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39話 三瀬先店子の登場

今日も彫刻クラブでその腕を磨き宇佐ミミさんの狂気に触れた俺は、暗くなった空を見ながら自分の部屋へと向かっていた。

料理スキルだけじゃなくて、彫刻スキルも順調に伸びていっている。


そして夢野さんに誘われたアイドル活動の為に、一応ダンススキルと歌手スキルも調べてみたのだが、どちらもEランクと才能なしだった。

その代わり、スキルボードで歌手スキルの付近にあったまさかのスキル、アイドルはしっかりランクCあった。

アイドルというスキルがあったことも驚きだが、ランクCとは……。実は才能有りなのか?


そんなことを考えながら、自室の前に到着すると、そこには思わぬ二人が待っていた。

「これはこれは、改造ショップの二人じゃないですか」

夜中の来客は改造ショップのトップ二人の直接のお出ましだった。


雷さんと、その隣に立つ三瀬先店子の姿。


「こいつか、あたしに喧嘩を売って来たガキは」

扉に背を預けて、髪をオールバックにした如何にも強気そうな女の人。

俺の知っている顔より若干幼いが、間違いなく俺の知る三瀬先店子その人の姿である。

一学年年上で、改造ショップのトップが雷さんだとすると、彼女は裏の真のトップである。

ゲーム内のボスで、最強の妨害魔法タイプ、そして何よりダークマスターの一人である。


俺が彼女に喧嘩を売ったことになっているらしい。

まあ、仕方ない。おそらくだが、まだ悪いことをしていないにもかかわらず、雷さんを通して牽制したのだからそう取られる可能性はあった訳だ。

つまりこの場を招いたのは俺自身である。

まあ、後悔はない。


「こんばんは、商品を持って来たアルよー」

怖い雰囲気を発する隣で、雷さんが何時ものように明るく笑いかけてくれる。

「あたしの前でその喋り方はやめな、雷」

「わかったよ、店子」

ボスである三瀬先店子に言われて、雷さんは普通のしゃべり方に戻る。

キャラ作りだったのか、それ……。

少し意外な真実を知ってしまいショックである。


雷さんのあの話し口は結構好きだったのだが。

ファンに素の姿を見せるのはやめて頂きたい。


「こんなところじゃなんだし、部屋の中にどうぞ」

「はじめからそのつもりだよ」

三瀬先店子に抱いていたイメージは、ガツガツとしたデリカシー薄めの女性だったが、本物もそうらしい。


部屋に入ると三瀬先店子は遠慮なくテーブルに腰かけ、部屋を論評していく。

「水琴家の坊ちゃんの部屋がどんなものか気になってたけど、大したもんじゃないね。なんだかがっかりだね」

必要な物だけあればいいという主義なので、こんなものだ。


「ここは学園寮ですからね、あまり派手にするのもどうかと思いまして」

「ふーん、雷の部屋を見たらびっくりするぞ。派手なんてもんじゃないからな」

やはりそうなのか。

改造ショップの商品がどこで作られているのか、考えてみるとクラブの部屋か、三瀬先店子の部屋もしくは雷さんの部屋しかないよな。

もしかしたらその全てがいっぱいいっぱいに物が詰まっているのかもしれない。


「どこから始めます?とりあえず、注文の品は持ってきていますけど」

常識人っぽい話し方の雷さんにすごく違和感がある。

「雷さん、先日のイメージと違いすぎて話しづらいです。できれば先日の話し方に戻してもらえませんか?」

先日と言うより、ゲーム内で聞きなれたあの特徴ある話し方だ。

「でもね、店子が怒るから」

2人で三瀬先店子に要望の視線を向けた。

切実に!二人ともだ!

「ちっ、客の注文だ。今日は許してやるよ」

「アイヤー!許しが出たアルよ!」

キター!

やはり雷さんはこうでなくちゃ!

思わず雷さんとハイタッチしてしまった。


「そっちのほうがなんだか気兼ねなく話せます」

「そうよね。こっちほうが商売人らしくてみんな気軽に商品のこと聞いてくれるアルよ。壁を感じない不思議なコミュニケーション方法よ。あなたもコミュニケーションに困ったらやってみるといいアルよ」

そうなの!?

いや、でも確かにそうかもしれない。

話し方が変わるだけで、雷さんに対する印象が一気に変わったからな。


さっきまでは真面目な上級生って感じだった。

落ち着いた好青年だったが、確かに話しかけづらい雰囲気があった。


そして今はどうだ。

おちゃらけたお兄さんにしか見えないが、とても話やすい。


これはコミュ障解消なるか!?

スカイフットボールのときに試してみるか。

マーク、こっちにパスをよこすアルよ!

……想像してみたが、ないな。

うん、絶対にない。

マーク達に白い目で見られること100%!!


「水事君の注文の品は物理耐久補強のアクセサリーね。5つ持って来たから、欲しいのを選ぶと良いあるよー。マークくんの紹介という形だから、少しだけ安く売ってあげるアルよ」

「どうも」

テーブルの上に並べられる商品。


『物理耐久上昇ネックレス 004』

『物理耐久上昇ネックレス 023』

『物理耐久上昇ネックレス 024』

『物理耐久上昇ネックレス 067』

『物理耐久上昇ネックレス 098』


商品をタップして、表示されるステータスを確認していく。

どれもやはり市販品じゃ取り扱っていないような尖った商品たちだ。


俺の目に付いたのは、『物理耐久上昇ネックレス 004』、一番最初の商品だ。

物理耐久を70を底上げしてくれる。それ以外の効果はない。


しかし、物理耐久が上がる。底値が上がる。ベースアップである!

俺のゴミみたいな、一桁しかない物理耐久が70も上がるのだ。

もうこれしか目に入らない。

私これしかいらないアルよ。


「それが良いアルか?」

「これがいいです」

「少し高いけど、お金持ちだから大丈夫アルよね?」

お金持ちだから大丈夫です!

支払いはカードでお願いしました。

カードにも対応している辺り、流石は改造ショップアルね!


また利用したいものだ。

「お買い上げありがとうアルよ!一括で買ってくれるお客は何時でも大歓迎あるよ。連絡先渡しておくから、何時でも連絡してアル。登録は雷でお願いね。改造ショップなんて登録しないでよ、先生にバレたら大変アル」

学園で無許可で商売をしているのだ、当然の警戒と言っていい。

俺も素直に了承した旨を伝える。

本当に、改造ショップとは今後も仲良くしていきたいものだ。


それにしても、ゲーム内じゃ魅力的な改造ショップも、そのあまりに高い対価にプレイヤーたちは頭を抱えていた。

それだけのお金があれば、ヒロインのプレゼントを買って好感度を高められるのに!といった悩みの中で、改造ショップのアイテムを買うか、ヒロインの好感度を買うか悩んだものだ。


だがしかし!

水琴家の財力を持ちし、この水琴春鷹に恐れるべき金額などない!

水琴春鷹のスペックはその高い能力値だけではなく、実家が金持ちと言う点も含まれているのだ。

改めて春鷹最強!それを変な方向に使っていたゲーム内の春鷹最低!


俺と雷さんの商談はまとまり、お互いに満たされた感情の中握手を交わした。

またよろしくという思いがお互いに込められている。


そして、いよいよ真打が間に入って来た。

「雷、あんたはもうええやろ?下がってな」

「アイヤー!水琴君いいお客さんよ、店子あまり怖がらせたらダメアルよ。彼上客になる匂いプンプンあるよ」

「うるさいね。いいから下がってな。あたしが話している間、部屋でも物色してな。御曹司の部屋なんだ、高価なものがあったら頂戴するんだよ」

おい!

「分かったアルよ」

お前も、おい!


雷さんが一歩下がって、テーブルの向かいに座り直した三瀬先店子。

もともと勝気な顔が今日は更に月明かりに照らされて怖さを増している。


「まずどこから聞こうかしらね。うん、やっぱりこれからだね。どこであたしの正体を知った?」

ゲーム内です。

とは当然答えられない。

答えてもいいが、頭がおかしいと思われることだろう。

改造ショップのトップの存在は一般的に誰にも知られていないことになる。

内部の絆は強く、漏れることもない。


ゲーム内では、主人公パーティーにいる天才頭脳を持った男がわずかなきっかけで三瀬先店子にたどり着くのだ。

あいつマジ天才。


「水琴家のネットワークをあまり舐めないでください。知ろうと思えば理事長の隠し子までわかりますよ」

「へぇー、そりゃ興味深い」

ちなみに主人公パーティーの天才が理事長の隠し子である。あいつのマジ天才な理由がいきなり判明。

水琴家のネットワークではない。ゲームの知識である。


「しかしなぁ、あたしの正体を知っているのは雷くらいだ。こいつが情報を漏らすはずもない。一体そのネットワークってやつはどうやって張り巡らされてんだろうねー」

「情報ってやつは正面から追おうとすると見つからないけれど、案外角度を変えると簡単に入ったりするものです。特に目星をつけないで追ってみると、意外なお得情報が入ったりする」

……適当なこと言ってみた。

そんなネットワークもなければ、情報の追い方も知らない。


「よくわかんないけど、世の中いろいろ凄いやつがいるもんだねー」

良かった。納得してくれたみたい。

深く突っ込まれていたら、あたふたした挙句、ごめんなさいしてたかもしれない。


「まあそんなことはどうでもいいや。もう、これから聞くとするか」

三瀬先店子が少し笑った。

そして、ゲーム内でも何度か見たことのある、狂気が入り混じった笑みに変わっていく。


「おい、ボンボンのクソガキ。あんたの目的はなんや。改造ショップと戦争したいんか。いいや、この三瀬先店子と戦争したいんか?」

顔をグイっと近づけて、三瀬先店子が話を核心に持っていく。


……どうやら、大事なターニングポイントを迎えたらしい。



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