44話 ランカーの仕事
スマホのマップ上に表示される高レベルダークの居場所はどうやら都市内東方面だということが判明した。
学園内にある瞬間移動スポットまで行き、俺と金髪さんそして東条蓮は現場近くの瞬間移動スポットまで飛んでいった。
静かな学園内から、一気に殺伐とした雰囲気へと変わる。
どうやら今回の高レベルダークは相当好き勝手に暴れているらしい。
辺りから悲鳴やら、大きな衝突音がやたらと響いてくる。
道に沿って音のする方へと行くと、学園都市内を流れる大きな川にかかる端で問題のダークが暴れ回っていた。
ダーク専用魔法のダークボールを手当たり次第にぶっ放している荒くれものだ。
橋へのダメージも考慮して、早急な対処が必要となる。
「あちゃー、ありゃ攻撃魔法タイプのダークだね。あたし魔法耐久値低いから怖いなー。見たところレベル4であっているし」
俺の見立てでもレベル4のダークである。
そして攻撃魔法タイプだということにも異論はない。
「俺はそこそこ魔法耐久に自信がありますので、いざってときは守ってあげますよ」
「おっ、モヤシっ子なのに頼もしいな。じゃあいざってときは盾にさせてもらうぞ」
「仕方ないですね。怪我されたらバイトに支障が出ますし」
「なんだよー、バイトがなきゃ守ってくんないのかよ」
「バイトが何ですって?」
「「……」」
俺と金髪さんが軽く体を動かして準備に入る。
東条蓮の視線がまだ俺たちを疑っているが、ダークが更に勢いを増して暴れ出したのでいよいよ俺たちに構ってはいられなくなってきた。
「あなたたちの怪しい話はまた今度追及するとしましょう。とりあえず、橋の上のダークに集中よ!」
「はい、俺はいつでも行けますよ」
「あたしもだ。行けるぞ」
「金髪さん、あまり勢いついて前に出過ぎないでくださいよ」
「モヤシっ子、お前こそ中途半端な魔法耐久に自信持ってると大けがするぞ。少し下がってた方がいいんじゃないのか?」
「俺は前で大丈夫ですって」
「あたしも言うほど下がってなくて大丈夫だぞ。物理耐久には自信あるし」
「二人とも下がってて頂戴!どのみち大して耐久が高くないんです」
「「うっ」」
東条蓮に核心を突かれてしまい、俺と金髪さんは黙らざるを得なかった。
「いいですね、朱里さんも水琴君も常に私の後ろにいること。二人ともただの攻撃魔法馬鹿なんですから」
「「何!?」」
思わぬ侮辱に今度は二人して嚙みついた。
文句を言う前に、東条蓮が走り出してしまったので、俺たちも仕方なく付いていくことに。
言いたいことはあるが、盾役である彼女が必要なことは間違いない。
ここは大人になってダークの処理に専念しよう。
橋に俺たちも入ると、ダークはこちらの存在を認識した。
先ほどまで無造作に打っていたダークボールの方向をこちらへと向けてくる。
「均等の書!!」
東条蓮が胸の魔石に両手で触れながら、魔法を詠唱した。
あの詠唱の仕方は彼女もやるのか。流石はランカーと言ったところだ。
彼女の唱えた魔法は、【知識使い】クラスが扱う魔法だ。
全ての能力値を平均化させて、相性の悪い相手と戦うときの対処法とする。
ということは、東条蓮も魔法耐久に自信がある方ではない。
それをバランサーで補ったのだ。
ダークボールが飛んでくる。流石にレベル4のダークが放つ魔法なだけあり、その規模が大きい。
真正面に飛んでくるダークボールを東条蓮が両手で受け止めた。
衝撃波が後ろにいた俺と金髪さんにも届く。
魔法を防いだ後、東条蓮は再び走り出す。
それに付いていく俺たち二人だが、あるポイントで同時に立ち止まった。
俺と金髪さんの攻撃有効範囲に入った。これ以上近づく必要はない。
前では東条蓮が一人で相手を引き付けている。
均等の書で強化された物理能力もあって、彼女は上手にダークの攻撃をいなしつつ、軽く反撃もしていた。
いつまでも彼女一人に苦労させるわけにはいかない。
ここからは俺の見せ所だ。
ダークフレイム!
俺が魔石に触れながら魔法を唱えた隣で、金髪さんもスマホに組み込んだ術式を使用して魔法を発動させた。
光の矢が彼女の手に出現し、それを発射させる。
黒い狼の炎の隣から、白く光る獅子が追随する。
金髪さんが放ったのは【光使い】のホワイトアロー。本来は白く光る矢が飛んでいくはずの魔法だが、金髪さんの高すぎる攻撃魔法値のせいで獅子の形となっている。
俺同様、能力値が高いとこういうことが起こる。
魔法が飛んできたことを確認して、東条蓮はすぐさまその場を離脱した。
取り残されたダークに狼と獅子が両肩から嚙みつく。
左肩は焼かれ、右肩は鋭く発光する。
ダークの苦しむ声が辺りに響いた。
しかし、これですぐに倒れないのがレベル4のダークである。
学園トップツーの攻撃を受けても立っている。激しく吠えたてる。流石に一筋縄ではいかない。
「ダークウェーブが来るわ!」
東条蓮の警告通り、ダークは次の詠唱へと入っている。
ダークボールとは違って、ダークウェーブは広範囲に黒い衝撃を与える魔法なのでかわすことが非常に難しい。耐久が低い金髪さんが受ければ痛手となる魔法だ。
下がって来た東条蓮が俺たち二人の前に守るように立った。
「封魔の書!」
再び胸の魔石に手を当てて魔法の詠唱をする。
封魔の書は【知識使い】の上位魔法だ。
一度相手の魔法を無効化できる代わりに、ほとんどのMPを持っていかれてしまう。
今はMPを回復させる手立てがない。本来なら事前に改造ショップから買っておくべきなのだが、他人のためにそんな気遣いが出来ているならとっくに彼女くらいで来てるわ!
つまり俺はそんな気遣いのできる男ではない!
この魔法でダークウェーブは無傷で防げる。
ここに魔法耐久タイプがいれば他の手立ても取れただろう。やはりパーティーというのは大事である。
ボワンと空気を揺るがすような音が響いて、直後黒い幕が辺りに広がった。
これを食らえばダメージを受けるだけでなく、吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされてどこか打ちでもしたら、モヤシっ子の俺なんかはそれだけで行動不能になりかねない。
しかし、今は封魔の書がある。
俺たちに黒い幕が届きかけた時、渦に吸い込まれるようにダークウェーブが消えていった。
これが封魔の書の力である。
無事防げたのを喜ぶ俺と金髪さん。
東条蓮は苦しそうに息切れをしている。
MPがもう少ない症状と見ていいだろう。
「蓮が頑張ってくれたんだ。決めるぜ、モヤシっ子!」
金髪さんも東条蓮のMP切れに気づいているらしく、次で決めきると気合を入れた。
「了解です」
再び放たれるダークフレイムとホワイトアロー。
学園トップツーの攻撃魔法タイプ二人の魔法が再度ダークへと直撃した。
今度ばかりは流石に効いたようで、勢いよく倒れ込むダーク。
レベル4のダークでも流石に無傷じゃいられないよな。
「苦しんでいるうちに畳みかけるぞ」
「了解です」
金髪さんがホワイトアローを、俺がダークフレイムを放ち続ける。
たまに反撃で返ってくるダークボールは俺が身を挺して防ぐ。
東条蓮のバランサーも解けているだろうから、今じゃ俺が一番魔法耐久が高い。
たまには男らしいところを見せないとな。
「楽勝モードになって来たな。こいつレベル4ダークのくせに2種類しか魔法を持ってないぞ」
「こっちは結構痛いんですよ」
「二人とも話してないで集中!!」
「「はい」」
東条蓮に引き締め直されて俺たちは再度魔法の行使に入る。
そして、苦しんでいたダークがとうとう最後の魔法を食らって、両手で口を塞ぎだした。
あれは乗り移ったダークが吐き出される前段階の動きである。
つまり、俺たちの勝ちと言う訳だ。
「……少し弱かったわね」
東条蓮が感想を述べる。
確かにレベル4にしては危機感が薄かった。
しかし、橋の上を見渡せば車が破壊され、道が抉られ、橋自体も損傷がかなりひどい。
修復魔法で治るとはいえ、放っておけば崩落まであり得た。
東条蓮とは違って、こんなもんだろうと俺は思った。
「おいおい、ちょっと待て。あれ魔法の詠唱に入ってないか?」
「ダークボム!?」
「本気か!」
金髪さんが気づき、東条蓮も気が付いた。
そして俺もダークが異常な鼓動をあげていることに気が付いた。
最悪だ。
このダーク、ダークボムを習得してやがる。
「使用魔法が少なかったのはこれが理由か!」
ゲーム内じゃダークボムを習得しているダークと遭遇した場合、運が悪かったなー。と納得するしかない。
封魔の書や再生の書など使えれば防げるのだが、パーティーに対処できるメンバーがいない場合、大抵は全滅となる。
正直遭遇確率がかなり低いので、常に対処している人は少ない印象だ。
しかし!
ここは俺にとってのリアルである。
運が悪かったね、じゃあすまない。ダークボムの爆発に巻き込まれて死んでしまうぞ。
東条蓮は既にMP切れを起こしている。
俺と金髪さんはただの攻撃魔法馬鹿だ。
あたりに対処できる人もいるはずがない。
俺たちは迷わず走り出す。
それはもうまさに死ぬ気で。
本当に死んでしまう。
倒したダークは漏れ出して宙で消えていくの一般だ。
ダークボムは漏れ出す最後の抵抗として、しばらく耐えて魔力を高めて一気にダークを噴出させる魔法である。
当然自身も消えてしまう代わりに、辺り一面に多大なダメージを与える。
俺たちはその大ダメージを食らわないために必死に走るが、ふと振り向くとダークボムがちょうど暴発する瞬間だった。
……うわ、死んだ。
せめてものかっこいい死に方として、俺は東条蓮と金髪さんを抱きしめてかばった。
最後くらいかっこよくありたい。水琴春鷹の人生は汚点ばかりなのだ。せめてこのくらいは……。
ボンっと巨大な音が鳴り響き、橋を揺らした。
そして暴風が押し寄せてきて、爆発が俺たちを飲み込もうかという時、異変が起きた。
あれ?
おかしい。
爆発した音が聞こえたのに、爆発に飲み込まれる気配がないのだ。
そして、おかしなことにダークボムのエネルギーが全て俺の手の痣へと勢いよく吸い込まれている。
これはダーク吸収のときと同じことが起きているのか!?
ダークボムはその魔法の性質として、ダーク自身が凄い勢いで飛び出すことで爆発を起こす魔法だ。
ということは、漏れ出しているのと同じことなのか?
吸収しているということはそうなのだろう。
すーっと全てのエネルギーを吸収し終わった後には、橋の上に倒れ込む男性が一人いるだけで、俺たち3人は無傷なままだった。
「つうっ」
俺が強引に抱え込んだため、転んで鼻を打った東条蓮が痛むところ抑えながら起き上がった。
「あれ?あたしたち生きているな」
金髪さんも頭を打ったみたいで、そこを撫でていた。
「ダークボムは?」
「さあ、爆発音はしたんだけどな」
事情を知っている俺は、どう答えたものかと少し悩んだ。
そしてやはり黙っておくのが一番だと思って、自分も知らない顔を貫き通すことにした。
「モヤシっ子、お前何か知っているか?」
「さあ、実はダークボムじゃなかったとかですかね」
「そんな訳ないわ。あれは間違いなくダークボムよ」
東条蓮に真っ向から否定されてしまった。
「ま、いいか。助かったみたいだしな。レベル4ダークだから報奨も期待できるぞ」
「報奨か、そういえば前のやつまだもらっていないな」
「……おかしいわ」
気にしないタイプの金髪さんと誤魔化した俺。
そして最後まで気にし続けた東条蓮だった。
この後医療班がやってきて治療してもらい、現場も修復魔法によって徐々に治りつつあった。
こうしてランカーナンバー10としての初仕事を終えたのだった。
バランサー → 均等の書




