのだが。
「ピピピ」
実は先日学園から訓練用ロボットを一台調達している、と。
先輩が言う通り、フロアの中心に立つ学園でよく見る訓練用ロボット、通称ダークロボが一台いた。
あれを一台確保した経緯だが、学園生徒が魔法を放った際に、格外のダメージ量をたたき出したため、故障に至ったらしい。それで廃棄されるはずだった一台を、廃棄業者の怠慢をついて先輩方が確保したとのこと。
油断ならない手つきである。
それにしても、その話の当事者である俺は、当然名乗り出るようなことはしない。
先輩方は故障したダークロボを修理し、さらに開発会社が用意しているアップグレードのデータをハッキングするとともに、独自の技術力をもってして更なる強化をしたらしい。
聞いているだけでも、だんだんと恐ろしくなってくる仕様だ。
「ピピピ」
存分に頼むぞ、と。
「わかりました」
先輩方もデータを欲している。
俺は戦闘技術とレベルを稼げるチャンス。
利益の合致したので、いよいよ特訓開始というわけだ。
先輩が出ていき、ダークロボアップグレードバージョン001が起動される。
俺へは右手の甲に触れながら、ダーク召喚を2体。そして右手にダークブレイドを出した。
ムゥームゥー言っている奴らに、ダークランブルをかけて暴れる許可も出した。
先輩方が存分にと言っているんだ、手を抜くつもりはない。
ダークたちから教えてももらったことだが、彼らが召喚されている状態だとダークマスターの魔法威力はレベルが上がるらしい。
まだ2体しか出ていないが、今はこれで力試しである。
先輩方が設定したダークロボは魔法耐久タイプらしい。
俺の特性に合わせてくれたのかな?
それとも俺が手間取っているうちに腐れ人間共のデータを取ると?
どちらにせよ、こちらも都合がいい。
アップグレードされた魔法耐久タイプのダークロボに俺の力がどれだけ通用するのか見てみたいものだ。
ダークブレイドを地面と水平に構えた俺は、ダークランブルのかかったダークたちを先に行かせた。
暴れ話回るダークに気を取られているダークロボに、自慢の素早さで一気に近づいて、その首元をダークブレイドで一閃。
どれだけ効いたかと思って振り返ると、訓練用ダークロボの首がきれいに宙に飛んでいた。
……素晴らしい威力だが、やり過ぎたみたいだ。
ガラス越しに見える先輩方に視線を向けると、アナウンスが入った。
『ピピピ』
よくやった。まだまだ改良が必要そうだ、と。
こうして先輩方の暴走を止めたい俺は、またしてもこうして協力する形となってしまっていた。
帰りにダークに憑りつかれた先輩を8体成敗して、ダークも吸収していく。
経験値もダーク吸収もおいしすぎる。
それにしても先輩方のダークの憑き方が異常に多い。
闇に染まりつつある証拠だ。
これは早く手を打たなければな……。
ダークマスター同士の抗争どころではなくなるかもしれない。
令和。令和3年。令和18年。
うん、私は結構好きです。




