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43話 会長の実力

「みんなー今日は集まって貰って悪るいね」

悪びれた様子の一切ない会長の言葉で、ようやく会議が始まった。

ランカー選定会議という名の通り、今日はランカーを決めるための会議である。


生徒会室には俺を含めて全部で11人いる。

着席しているのは10人。

会長の隣にいるメガネをかけた如何にも真面目そうな男性だけが立っている。見るからに会長の秘書なのだろうと予測がついた。

ランカーは9人。そしてランカー候補である俺を含めて全部で11人となる。


「たこ焼き流していくから、食べながらやろうか」

6パック買っているらしく、それをテーブル越しに渡していく。

……タコパになりかねないが、大丈夫だろうか。


二人で一パックらしく、俺は金髪さんとシェアすることとなった。

「ほら、熱いからゆっくり食べろよ」

「あ、どうも」

たこ焼きも少し苦手ではあるが、金髪さんがくれるので素直に受け取った。

金髪さんの優しさを無駄にしないためにフーフーと息を吹きかける。


他のランカーたちも普通にたこ焼きを食べだしている辺り、どうやら食べながら会議を行うスタイルはそう奇抜なものではないらしい。


「うまいなー、これ」

「はい、うまいです」

少し味が濃いが、うむ、確かに美味しい。

「お前料理スキル高いんだから、今度まかないでこれ作ってくれよ」

「いや、うちは中華屋ですよ」

「それもそうだな」

楽しく会話する俺と金髪さんの声を拾ったのか、東条蓮が鋭い視線を向けてくる。


「まかない?中華屋?」

「「……」」

沈黙は金である。俺も金髪さんもよく心得たもので、東条蓮の目が光り出すとぴたりと俺たちの口がふさがる。


「えーと、食べながらでいいから聞いてねー。今日は空きになっているランカーナンバー10を決めようと思ってるんだー。候補は彼、ほら朱里の右隣りに座っているくせ毛の子」

会長の紹介で、全員の視線がこちらに向いた。

熱いたこ焼きを食べている途中だったけど、急いでお辞儀をした。

あつっ、唇やけどしたかもしれない。


「まだ中等部1年で入学したて、ダークとの戦闘もまだ慣れていないわ。それに学園の設備をフルに活用もできていない。正直未熟もいいところなんだけど、貴重な魔法攻撃特化タイプよ。中等部一年で既に攻撃魔法値が1100オーバーなんだから」

俺の攻撃魔法値が発表されると少しのどよめきが起きた。


あまりそんな感心して欲しくはない。

実力者なら本当はもっといるはずだ。

会長が評価しているのは、あくまで俺の成長性だろう。現段階では上級生の中にもっと強い相手がいるはず。


例えば、5人のボスの一人、三瀬先店子とか。

一年早く入学していることもあり、その差は大きいはずだ。

他のボスたちもランカーの中にいないことを見ると、やはり上手に学園に潜んでいるのだろう。

能ある鷹は爪を隠すと言うし。

あれ?となると俺は脳のない鷹になってしまうのか?


「どう?みんな、少し自由に話していいから意見を交換してみて。そうそう、先日のレベル3ダークは彼が片付けてくれたのよ。私が駆け付けた時には既に終わっちゃってたもん。そのとき取ったステータスの開示もしておくわ」

テーブル上に映し出される俺のステータス値。

表示許可は出してないはずだが!?

恥ずかしすぎる物理面が思いっきり映し出されているんですが!?


まじまじと見ないで欲しい。

「あー、もっと食べないからモヤシなんだよ。攻撃魔法値はすげーけど、物理面がボロボロじゃねーか」

隣の金髪さんから思いっきり気にしている点を指摘されてしまった。

あからさまに落ち込む俺を見て、金髪さんが励ましてくれる。

「わ、悪かった。そんなに気にするなよ。攻撃魔法値は本当にすげーじゃん。中等部で1000オーバーなんて今まで聞いたこともないしさ」

「でも物理面がカスですから。モヤシですから。ボロボロですから」

「悪かったって。ていうか、お前大丈夫なのか?」

急に小声になりだした金髪さん。

小声になるということは、東条蓮に聞かれてまずい話に決まっている。


「なんのことですか?」

「金だよ。金貸そうか?ていうか、うちのバイト先給料の前借できるぞ」

「はい?」

「だってお前、中等部1年でバイトしてるし、それにそんな細い体で、もしかして食うのにも困ってんのか?」

優しさには感服するが、とんだ勘違いである。


水琴家を知らないのだろうか?まあ、知らないんだろうな。

知ったら驚くだろうな、きっと。バイトをするような御曹司ではないのだから。


「金には困っていませんよ。お気になさらずに」

「じゃあなんでリスク犯してまでバイトしてんだよ」

「そっちこそ」

「私は好きでやってんだよ」

「俺も似たもんですよ」

「お、そうか」

納得してくれたみたいで、再びたこ焼きに手を伸ばす金髪さん。


「聞き間違いだと願いたいのですが、バイト、と聞こえましたが?」

口に含んだたこ焼きを飲み込みながら、東条蓮が俺たちに鋭い視線を向ける。

「「……」」

黙る俺と金髪さん。視線ももちろん逸らす。

パクリ。たこ焼きが美味しい。


「そろそろ良いかな?意見出てる感じ?」

話し合いの様子からもう良さそうな雰囲気を感じて、生徒会長が話をまとめだした。

いろいろ意見が出てくるが、基本的に中立意見が多い。


やはり中等部1年という部分が引っ掛かっているみたいだ。

俺としてはぜひとも否決してほしい。


そして、否決の最前線で戦うのが、東条蓮その人だ。

「雪美先輩、どうせ汚い手を使って水琴君を引き連れてきたんでしょうが、彼はランカーには入れませんよ」

「どうして?」

「危ないからです」

「それだけの対価は用意してあるわ」

「でも、まだ早すぎます。彼にはまだこれから授業を通して幾らでも経験を摘む時間があります。急いで実戦、それもレベルの高いダークと戦わせる必要はありません」

「彼にとってはね。でも学園にとっては損よ、その考えは」

「誰も彼の立場に立って発言をしないから、こうして私が発言しているのです」

責任感の強い東条蓮らしい受け答えである。

この場にいることが申し訳なく思えてくるほどに。


それにしても、なぜ花崎雪美も引かないのだろうか?

俺をランカーから外したい東条蓮の気持ちは理解できるが、花崎雪美の本意が見えてこない。ランカーを急いで埋めたい理由でもあるのだろうか?


その疑問を教えてくれたのが、東条蓮先輩だった。

「そもそも、雪美先輩は戦いだけでしょう?」

東条蓮のこの言葉に、花崎雪美はニヤリと笑った。

図星をつかれたようで、あきらめたように両手を広げて答え出した。

「正解よ、蓮ちゃん」

「やっぱり、水琴君、あなたはますますランカーになるべきではないわ」

二人のやり取りで、俺も花崎雪美の狙いが見えてきた。


彼女は強い者と戦いたいのだ。

実は、ランカー同士は相手を指定して戦うことができる。

ランカーにはナンバーがあり、勝ったものは上位者から数字の少ないナンバーを勝ち取ることができる。

ナンバーの低い者と戦うのはデメリットしかないが、しっかりと手順を踏めば、上位ランカーが断れないような対戦申し込みもできる。


しかし、上位ランカーから下位ランカーに対戦を申し込むことは一般的にない。

失うものしかないからだ。

ただ、申し込むことはできる。そして同じように、しっかりと手順を踏めば、下位ランカーも相手からの対戦申し込みを拒むことはできない。


花崎雪美は、おそらく卒業間近に成長した俺と戦いたいのだと思う。

東条蓮はそのことを言っているし、花崎雪美はそれを認めたのだ。


「皆さんも会長の好き勝手なこの選出がおかしいことはお分かりですよね?先輩方の冷静な判断力と、公平な採決を期待しています」

これ以上語ることはない、とばかりに東条蓮は言い終わるとすぐにぴたりと口を閉じた。


「はーい、じゃあ他に意見がなかったら投票に入ろうかな。いいかな?みんな」

特に意見が出ないので、会長が投票を取ることにした。


「水琴春鷹君のランカーナンバー10加入に賛成な人は手を挙げてください」

さきほどの意見を聞く限り、大体半々ってところだろう。

いや、やはり中等部1年という点と、東条蓮のもっともな意見があるからもっと反対票が入るかもしれない。


しかし結果を見て、俺と東条蓮は驚愕せざるを得なかった。


まさかの、東条蓮以外の8人が全員手を挙げている。

それを秘書がしっかりと記録していた。

反対票を取ることもなく、明確に加入が決まったのだ。


意見を聞いているときは、こんな結果など見えてはいなかった。

どうやら、弱みを握られているのは俺と金髪さんだけではないらしい。

やはり最初感じていた通り、この盤面勝負は決まっていたらしい。


「こんなこと……ありえません。ふざけています!」

「蓮ちゃんは真面目だねー。もっと大人になりなよ。いろいろな面でね」

花崎雪美にうまくやり込められた東条蓮は怒りに満ちた顔を見せた。


もしかしたら、俺がここに来ることになったおっぱい作戦も彼女の知的計略のうちだったのだろうか?

おっぱい作戦恐るべし。花崎雪美恐るべし。


東条蓮には申し訳ないことをした。

また後日なにかで償おう。

彼女は優しいのだ。どこまでも。だから今日これだけ怒っている。


「賛成多数で可決とするね。皆集まってくれてありがとう、もう帰ってもいいよ」

まだ何か言い足りていない東条蓮だけは一向に席を立とうとしなかった。


俺も少しだけ待って、室内には金髪さんと俺と東条蓮、そして花崎雪美と秘書が残った。

「もー、残っても結果は変わらないんだから」

「わかっています。好きで残っているだけです。朱里さんも水琴君も帰りたいならどうぞ」


俺は東条蓮を巻き込んだ罪悪感。

金髪さんは姉の花崎雪美側に味方した罪悪感で二人ともなかなか席を立てないでいた。


視線で語り合う。

どうする?

金髪さんが空気を壊してください。

無理だ。お前が行け。

絶対嫌です。


……そして、また時間だけが過ぎる。

そんな俺たちを救ってくれたのが、学園に鳴り響いたサイレンだった。


「あ、出ちゃったね。レベル3以上のダークが」

このサイレンは間違いなくそうである。

出たのは都市内か、それとも学園内か。


「そうだ、水琴君のランカーとしての初仕事はこれにしない?ランカー専用の探索装置スマホにインストールさせておくから」

そういってデータを転送してくる。システムに自動的にインストールされていく。

開くだけでレベル3以上のダークをマップ上に記してくれる機能らしい。ゲーム内と一緒で一安心だ。


「瞬間移動スポットの権限も解放してあげる。自由に使うといいよ」

秘書に言ってやらせる。すぐさま秘書が専用機械の操作をしているみたいだ。

「権限解放致しました」

視線を俺に向けて秘書さんが伝えてくれた。

「……了解です」

「じゃあ、いってらっしゃい水琴君」

明るい調子でバイバイと手を振られる。

本当に行かされるんだね、と少し戸惑う。先ほど加入したばかりなので本当にランカーとしての自覚がない。

とはいっても、レベル3以上のダークを放置するわけにもいかない。あれの被害は相当大きいと知っている。実際にこの間は目の前でその脅威を味わってもいるしな。放ってはおけない。


「おそらくですが、今回のはレベル4ダークです。お気を付けて」

秘書からの忠告が入った。

どうしてそんなことが分かるのか。

「彼の予想は結構当たるから、当てにしてね」

会長からのアドバイスも貰った。

そういうことなら、頭に入れておこう。


「モヤシっ子一人じゃ不安だからな、あたしも行ってやるよ」

金髪さんが立ち上がって、拳をならした。

「不良の喧嘩とは違って危ないですよ?」

「不良じゃねーって!」

面倒見のいい金髪さんらしいと思った。

不思議と金髪さんが来てくれると言ってから、気が大分に楽になった。


「朱里も行くの?それは凄い、学園一の攻撃魔法値と学園二の攻撃魔法値のタッグか。派手になりそうだねー」

学園一と二?

「あたしの攻撃魔法値は1400オーバー。どうだ?これでもまだそこらの不良だと言うか?」

まさかの俺よりも300高い攻撃魔法値。

金髪さん、舐めててすみませんでした!


「いいえ、頼りにしてますよ、金髪さん」

「まかせろ、モヤシっ子」

俺と金髪さんがかけ出ようとしたその後ろで、もう一つの声が上がった。


「はあー、どう考えてもあなたたち二人じゃバランスが悪いでしょ。私も付いていきます」

東条蓮だ。

どうやら、彼女の参戦も決まってしまった。

自分のことながら、この先の戦闘が少し楽しみになって来た。

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