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41話 シーズン開幕

三瀬先店子との予期せぬ会談を終えて、一大イベントを消化したばかりだというのに、この世界は俺に休みをなかなか与えようとはしてくれない。


今がっしりと円陣を組む俺たち7人。

「いい、みんな?今日は大事な開幕戦。負けたら私も含めて全員坊主頭だからね、ホントよ」

ブルりと震えたのは誰だろうか。

俺だっていやだが、そこまで怖がることもないだろう。

恐怖は伝染しやすいんだ、気を付け給え。


円陣であやがやたらと気合を俺たちに注入するのも無理はない。

今日はスカイフットボールのシーズン開幕デーなのだから。

この為に毎日苦しい練習を積んでいる。

マークに絞られ、マーティンに体を寄せられ、マーチスにタックルを食らったあの日々は今日の為にあったのだ。


「いい?相手は同じ1年生チーム。絶対に勝つこと、いいね!?」

「「「Yeah!!」」」

ちょっと待ってくれ。

それ今言うタイミングなの?ちょっと乗り遅れたから、もう一回頼むよ。

分かりやすいのを頼む!


「マーク、マーティン、マーチス、守君はとにかく死守すること」

「「「Yeah!!」」」

「影薄君はその影の薄さを活かして!」

「……うぃ」

このとき、影薄君の声を初めて聴いた気がするかもしれない。

ウィと答えたから、フランス人の血が入っているのだろうか。

そこら辺はよくわからない。彼は秘密の多い人物と言うか、あまり認識することがない。

今日もあやが声をかけるまで存在を忘れていたほどだ。すまぬ、影薄君。

是非その影の薄さで、相手ディフェンスの裏を取って頂きたい。


「そして、私と春鷹でバンバン点を取る!守備はマーク達がいるから、怖がらずにじゃんじゃん攻めるよ。じゃあ、みんないい?行くよ!」

「「「「Yeah!!」」」」

このタイミングは分かりやすかった。

次からもこんな感じで頼むよ。


なんだかこの掛け声のお陰で、俺の気分は一気に乗って来た。

間違いなく、今日俺は点を決める予感がする。


試合開始が近づき、俺たちはフィールドへと立つ。

魔力を消費すると、フィールドの地面に埋められた魔石に反応して体が浮かび上がる。


多く魔力を消費すれば高く浮かび。少なく魔力を消費すれば低く浮く。

低い位置はMPに自信がなく、フィジカルに自信があるものが布陣する。


俺はその真逆なので、結構高めに位置を取った。

ポジションは左サイド。

体をぶつけあうことの少ない、まさに春鷹のためのポジションである。


ここを選べなかったことで、春鷹はチームの穴となっていた。

しかし、今日こそ見せてやろう!春鷹の真の力というやつをな!


相手もポジションごとに布陣していく。

俺と同じポジションの相手は、少しMPに余裕がないのか低い位置で浮かんでいた。


これなら素晴らしい。素晴らしく俺の実力が発揮される。

何より俺が恐れるのは体を寄せられることだ。


マーティンにしごかれた結果わかったこと。

体を寄せられている状態では俺の驚異的なシュートは威力が半減してしまう。

それじゃあ、ダメだ。


同じサイドポジションなだけあって、相手もフィジカル能力に自信なさげであるが、それでも体をぶつけあうことのないほうが良い。だって、絶対俺の方がフィジカルが弱いから。悲しいけど、否定しようのない事実だ。

物理耐久ネックレスをつけて底値をあげてはいるが、もとはカッスカスの物理能力面である。

恐れるのは、そこだけである。

相手と離れているとこちらも守備が大変になるけど、そこは大丈夫だ。

だってマーク達はジムに行っているから。ジムに行ってて筋肉を鍛えているのに守備の下手な奴はいない。きっとそうだ。そうにきまってる。

ジムに行っている=守備がうまい、という公式を俺は今無理やり作り出した!


ピー、笛の音が鳴り、地面からボールが上空へと解き放たれる。

ボールの行方はランダムで、先にキャッチしたチームからの攻撃だ。


ボールの行く先には、誰もいない。

つまりルーズボールにどちらが先にたどり着くか。

気が付けばマークと相手チームのセンターが必死にそこへと飛んでいっている。


ギリギリ相手が速いと思われたが、先にボールを取ったのはこちらのチーム。

影薄君だった。

「うぃ」

なんだか少し嬉しそう。

存在感なさ過ぎて見えていなかった……。

申し訳ない。


支援能力値、つまりパス能力の高い影薄君はすぐさまパスをあやへと出す。

あやの優れたスカイフットボール能力は知れ渡っているようで、厳しい守備にあっていた。


なかなかディフェンスを振り払えないので、一旦マークへと戻す。

サイドにグーと開いた俺を見て、マークが高速パスを出してきた。


威力重視だったパスは少しずれて、俺と相手のサイドプレイヤーの追いかけっことなる。

しかし、甘い!


なんたって、水琴春鷹の素早さは高い。

普通に追いかけっこしていては追いつけないのだよ!


少し余裕をもってボールに追いついた俺は、ボールを手に持ちながら移動する。

とりあえず状況確認である。


あやは厳しい守備にあっている。

マークはパスを出したばかりで、敵の選手がまだ近くにいる。

一方で俺は同じポジションの相手を振り切って、しかも余裕まである。


ゴールまでの距離……。

およそ30メートルかな。

いけるな。


練習でも守君相手に何度も決めた距離である。

そして決めるとすぐに、俺は念の為に更に前方へそして上方へと進む。

できるだけゴールに近づきつつも、高く飛ぶことで体を寄せさせないためだ。


安全だろうと思われるエリアまで行き、宙に浮く相手ゴールを確認した。

食らいやがれ、これが攻撃魔法値378!!

いずれ学園最強の攻撃魔法タイプになる、水琴春鷹のシュートだ!!


俺は足を振り切ってボールを蹴った。

攻撃魔法タイプの魔力が乗ったボールが空気を切り裂き唸るように相手ゴールへ向かう。

手を伸ばそうとした守備プレイヤーが全く届かずに、気が付くとボールはゴール内へと吸い込まれていた。

ゴールキーパーはほとんど反応もできていなかった。


「……うわ」

まず一番に声を漏らしたのは、俺だった。

見たか……。

見ましたか……。

全ファンキャンプレイヤーにささげたい。

サイドで水琴春鷹を使えれば、こんなロマンが溢れる選手が誕生していたことを。


ああ、自分のことながら、なんだか感慨深い。

俺のあの日抱いたロマンはこうして達成されたのだ。

実戦でも通用する。

俺は、水琴春鷹は、スタープレイヤーになれる!!


マークがガシっと掴みかかってきて、その後他のチームメイトからも厳し目の祝福があった。

一番うれしい俺は、その中心で盛大に叫ぶことにした。

「Yeah!!」

「ちょっとそれは使い方違うヨ」

マークに注意されてしまった。

いや……良くないですか?

こういうのってその場のノリじゃないの!?


結局、この後も、俺の実力がまぐれじゃないことが証明された。

高いMPと素早さで相手を振り切っては、フィールド端から放たれる超威力のシュート。

相手のディフェンスは追いつかないし、ロングシュートなのにもかかわらず、キーパーも反応できない。


俺が4点も決めると、相手チームは既に遅い気もするのだが、ようやく守備の対象を俺に切り替えた。

こうなってしまえば、俺は空高く飛びあがり、付いてきた相手複数とMPの削りあいである。

悪いが、俺は妨害魔法値も高い。果たしてどちらが先にMPが尽きるかな?楽しみである。


そして、俺に守備が向くということは、我らがファンキャンスカイフットボールのスタープレイヤー早瀬あやが火を噴くこととなる。

高い素早さ。

高いフィジカル能力。

圧倒的なセンスを持って敵を振り切り、キーパーまでもかわしてのゴールラッシュ。


ロングシュートが武器の俺と違い、あやは高い威力のシュートをあまり必要とはしない。

相手を交わし切るテクニックとフィジカル能力を有しているからだ。


こうしてマーク達も必死に守ってくれて、唯一のピンチはもう一人の天才プレイヤー守君の手によって無事防がれた。

負けたら坊主と脅されていた俺たちだが、試合を終えてみれば、8対0の圧勝劇。


つまり、この後俺たちはあれを言うことができる!

「「「「Yeah!!」」」」


試合が終わり、挨拶をするとき、相手選手に声をかけられた。

「早瀬だけかと思ってたけど、水琴までスゲーのかよ。カフェルオンつえーな」

こんなに素直に褒められるのはいつ以来だろうか。

少し照れ臭かったので、頭をポリポリと掻いて誤魔化した。


今日は祝福にジムに行くぞ!と言ったマークたちを放っておいて、俺たちは解散した。

初試合はまさに完勝。


チームカフェルオンの華々しい歴史がここからスタートする。








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