38話 アイドルやりませんか
一体告白イベントというのは何が起こるのだろうと、頭を一杯にしながらその時を待った。
今日の放課後に校舎屋上で俺は告白される予定である!
正直に今の気持ちを言おう。
めちゃくちゃ嬉しい。
夢野さんをそういう目では見ていなかったが、もうそんなの関係ないよね!
迎えた放課後、俺は一直線に屋上へと向かっていた。
遅れてやって来た、夢野さん。
俺たちは向き合った。
まっすぐと目を見つめ合う。
「水琴君、あの……」
「はい、わかっています」
「その……」
ゆっくりでいいよ。
「私……」
はい!
「私と……」
私と……はい!
「私とアイドルやりませんか!」
「はい!……はい?」
アイドル!?
俺が!?
「ま、待って!夢野さん、今日ってそんな用事で呼び出したの?」
「そんな用事でって酷いです!勇気出して誘ったんですよ?」
若干目を潤ませながら夢野さんが必死に訴えた。
それもそうだ。
彼女にしたら必死この上ない告白である。
俺が勝手に勘違いして舞い上がっただけだった。
「アイドルですか……。あまりに予想外過ぎてびっくりしています」
「そうですよね。ごめんなさい、本当はもっと前から徐々に誘おうと思ったのですけど」
ああ、視線の正体はそれかと納得した。
それにしてもなぜ俺なんだ。
俺にアイドル要素なんてほぼないと思うのだが。
それに男女混合のアイドルなんてどうなんだ?需要はあるのか?
「そんなに俯かないで。アイドルはいいと思うよ」
「じゃあ一緒にやってくれますか?」
そういう流れになるか……。
そうだよな。
えーと、俺がアイドルとかありえなくないですか。
水琴春鷹ですよ。
高身長と顔だけはいいかもしれないけれど、本当にそれだけしかないぞ。
思えば3年前、春鷹は今を時めくアイドルグループに少しばかり興味を持ったことがあった。
実家のコネを存分に使いアイドルグループを実家まで呼び寄せて、歌とダンスを堪能したことがある。
その時に感動して感謝の言葉でも述べるのが普通の人間だと思うのだが、春鷹は彼女たちに「テレビで見たほうが綺麗」と暴言を投げかけて場を凍らせたことがある。
既にアイドル界に迷惑をかけた経歴も持つのに、更にその世界を邪魔などできるはずもない。
ここはお断りするのが双方にとっていいだろう。
「私、クルミンっていうアイドル名で頑張っているんです!」
断ろうと思った矢先に驚きのカミングアウト。
クルミンっていえば、ゲーム内に出てくるアイドルキャラだ。
正体不明の、学園都市内限定で活動するアイドル。
今、彼女はその正体が自分だと言ったのか!?
これは驚きだ。
夢野くるみで、クルミンか。
ストーリーには関わってこないクルミンだが、その存在は度々ゲーム内にて確認できる。
街の散策中にイベントで歌っていたり、彼女のコンサートをバックにバトルなんていう演出もある。
主人公パーティーの中に彼女の熱烈なファンもいて、会いにいくようなイベントもあるのだ。
「クルミンって本当に、あのクルミンなのか?」
「知っているんですか?まだ細々とやっているだけなんですけど」
あ、まずい。
そうか、俺が知っているクルミンは結構な知名度を誇っていたと思うけど、ここはまだゲーム本編の3年前。クルミンがそれほど有名なアイドルでない可能性の方が高いのか。
「ちょっとその界隈には詳しくてね」
苦し紛れのいい訳!
「それなら尚更一緒にやりましょう!水琴の戦うコックさんの動画、あれを見て私ビビッと来たんです!この人と一緒なら天下を取れるって!」
あれか、結構話題になってしまったやつだ。
夢野さんは俺がバイトしていることを知っているから、あの映像が俺だと断定したんだな。
「なんであれを見てアイドルに向いていると思ったの?ただ魔法で戦闘しているだけだよ」
「スター性が溢れていました!」
さっきまで少し控えめだった彼女の視線が輝きだした。
「なんていうか、売れる人達と同じ匂いを感じました!」
俺があやに見せられた時点で再生数100万くらいいっていたからな。確かになにかあの動画にはあるのかもしれない。
だが!
「俺はダンスも歌もダメだぞ」
これは伝えておかないとな。
アイドルには一番大事なところだろう。
「いいんです、そこは。水琴にはダークと戦って欲しいんです!コラボするのはミュージックビデオだけです!」
彼女の歌に合わせて俺がダークと戦闘するのだろうか。
危ないですね、俺が!
「お願いできないでしょうか?」
ここまでカミングアウトしてくれた彼女には協力したい。
しかし、アイドルなんて田辺が絶対に許してくれないだろう。
無理だよね、どう考えても。
「困っているんです。夢を叶えたいんです……。今はいないおねーちゃんのためにも」
うっ、なにこの重たい話が来そうな感じ。
それに困ると言われてしまえば、俺のお助けスイッチがオンになってしまいそうになる。
「おねーちゃん、アメリカに留学してて、日本で私が頑張っているよってことを伝えてあげたいの!」
軽い!
思ってた100倍くらい軽い話でした!
「一回……だけ。それだけなら協力しよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
彼女は何度も何度も頭を下げてきた。
「それにしても、クルミンの正体が夢野さんだとは驚いたよ」
「そ、そうですよね」
うむ、だってクルミンはメガネをかけていないし、歌って踊っての活発少女だ。
髪型もおでこをフルに出した明るい印象で今と全然違う。
女子って本当に着るものとか髪型で変わるものだなーとしみじみと感じた。
いろいろと話して、また撮影の日程が決まったら連絡をくれると決まった。
それを言い残して彼女は屋上を後にした。
こうして俺の告白イベントは勘違いという形で幕を閉じたのだった。
とても遺憾に思っております!
というより、クルミンのアイドル活動に下手に参加しても良いのだろうか?
彼女はゲーム内本編じゃそこそこの知名度を持っていた気がする。
いや、学園都市内限定アイドルってことはそんなに売れていなかったのか?
まあ、いい。
彼女からの要請なんだ。
俺が運命を変えてしまったわけじゃないよね……。
それになんとなく作戦も思いついた。
ダークマスターの力がもっと伸びて、彼らを上手に使えればアイドル活動の手伝いになれるかもしれない。
それどこか、ダークや、ダークマスターへのイメージ向上もあり得るのか!?
とりあえず、また予定が増えた。
どこで時間を作るか、それが当分の課題である。




