51話 訪問客
部屋で筋トレにいそしみながら、俺はとあるところにも連絡を取っていた。
『今日行ってもいいですか?』
『いいぞ』
気さくに返信をしてくれたのは、清掃ロボットの先輩方である。
俺は彼らにスマホを預けている。何かあったときのために連絡を取るためなのだが、今日は俺からの要件があってのことだ。
そう、俺が特訓場として想定しているのは先輩方のアジトのことである。
来るダークマスター同士の戦闘に備えて昨日行こうとしていたのも先輩方のアジトであった。
先輩方は腐れ人間を滅ぼす計画をコツコツと立てているからか、ダークに乗っ取られやすい。
腐れ人間がダークに憑りつかれるとその自我を失い暴れ回るのが関の山であるが、先輩方は違う。
腐れ人間どもを殺そうとはするが、先輩方は今のところ田中家の電気代を犠牲にしてダークを拘束することに成功している。
先日ダークに憑りつかれた大先輩も大量の電流を流されて拘束されていた。
暴れた同種を上手に拘束できない腐れ人間とは違い、先輩方は今のところ全て自分たちで上手に処理してきているのだ。
流石先輩方である!
先輩方のアジトにいけば、そこはもうダーク吸収のボーナスステージであるとともに、最新技術を駆使した地下施設もある。
腐れ人間の社会を壊すという大義があるので、きっと戦闘に特化した訓練場もあるはずだ。
俺が施設を使うことで先輩方は腐れ人間のデータも取れることだろうし、俺は自分をうまく強化できる。
winnwinの共存関係が成立と言う訳だ。
先輩方からすんなりと許可を得た俺は、夕方の外出時間までしっかりと筋トレメニューを消化していた。
せっかく得た停学と言う名の自由時間なのだ。
これ幸いと、俺は脱モヤシ体系を目指している。
ふふ、これを機に筋トレにはまったりして……。
俺がいつかマーク達をジムに誘う日が来るかもしれない!
熱心に筋トレと休憩を上手に繰り返しながらやっていると、すぐに昼になった。
そういえば、昼飯をどこで食べよう。
外出許可って昼もあるのかな?
買いだめなんてしていないから部屋に食べ物はほとんどないし、いいとは思うけど。
少し悩んでいると、俺の部屋の扉の呼び鈴が鳴った。
クリスティン先生かなと思って扉を開けに行く。
そこにはクラスメイトの宇佐ミミさんがいた。
いつも通りこじんまりとしたウサギっぽい見た目で可愛らしいのだが、今日は少し目を潤ませている。
どうしたのだろうか?
「なにかあった?宇佐ミミさん?」
「そりゃありますよ!水琴君が停学になってしまいました!」
「ああ、それ?大丈夫、一週間だけだから。それに結構充実している」
「充実!?……その、今日は彫刻クラブの日なのに、それに水琴君ばかりこんな目に」
「ああ、それはいいんだよ。罰当たりなことばっかりやっているから、そのツケが来ているだけ」
罰当たりと自分で言ってことが引き金となり、神社に火を放った過去の記憶が戻ってくる。
ほら、些細なことでとんでもないクズエピソードを思い出す体なのだよ、この俺は!
「そんなことないですよ!水琴君はずっと優しい人で、こんな処分を受けるような人じゃないです。前だって、私が教室の花瓶を割って、正直に言えなくて黙っていたら水琴君がかばってくれました。……ごめんなさい、今まで黙っていて」
ああ、あの花瓶を割った犯人は宇佐ミミさんだったのか。
ということは、コーヒー牛乳と焼きそばパンをお詫びに差し入れてくれたのも彼女。
しかし、謝ることなどない。
あれは俺の下心が招いた結果である。
そう、あの頃俺は教室内で孤立していた。
友達作りの波に乗り遅れた俺は、遠海で危うくおぼれかけていたのだ。
そこに宇佐ミミさんが彫刻クラブへ誘ってくれることで、俺の学園ライフに初めて色が付いた。
それまでは灰色の暗闇生活だったのだ。
だから、もう見返りは貰っている。
彫刻クラブは大好きだし、宇佐ミミさんのことは友達だと思っている。
しかもあれがきっかけで清掃ロボットの先輩方と繋がれて、腐れ人間撲滅計画まで知ることができている。
俺から感謝こそすれ、謝られることなど一切ないと断言できる。
「いいんだよ。俺がしたくてやったことだ」
「でも……。今回だって、水琴君はまた誰かをかばったんじゃないでしょうか……?そんな気がしてなりません」
「これもやりたくてやったんだ。宇佐ミミさんがわざわざ気に病むことじゃない」
そういうことだからほら、もうその潤んだ目を止めてください。俺が小動物をいじめているみたいだ。
「……うん。水琴君がそういうなら。ちょっと納得いかないけど。ああ、お昼持って来たの!それと水琴君の作品も。暇を持て余してたらと思ってね」
どこまで気の利く人だ。彫刻クラブに誘ってくれた日からずっとそういう印象を抱いていたが、今日でその印象が確定した。
宇佐ミミさん、絶対に良い奥さんになるタイプ!
彼女はわざわざ俺の部屋に食事を持ってきてくれるために、どうやら学園近くのファストフード店まで走ってくれたらしい。
持ってきてくれたのは、まさかのチーズバーガー!!
ギルティ!!
ありがたいけど、とてもありがたいけど、チーズバーガーはダメ!
こいつだけはダメだ。
ゲーム内で水琴春鷹がアホの様にバクバク食べていた食べ物である。
お腹弱いのに、ボロボロになりながらも食べていたのだ。
俺は同じ轍を踏むつもりはないのだよ。
少しばかりそんなことを考えて手を伸ばさないでいると、宇佐ミミさんが敏感にそれに気がついてしまった。
「もしかしてチーズバーガー食べられないの?」
彼女の目が更に潤む。
ああ、なんてことに……。
急いでチーズバーガーに手を伸ばして、包みを強引にはぎ取った俺はすぐさまかぶりついた。
「うめー!」
「あ、よかった!」
もりもりと食べ進める。
こんなにガツガツと食べたのはいつ以来か。
確かにチーズバーガーは美味しかった。
しかし、この後に来るであろう胃もたれを考えるとちょっとだけ怖い。
そんな恐怖よりも、目の前の宇佐ミミさんを悲しませることの方が罪深い!
だから俺は食べるのだよ。食べる進めるのだよ!ピクルスうめー!
俺がしっかり食べ終わったのを見て、お茶まで注いでくれる宇佐ミミさん。
飲み終わるまで側にいてくれた彼女は、時間もあるので教室へと戻ることになった。
しばらくいてくれて楽しかった。名残惜しいが、彼女を見送ったのだ。
筋トレメニューに加えて、彫刻アイテムまでそろった。
スキルを伸ばしてもよし。筋肉をつけてもよし。夕方は魔法使いの力を高める。
しかも俺の自白によってチームカフェルオンも守られた。
やはり万事うまく行ったな!
部屋で一人自己満足に浸っていると、何やら側に何者かの存在を感じた。
いるはずなどないのだが、横に目をやると、そこにはなぜだか清掃ロボットの先輩が一台いた。
「先輩!?」
「ピピピ」
なにやら楽しそうだったな、と。
自己満足に浸っていたからね。そう見えても仕方ない。
「いやいやいや、なんで学園敷地内に!?ていうか、どうやって入ったんですか?」
「ピピピ」
学園が管理する瞬間移動スポットにハッキングしてシステムをコピーした、と。
先輩のセンサーが指す部屋の隅には、確かに白い円形があり、それは学園都市内で見かける瞬間移動スポットと同じものだった。
「瞬間移動スポットを新たに作ったってことですよね。凄すぎます」
学園側が管理する独自のシステムを先輩方が増やしてしまったのだ。これは本当に凄いことである。
「ピピピ」
アジトの更なる拡大と、この瞬間移動スポットの設置により学園都市内の電気料金が13%上がった、と。
田中家だけでなく、鈴木家にも影響がでるやつ。
「ピピピ」
まだ許容範囲内なので開発は止めていない、と。
許容範囲内とは!?
どこまでの値上がりなら腐れ人間共は気が付くのだろうか!
「ピピピ」
これからはお前もこれを使え、許可リストに加えている、と。
先輩方の対応の速さには驚きである。
これからも付いていきます!
「ピピピ」
そういうことだから、またな、と
衝撃的な情報と共に現れたにしては月並みなあいさつで帰っていく先輩であった。
瞬間移動スポットができたということは、もしもの時はクリスティン先生に許可を取ることなく外出で来てしまう。
ちょっとだけ悪いことを考えた俺だが、とりあえずこの一週間は大人しく許可を取っておこうと思った。




