46話 先輩はボーナスステージ
それは月曜日の授業中に突如起きた。
俺の机にインストールされている通信システムに連絡が入ったのだ。
机内の通信システムはスマホと連動しているため、誰かが緊急連絡したと見ていい。
緊急時以外は授業中に通信が入ることを遮断する設定にしているので、普通は通知が届かない。
俺は授業の内容が映し出された映像の端にある通知ボタンをタップした。
授業中にこういう行為はまずい。
バレたら先生からのお叱りを受けることだろう。
それに俺は普段真面目な生徒で、クラス委員長でもある。
ごく最近ランカーナンバー10にもなったし、生徒の模範であるべきだ。
開くべきじゃないけど、とても気になって緊急連絡を見てしまったのだ。
『助けてくれ』
それは清掃ロボットの先輩からの連絡であった。
先日先輩方に連絡用にと俺のスマホを渡している。
なにかあったら呼んでくれと言ったが、まさか授業中に助けてくれと言われるとは思わなかった。
『どうしました?』
一応確認だ。すぐに駆け付けたいが、授業中に抜け出せるかどうかもわからない。
どうしても必要とあらば、下法を持ってして授業を抜け出す覚悟はある。
『超越者が出た』
あ、これは行かなくちゃ、と思ったね。訳が分からないことはやばいと相場が決まっている。
気が付くと俺は挙手していた。
質問は机の端末からもできるため、挙手というのはもっと急ぎの要件の時に行われる。
そう、例えばトイレとか。
「先生、この水琴春鷹、お腹を下しました!」
「ああ、そう……。そんなにはっきり自信を持って言わなくてもね。どうぞ、行っておいで」
歴史の授業担当だった初老の先生がトイレに行く許可を与えてくれた。
ふん、ご理解頂き感謝。
とかく、中高生というものは授業中にトイレへいくことを恥と思う面がある。
例に漏れずしっかりと俺もその恥じらいを持っているため、挙手するのにはかなりの勇気が必要だった。
しかし、逆に自信満々で言い切ることにより、あれ?なんかカッコイイことでもやりに行くのかな?という誤解を相手に与えるかもしれない。……かもしれない。
先輩方のところまで行けば結構な時間がかかる。……トイレを詰まらせたほど出したと思われるかもしれない。むしろそっちこそ可能性大。
それでも先輩の危機に駆け付けないわけにはいかない。
全ての負の面を背負ってでも、この水琴春鷹は駆け付けましょう!
教室を飛び出た俺は、もちろんトイレには駆けこまずに校舎外へと出ていった。
北の倉庫エリアまで徒歩で行くとなると時間がかかる。
先日解放された、瞬間移動スポットの権限を使用するべきだと判断した。
学園敷地内にある瞬間移動スポットに入って、行き先を北の倉庫エリア付近へと設定して飛んだ。
移動した先は既に倉庫群が見える位置だった。
走って駆け付ければ5分とかからないだろう。
先輩方が収納されている巨大倉庫の前に立つと、倉庫の扉が自動で開いた。
俺がやって来たことに気が付いてくれたらしい。
扉が開くと、中には立体駐車場の様に空間を無駄にすることなく、カプセルに格納されて充電中の大量の先輩方と、本来充電している時間のはずなのに勝手に倉庫内を動き回っている先輩方数名が見えた。
動いている先輩が一台近づいてくる。
「ピピピ」
よく来てくれた、とのことらしい。
ピピピというのは先輩方独自のコミュニケーション方法。
俺はそれがわかってしまう。
先輩方の言葉くらい分からなくてどうするよ。
人間相手にコミュニケーション支障がある俺だが、先輩方とはシンパシー?ってやつがあうからなのか、わかってしまうんだよなー。シンパシーがとても大事。結局シンパシーなんだよな。
……帰ったらシンパシーの意味をきちんと調べておこう。
「いえ、何かあったら駆け付けるって言ったのは俺の方なので」
「ピピピピピピ」
くされ人間の中にもお前のようなやつがいるとなると社会を滅ぼすのをためらってしまうな、と。
聞いてはならない闇を聞いてしまった気がする。
誤訳であって欲しいものだ……。
「そっそれよりも、超越者が出たってなんですか!?」
緊急の要件だ。
社会がどうこうなんて後回しだ。
今は差し迫っている危機を乗り切らねばならない。
「ピピピ」
そうだ急いで見て欲しい仲間がいる、と。
「見ましょう」
先輩の案内で倉庫の奥へと向かう。
先日はこの奥に制御の効かなくなった先輩がいた。
全開、ダークが清掃ロボットに乗り移るという、ゲーム内の知識を持つ俺でも知りえなかった驚愕の事実があったものだ。今回もおそらくそれに似た驚きがあってもおかしくはない。
なんたって先輩方は独自の進化を遂げているのだから。
「ピピピ」
この先のことは他言無用で頼む、と。
「無論です」
先輩の胴体についた赤いセンサーが光る。
地面の一点を光がじーっと指し、そうすると謎の機械音が地面下から聞こえてくる。
俺は目を疑った方がいいのかもしれない。
なぜか倉庫内の地面が割れるように開き、そこには地下へと続く階段があった。
「ピピピ」
先日完成した我らがアジトである、と。
アジト!?
倉庫内の役割はあくまで充電と、不具合が出た時のシステムアップデートや、機器本体の修繕である。
先輩方が前回言っていた限りだと、自己修復プログラムが働いているため、内部と外部の損傷は自分たちで直せるらしい。
清掃ロボットの販売、保全を扱っている水琴家のグループ会社からすれば修繕費用が浮いてありがたい限りだが、まさかこんなことになっていようとは。
自分の家の為に報告すべきか。
先輩方との信頼を取るべきか。
俺は今、揺れに揺れている。究極のジレンマ。
……黙っておこう。
水事家の経営母体はこんな小さなことじゃ揺れ動かない。
それに、先輩方は俺の大事な仲間だ。
ズッ友だよ!
信頼も裏切りたくない。
俺は恐れながらも、暗闇続く地下への階段へと足を踏み出した。
地下の世界は俺の想像をはるかに超越したものだった。
まずは広さが桁違い。
上の巨大倉庫内の面積よりも広い。
照明もしっかりついており、インフラもきっちり整備されているみたいだ。
電気代はどうやって賄っているんだろうか。
驚愕の表情をしてあたりを見回していたからか、先輩が説明をしてくれた。
「ピピピ」
まだ開発段階だが、広さはできるだけ確保した、と。
「ピピピ」
やりたいことは無限にある、と。
……流石先輩!
先輩の案内のもと後に着いていく。
本当にまだ開発段階らしく、広いフロアには簡易な壁があるだけでそれぞれの活動が見てとれた。
火花を散らしながら何かを作っている区画があったり、謎のカプセル内で液体に浸かった先輩の姿も……。
気になる点は更にあり、本来の先輩方にはない両腕がこのアジト内の先輩には付けらている。
機械式だが、人間の様に5本指あるものや、片腕がドライバーの様になっているものなどさまざまである。
これが進化というやつか。
「こんな技術があればもう清掃なんてしなくてもいいかもしれませんね」
「ピピピ」
清掃は我々の基本だ。それだけは無下にはできない、と。
清掃ロボットの魂は根本にあるらしい。
良かったです。謎の安心感が芽生えた。
この地下エリアでも一番奥へと通された。
奥にあるくらいだ。一番隠したいものに違いない。
その予想は見事に当たっており、ここだけ立派なゲートが用意されて、二重になった自動扉を通り抜けた。
「ピピピ」
自販機を連れてきた、と。
中に入ると先輩が作業中の仲間たちに呼びかけた。
あ、自販機とは俺のことです。
先輩方と知り合ったきっかけが自販機下とか裏の清掃だったので、印象深いその行動からそう呼ばれている。
「ピピピ」
自販機なら全てを見せてもいいだろう、と。
出迎えてくれた先輩の一人がそう答えた。
信頼を勝ち取れているようで非常に光栄である。
このエリアだけ他の場所より広くて活動している先輩の数も多い。
「ピピピ」
ここはエリア54、機密研究を行う場所である、と。
「あ、はい」
そうだよね、とは思ったけど。
「ピピピ」
先日ダークに憑りつかれた仲間を自販機に助けて貰った、と。
「ピピピ」
あれからも何件か似たことが起きている、と。
「ピピピ」
ここにはそういった者もかくまっている、と。
しばらく黙って先輩の話を聞いてみることにした。
ピッピ、ピッピ言っていて翻訳が大変だが言いたいことは全部聞き取れたと思う。
このエリア54は先輩方の自己修復プログラムでさえ対応できない案件を研究している場所らしい。
先日ダークに憑りつかれた先輩がいたがあれがまた何件が起きている。
定期検査の前にまた俺を呼んでなんとかやり過ごすつもりだったらしいが、今日はそうも言っていられなくなったらしい。
以前から進めていた超越者研究にトラブルが起きたため、俺を呼びよせたのだとか。
「ピピピ」
これがそれだ、と。
案内の先にあったのは、先輩方よりも一回りも大きい清掃ロボットの形跡がある先輩。大先輩と呼ぶことにしよう。
先輩の胴体は踏襲しつつも、大きさは2倍ほどになっており、勘違いでなければ右手に警棒。左手にミサイル砲が付いている。……勘違いであって欲しいものだ。
なぜだか、大先輩は大量の電流を流されており、意識がないみたいだった。
「ピピピ」
彼はかつて清掃ロボットのエースだった、と
同じプログラムと機械端末だが、エースとか生まれるのか、とか思うのは野暮である。
先輩方は進化しているからな。
かつてのエースはとある事件で廃棄対象となり、しかし引き取りにきた職員の怠慢を見逃さなかった先輩方によって無事保護されたらしい。こうして今に至るまで匿っている。
「ピピピ」
金持ちのクソガキに油をかけられて火をつけられたんだ、と。
……俺じゃないからね!
水琴春鷹がやっていそうだけど、これに関しては無実である!
本当に!
「ピピピ」
あの時我らに自我が生まれた、と。
「ピピピ」
ただ清掃がしたかっただけなのに、それすら許しては貰えないのか、と。
「ピピピ」
だが今となっては感謝だ、と。
それもそうだ。
これだけ進化してこれたんだからな。
それにしても、どこの金持ちの小僧がやったのか。
目の前の大先輩の姿は、まさにファンキャンで主人公たちが戦うロボットの姿に近くなってきている。
全てはこの段階から始まっていたのか……。
先輩方は超越者研究で腐れ人間どもに痛い目を見せるために大先輩を生み出したらしい。
もう清掃ロボットとしては働けない大先輩も研究に前向きだったと。
それが今朝完成したばかりだというのに、いきなり彼の言動に変化が起きた。
「ピピピ」
清掃の話しばかりする彼が、突如人間コロスと言い出した、と。
「ピピピ」
腐れ人間に手を出すのはまだ早いからひっそりと処理したい、と。
「ピピピ」
今は電流で制御しているけど、あまり電気を使いすぎると付近の住宅の電気料金が上がる、と。
電気の供給先が判明してしまった。
ははん、それで俺を呼んだのか。
どうみても大先輩はダークに憑りつかれているからね。
黒い煙を吐き出しているところや、人間コロスという発言。まさに前回の依頼と同じものだ。
「任せてください」
ダーク関連なら魔法使いにお任せである。
それに俺はダークマスターだ。専門中の専門である。
先日レベル4ダークを倒して俺の【黒炎使い】レベルも6まで上がっている。
せっかくだ、新しく覚えた魔法を使うとしよう。
ダークブレイド Lv1 消費MP 50
呪文:闇の炎で闇ごとを切り裂け
「いくぞ!闇の炎で闇ごと切り裂け!ダークブレイド!」
くー、恥ずかしいけど謎の爽快感。
俺の手から黒い炎の剣が生まれ出た。
高い素早さを持って大先輩へと近づき、剣を振った。
ずさっと内部のダークだけを切り裂く。
……このあとダークが漏れ出すはずなのだが、どうしてかダークが出てこない。
あれ?
もしかしてダークブレイドって弱い?
そんな訳ないよな。
俺の攻撃魔法値は既に1233だぞ。そんじょそこらのダークじゃまともに攻撃は受けられないはずだ。
もう一度斬りつける。
……もう一度!
もう一度!
何度も!
そして電流に拘束された大先輩がぶるっと大きく震えた。
ダークがその体から漏れ出てくる。
シュッと漏れ出て、シュッと手に吸い込む。
出る、吸う。
出る、吸う。
出る、ちょっと待て。
何体出てくるんだ!?
ダークブレイドがなかなかきかなかったのはそういうことか!
終わってみればダークが8体も出てきた。
レベル8ダーク……だったのか。真実を知ってぞっとした。
電流で拘束されていなければ災害レベルのダークである。
田中家の電流は無事に学園都市を守ったようだ。電気代が上がるくらい多めに見て欲しい。
無抵抗の相手からダークを8体とか、ありがたい!
先輩方はやはり俺の良きパートナーである。
ダークが出ると、大先輩は本当に聞いていた通り清掃の話しばかりをしだした。
元通りになって良かった。
大先輩の後にも、他にダークに取りつかれた先輩方のダーク退治に入った。
ボーナスステージはまだ続くらしい。
それにしてもダークに取りつかれた先輩が多い。
やはり邪悪な考えを持つとダークに憑りつかれるって言うのは真実のようだ。
こうして俺は今日も先輩方を無事助けることができた。
先輩からの報酬はエロいブラジャーであった。
「ピピピ」
とっておけ自販機、と。
「……あ、はい」
先輩たちとの距離がまた縮まったことだろう。
しかし、このままじゃいけない。
清掃ロボットを軽視する腐れ人間でも、みな精一杯生きているのだ。
このままだと先輩VS腐れ人間が現実化してしまうかもしれない。
それにダークに憑りつかれていると、先輩たちの清掃したいという魂自体が失われかねない。
そんな未来は誰も幸せにはなれない。
真実を知る俺だからこそ、清掃ロボットが街中で暴れ回る未来を消し去らなければならないだろう。
また仕事が増えた気がするが、これもまた水琴春鷹の罪滅ぼしなのだ。
先輩方が腐れ人間を清掃する前に何かしら手を打たないとな。
とりあえず、最後にこれだけは言っておきたい。
どんな顔して教室に帰ればいいのだろうかと!




