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34話 改造ショップ

「よっ、このフリョウー」

「違います。これはヤンキーっていいマス」

「違う違う、クソッタレが正しいデス」

クソッタレは違うだろ!


先日授業で学園の備品、ダークロボを破壊してしまった件をすっかりネタにされてしまっていた。

マーク、マーティン、マーチスはスカイフットボールの練習が終わってから、ずっとこんな感じである。


それにしてもクソッタレとかどこで習ったんだ。

絶対に知るべき日本語ではないぞ。


「春鷹が凄いっていうのは、スカイフットボールのシュート威力を見れば分かっていたことだけど、でもね……ダークロボを壊すってちょっと異常よ」

やれやれと両手を広げてあやまで呆れたアピールをする。

真面目に過ごしてきたのに、授業だって真面目に受けたからゆえにダークロボを破壊してしまったわけなのに、なんだか目指していたルートから逸れつつある気がする。


クリスティン先生からもすっかり問題児扱いされて、反省文まで書かされる始末だ。

たった一枚の反省文で何度クリスティン先生の校正が入ったことか。あれはもうほとんどクリスティン先生と俺の合作である。


「ダークロボを壊したなんて初めて聞いた。この間の授業で蹴りを入れたけど、あれ相当硬いわよ。壊れるなんて想像もできない」

「そうね。物理強化型の僕たちには特に硬さがワカルよ」

あやの話に相槌を打つマーク達。


物理型は接近して直接攻撃が多いから、そう実感しているのだろう。

俺だって壊れるなんて思っていなかった。


「ところで、皆は結果どうだったんだ? 」

あやたちは揃ってピースサインを示す。

どうやら成績は良かったと見える。


どうも物理強化型は総じて初期は成績がいいらしい。

思いきりのいい性格の人が多いため、他の生徒たちが臆している間にちゃっちゃっと決着をつけているようだ。


あやもマーク達も物理強化型なので、それぞれのクラスで最上位の成果をあげている訳だ。

俺の1組でも、留学生の王さんのパーティーが一位だった。彼女も物理強化型だったな。


「春鷹、この後はジム行くデショ? 」

土曜日はスカイフットボールの練習が午前だけなので、マーティンがまたもジムに誘ってきた。

「いいや、行かない。やることがあるからね」

清掃である。先輩たちの手伝いをせねば。


「プロテインあるよ」

いや、魅力感じないから!

確かにモヤシ体系の改善はしたいのだが、プロテインごときで釣られはしない。何より練習で既にクタクタである。


「あ、今日は僕もパスだよ」

マークもジムはやめておくらしい。

マークは一人で中華屋に行ったりと、結構アクティブな面がある。

今日も一人でどこかへ行くのだろうか? 


「バッドボーイズ」

ジムに行かない俺とマークは今日もディスられる側だ。

マーティンたちとは練習後に別れた。

あやもやはり美味しいケーキ屋さんを友達とめぐるらしい。


俺もさっさと先輩たちの手伝いに行こうとしていたのだが、マークに捕まってしまった。

「春鷹、ちょっとだけついて来て欲しいヨ」

「……告白か? 」

「違うヨ。まだ恋には出会ってないヨ」

マークのことだからそういうこともあるのかと思っていたが、そうじゃないらしい。

じゃあなんだろう。


「改造ショップについて来て欲しいヨ」

改造ショップ?

えーと、ちゃんとあるんだ。この世界にも。


改造ショップはゲーム内で、特別なアイテムが買える秘密のショップである。

学園都市に出向けばいくらでも装備に必要なものが市販品として売られているのだが、その補助ステータスが気に入らない場合、改造ショップに立ち寄ることとなる。


改造ショップは学園で秘密裏に商売をしているので、表向きは存在していない。

裏クラブとして知られているのだが、マークがそんなところと繋がっているとは驚きだ。

本当にフットワークの軽い男である。


マークが怖くて人を連れていきたい気持ちはなんとなくわかる。

改造ショップは秘密のショップなだけあり、店舗を持っていない。学園側の許可も取っていないため当然ではある。

毎回欲しい商品を事前に連絡し、後日日時と場所を指定されてそこに出向く形となる。


少しリスクのある行動になるが、見返りは十分。

ゲーム内では、改造ショップが売ってくれるアイテムは市販品よりも尖った補助ステータスの場合が多く、プレイヤーには愛されていた。


ただ実際行くとなると、校則に反している気もするし、なんだか気が重い。

マークもその辺りを気にしているのだろう。

赤信号みんなで渡れば怖くない現象で、俺も巻き込む気だな。


まあ、俺も興味があるので同行してもいい。

「いいよ。付いていくよ」

「ほんとうか? ありがとうヨ。春鷹やさしいネ。クソッタレ言って悪かったヨ」

クソッタレって言ったのお前かよ!


本日指定された場所は、食堂らしい。

人目が多い気がするのだが、人に紛れたほうが案外目立たないということなのだろうか。


「オムライス、ケチャップ抜きを注文するらしいヨ」

それが改造ショップから指示された条件か。


まあ、俺は変わらずシンプルなおにぎりを食べるけどな。

二人で食事を注文し、窓際の席でゆっくりと昼食を頂くことにした。


何が欲しいのか軽く話していると、マークの隣の席に一人の男が座り込んだ。

顔に笑顔を貼り付けたようなニコニコとした男だった。

「改造ショップアルよー。オムライス頼んでいるってことは、こっちの君がお客さんかな? 」

「そうデス」

「私中等部2年のレイっていうヨ。よろしくネー」

彼も留学生である。

改造ショップが本当に現れた。


この雷という男を俺は知っている。

この人は間違いなく改造ショップである。


そしてゲーム内では中ボスであった。

5人のボスの一人、三瀬先店子みせさき たなこの子分、雷さんである。

状態異常魔法を多用する嫌な敵である。


何を隠そう、改造ショップのトップに君臨するのが三瀬先店子。

彼女はおそらく俺と同じ黒の魔法使い。


まさかこんなにも早くその存在の影を見ることになるとは思っていなかった。

この世界でも場合によっては三瀬先店子と戦うのだろうか?

いいや、戦うのは文月大夜の役目か。


なら俺は関与しなくていいのかといいのかと言えば、そうでもないよな。

三瀬先店子のダーク悪用が露骨になれば学園内で事件が多発する。

真面目に学園生活を過ごしたい俺にとっては大迷惑である。


三瀬先店子の制御は俺の役目でもあるのだ。


とはいっても、改造ショップは元々はまっとうな商売をする裏クラブである。

ゲーム内では三瀬先店子と揉めている間もちゃんと商品を購入できるという不思議なことがあったりする。


今も見るに雷さんは真面目に商売をしている。

まあ学園の許可はとっていないんだけどね……。それを買おうとしている俺たちも同罪な訳で……。


学園側は生徒の自主性を伸ばす、と常々言っているのでこれくらいはいいのかもしれない。

まあ、いいよね! と都合よく解釈しよう。


「ご注文の品は、魔法耐久値補助アイテムだったアルよね? 」

「そうデス」

「いろいろ持って来たアルよー」


スマホをこちらに見せてくれて、アイテム一覧を見せてくれた。

『魔法耐久ブレスレット 007』

『魔法耐久ブレスレット 067』

『魔法耐久ブレスレット 098』

『魔法耐久ブレスレット 111』

『魔法耐久ブレスレット 121』

名前がダサいのは仕方ない。改造ショップはあくまで性能面しか求めていないからな。


一つ一つその性能を確認していくマーク。

「魔法耐久ブレスレット 098がとてもいいデス! 」

「どれどれ? 」

俺も性能を覗いてみた。


『魔法耐久値を50底上げ。遠距離魔法のダメージを10%カット』

おお、確かに素晴らしい。

「それにするアルか? マイナス効果ないから高いよー」

「幾らですか? 」

「20万よー。分割払いも可能よー」

うわ、高いな。

そうだった。改造ショップは市販品より性能が尖っている反面、値段が高いのだった。


よく欲しいアイテムがあっても買えなかったのを思い出す。

ちなみに、金を湯水のごとく持っている春鷹の装備アイテムは、オシャレ目的のモノだった……。付与効果なし……。

やはり悲しい男。それが春鷹である。


「分割でお願いしまス」

「はいよー。お買い上げねー」

商談はまとまった。

支払い方法はまた後日伝えると言って、雷さんはブレスレットを手渡した。


マークが嬉しそうに身につけている。

「雷さん、俺も買いたい装備品があるんだけど」

「あなたもー? いいよー。何が欲しいアルか? 」

「物理耐久を高めるアイテムを! 」

切実に!!

「分かったよー。商品準備出来たらまた呼ぶから待っててー」

田辺から送られてきたばかりのスマホの連絡先を改造ショップの雷さんに渡した。


「楽しみにしているといいよー」

「あ、ちょっと待って」

まだ雷さんには用がある。


「改造ショップのトップに伝えて欲しいことがある」

ずっと笑顔を保っていた雷さんの目つきが少し鋭くなった気がした。

「トップもボスもいないよー。うちは自由だからねー」

「そう言わずに、三瀬先店子先輩に伝えてくださいよ。改造ショップで頑張っているうちはいいですけど、他に現を抜かして悪さをし出したら、一年の水琴春鷹が黙っていません、とね」

俺もニコリと雷さんに笑顔を向けた。

「……誰のことか知らないけど、分かったよー。君の顔も名前も覚えておいておくよー」

雷先輩は来た時のような笑顔で俺たちのもとを去っていった。


うむ、少し牽制しすぎたかな?

まだ三瀬先店子は悪事に手を染めていないし、少し高圧的過ぎたか?


まあ改造ショップのトップが誰か知っていると伝えただけで、少しばかりではあるが釘をさせたことだろう。

なにか俺に手がかかるかもしれないが、三瀬先店子が道を逸らさないなら軽い問題である。


「何か最後、二人とも怖かったヨ」

「ん? そう? 」

マークからの質問は軽く濁してスルーした。

それよりも、これから怖いのは君の方だぞ。

ゲーム内でもどうしても欲しい商品を、改造ショップは分割払いで売ってくれるのだが、返済が滞ると彼らは鋭い牙を向けてくることになる。


具体的に、主人公文月大夜がやられたこと。

恥ずかしい秘密を暴露される。

希少なアイテムが突如なくなる。

改造ショップへの出入り禁止。


ヒロインから好感度も落ちるし、払わないといろいろゲーム内で支障が出る。

流石は独自に商売を広げているだけあって、改造ショップの連中は結構恐ろしいのだ。


そうならないようにするんだぞ、マーク。




キャラ引き立てのため名前を変更しました。

針金店子 → 三瀬先店子

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