4話 トーワ魔法学園
ファンキャンの舞台となるトーワ魔法学園都市は、東京の西方面に学園を中心に街ごと開発された場所だ。
魔法大国日本を将来背負って立つ逸材を育成するための高度教育機関。
中高一貫の学園で、毎年中学生150人。高校生300人が入学していく。
中学を卒業したからと言ってそのまま自動で高等部へ進学できるわけではない。もちろん外部生よりは試験内容が簡単になるが、それでも一般的に言ってかなりの難易度を誇るテスト内容が待ち受けている。
高校からトーワ魔法学園に入学するのは更に並大抵の難易度ではない。中学生時の受験倍率よりもはるかに高くなるし、定員は300席といっても内50席は中等部から入学している内部生の為に確保されている。
高校での受験となると倍率も跳ね上がるし、最終的にトーワ魔法学園に入学する予定の生徒たちは早めに中学受験を選ぶのが最善である。
もちろん水琴家は代々このトーワ魔法学園に通う家系なので、俺も当然中学受験から挑むことになる。
主人公との遭遇を避けるためにはこの学園への入学を拒否したほうが良いのだが、それはメリットがある反面デメリットも当然ある。
先ほども述べたように水琴は代々この学園に通っているのだ。それを俺の代で急に取りやめたらなぜだ? 頭おかしいのか? 死ぬのか? という猛追及を実家から受けること必至。
それにこの世界の日本において、最高の魔法教育が行われているのがトーワ魔法学園である。せっかく魔法のある世界に来たのなら、できればそれを思いっきり謳歌したい。日本が魔法で他国より数歩リードしているという設定だったし、実際そうっぽいし、つまり魔法を学ぶなら他の学校よりも、外国よりもトーワ魔法学園が間違いなく最高なのである。
主人公との遭遇は意識して避ければいいし、メリットの大きさに比べて大したデメリットではない。なにせ俺はこの世界を知り尽くしているのだから。
トーワ魔法学園は全寮制となる。
街が一つ用意されているので、当然生活には困らない。
それどころか、下手な都市よりも快適に過ごせるとの評判。
優秀な生徒には毎月学園都市で使える通貨が支給される措置もある。まあ大富豪の水琴家にそんな微々たるものは必要ないけど。
こんな感じで、ファンキャンの世界で上を目指すのならトーワ魔法学園はその登竜門といったところになるのだ。
通わない手はない。
といっても、やはり日本トップの学園である。相当な難易度を誇ることは当然だ。
もちろん留学生だっている。そんな中を勝ち残れるのか? という疑問は当然生じてくるだろう。
そこは問題ない。
なにせ水琴家のスーパーエリート教育を受けた身なのだ。
筆記試験は問題なくトップ通過を果たした。
魔力適正でもS判定を出す。
学業も魔法の習得にも発展の疑い余地なしの水琴春鷹、つまり俺が試験に受からないわけがなかった。
更に言えば、水琴家は俺が入学する3年前からトーワ魔法学園に毎年億単位の金額を寄付している。名目はこの国の学業の更なる発展のためだが、言わずもがなそれは裏金ならぬ表金である。うちの息子をよろしく、ってことだ。堂々としていて非常に素晴らしい。
実は裏金もしっかり渡しているかもしれないけど、そこらへんは俺の知るところではない。原作でもそこに言及している描写はなかった。
そうなんだよね。水琴春鷹はポンコツキャラだったけど、原作でも水琴家自体はかなり優秀な家柄だとわかるような設定がちらほらとあった。
能力値を見られるアプリも水琴家の経営する会社の作ったものだし、学園都市内にあるいくつかの飲食店や、娯楽施設も水琴家の経営する会社のグループである。
そんな優秀な家柄から生まれた2ターンで倒される世紀のポンコツが水琴春鷹である。
そんな俺は今、高級車の中からもうすぐ辿り着くトーワ魔法学園を眺めていた。
トーワ魔法学園都市は、その空を魔法で作った透明な壁で覆っている。防衛の意味もあるのだが、衛生環境を整える意味合いが強い。
中の空気は常に人が快適に過ごしやすいように調整されている。雪が外の世界で振っているにもかかわらず、トーワ魔法学園年内では半袖で過ごせたりする。といっても季節感を出すために夏と冬では若干気温は変わるらしい。
ゲーム内では主人公たちの衣装は2種類用意されていたので、やはり冬は半そでだと若干寒いのだろう。
寮生活に必要な大量の荷物は全て車に積んである。到着してから使用人たちが運び入れてくれる手はずだ。
めんどくさい引っ越し作業は人任せという凄くありがたい身分です。
俺は身長こそ高いのだが、凄く非力である。いわゆるひょろがりである。物理面の能力が低いのはそういうことだ。
肉体仕事を他の方に変わって貰えてありがたい限りだ。
そして無事トーワ魔法学園都市に入って、学園にもたどり着いた。しばらく引っ越し作業をやってくれるのでそれが完了するまでの間、俺は都市内部を散策することにした。
一つの街ほども広い学園都市なので、歩いての移動はなかなか辛いものがある。
瞬間移動スポットというのが、都市の中にはいくつかあるので遠くに行く場合はそれに乗って大体の場所へ向かい後は歩くなりなんなりと目的地を目指す。
しかし、瞬間移動スポットはトーワ魔法学園の生徒だけが使用できる。まだ学生証のない俺には使用できない施設だ。
というわけで、タクシーに乗って都市内最大のデパートへ向かうことにした。
買いたいものは別にないのだが、春鷹の体は若干運動不足感があった。デパート内のスポーツショップ内でいい感じのランニングシューズでもあれば買ってもいいかもしれない。他の物でもいいけど。とにかく何があるかは行ってみないと。
入り口付近で止まって貰い、俺はデパートに入っていった。
普通にかなりの大型デパートである。
正面に太い柱があり、そこにデパート名が書いてあった。
『トーワ魔法デパート 水琴グループ』
……マジかよ。我が家の経営するデパートだったか。
じゃあ、これ持って帰るぜ! 俺は水琴春鷹だぜ? 金はいらねーよな! ヒャッハー!的なこともできるな。
やらないけどね。
いきなりそんな悪目立ちしたくないし、金はきちんと持たされている。買いたいものがあれば正規の手順で手に入れるよ。
うーん、スポーツショップは6階か。案内を見て俺はそこに向かうことにした。
急いでいないしエスカレーターに乗っていくことにする。
客は普通に多い。日曜なので当然なのだが、すこし誤解していた部分がある。
この都市内の施設は学生のみならず、一般人も使用可能なのである。
トーワ魔法学園の学生たちには瞬間移動スポットなどの特別な優遇はあるものの、一般人が使用してはいけない施設は学園の他にはないという点だ。てっきりデパートとか学生専用かと思ってたよ。あの学園すげー予算あんなーとか思ってたけど、そういうことね。
6階につき、俺は目的のスポーツショップへ向かう。
フロアの半分を占拠したスポーツショップは、様々なジャンルのスポーツ用品を取り揃えていた。
そのなかのランニングシューズコーナーを探していき、俺は壁に並べられたランニングシューズたちを見つけた。
いやー、流石に種類が多い。履き心地はとりあえず後にして、まずは見た目から気に入ったのを探すとしよう。
そうして視線を上にあげたり下げたりしながら探していくと、他の客が近くにいることに気が付いた。
左に視線を向けると、そこには俺と同じくらいの年齢の少女が一人。
……うわー。思いっきり知ってんですけど。
俺の知っている顔立ちよりかは若干幼いけど、まあゲーム本編は3年後だし当然か。
彼女は早瀬あや。ポニーテールの運動神経抜群女子。
物理能力面が非常に優れた主人公パーティーの一人だ。
素早さ能力値は、主人公パーティーで最速を誇る。
つまりあれだ。彼女をパーティーに入れていた場合、物理面で優れていて、素早さが一番高いということは……。
この俺、水琴春鷹が長い演出と長いセリフの後、2ターンで倒されるのだが、それをこなすのが彼女、早瀬あやの役である。
1ターン目で彼女の強烈なキックを食らって俺は絶叫する。
ボス特権でそのターン他のキャラたちは行動できない。
しかし、2ターン目また一番最初に動ける彼女が俺にキックを入れてボス戦終了となる。
ハッキリ言って相性最悪の相手だ。
別に今から戦う訳じゃないから、避ける必要もないのだが、なんだか嫌な汗が出てきたので俺はランニングシューズをあきらめることにした。
なんか近づきたくない。
よし、バーベルでも買って帰ろう。そうしよう。
踵を返してその場を去ろうとした俺に、スーツを着込んだ男たちが近づいてくる。
視線は俺に向かっているのだが、頼む俺でないように!
「もしや春鷹様ではないですか!? 」
ああ、やっぱり俺だよねー。そうだよねー。
いやー、グループ会社ならこういうこともあるのか。目立ちたくはなかったんだけど。
「春鷹? 春鷹って水琴春鷹なの? 」
俺が黒服たちの質問に黙っていると、後ろから早瀬あやが近づいてきて、彼女も俺の正体を尋ねてきた。
なんか俺のこと知っているぽいんだけど!?
てっきりゲーム内のボス戦で知り合う仲だと思ってた。
俺の記憶が正しければ、この12年間ろくなことをしてきていないので、きっと好意があって近づいて来たわけじゃないだろう。
悪いことならめっちゃやって来た自信がある。
水琴春鷹がやったことなのだが、今は乗りうっつった俺の罪である。
彼女も何かで被害を受けたのかもしれない。
だって早瀬あやさん、めっちゃこっち睨んでるもん!