3話 原因
散々春鷹の残念さを述べてきたのだが、実はまだまだ彼には残念なポイントがある。
それらはおいおい紹介するとして、少しだけ弁護もしておくべきだろう。
春鷹は何もただアホに何も考えずに魔法耐久タイプの水魔法を選択したわけではない。
水琴家の当主は代々水魔法を使用してきた歴史がある。春鷹の父の代で水琴家はかつてないほどに栄えるのだが、更にその父は水魔法の使い手として世界の5本指に入ると言われている男である。それ以前の先祖様たちも皆水魔法の使い手であり、優秀であると言われている。
そんな環境にあって、でも俺は攻撃魔法値が高いから攻撃魔法タイプの炎魔法を選択します、とは簡単に言いだせなかったのではないかと思われる。
それに春鷹は事あるごとに、父親を尊敬している的な発言もしていることから、その背中を追っていたのではないかという線が一番有力である。
そういう訳で、春鷹は結構悩んだ末に魔法耐久タイプの水魔法を選んだのだと信じたい。
俺は何があってもこの地雷を踏まないことが必要になってくる。
悪いが先祖どうのこうのなんて興味ない。攻撃魔法値が天才的なんだ、それを活かさない訳ないだろう?
春鷹の残念ポイントとして、もう一つ弁護しておきたい部分がある。
彼が取り巻きを連れていない点だ。
取り巻きを連れているキャラにろくなのはいない。
大抵雑魚だし、クズだし、悪役だ。
しかし春鷹は雑魚だし、クズだし、悪役なのに取り巻きを連れていないのだ。
連れて歩いても何もおかしくない完璧な境遇が揃っていると言うのに。
これにも有力な説がある。
実は主人公が学園で一度倒れて、ヒロインがそれを助けるというサイドストーリーが拡張パッチの中にあったのだが(有料)、そこで興味深いシーンがある。
ヒロインは主人公を目覚めさせるための特別な薬草を学園都市内で探すのだが、生徒たちに声をかけて徐々にヒントを貰い薬草を探すというミニゲーム的な内容だ。
そしていろいろ情報を集めた挙句、学園都市にある薬草園へとたどり着くことになる。
ちなみに初めから薬草園に行っても特別な薬草は生えていない。これとても重要。
ヒントを貰って薬草園まできたヒロインは偶然にもその薬草園の隅で春鷹をみかける。
一瞬ピンと!マークがヒロインの頭上につくだけで、特にイベントは発生しない謎の遭遇である。
てっきり春鷹から薬草を貰えるのかと思いきや、畑に一つだけ特別な薬草が生えていて、幸運にもヒロインはそれを手に入れることができるのだ。それを主人公に使ってやり、彼は目を覚ますことになる。その後しばらくいちゃラブがあってゲームは終わりとなる。
ちょっと待て。春鷹必要だったか?
と思ったのは俺だけじゃないはずだ。
水琴家のありあまる財産で実は薬草を持っていて、それをヒロインに渡す役かと期待した俺の思いはどこへしまえばいいんだ。実はいいやつだったとか思っちゃったじゃねーか。
納得のいかない俺は、ヒロインを操作して春鷹に話しかけてみた。
そしてたら、驚きの反応が返ってくる。
『……』
もう一度声をかける。
『……』
無言。
そう、返事をしてくれないのだ。
水琴春鷹といえば、長ったらしいセリフとうざいハイテンションで50回も主人公に絡む男である。
そんな男が、話しかけれらて無言だと!?
ありえない。セリフを吹き込み忘れたというほうが納得いくくらい。
しかし、この謎は声をかけること15回目にしてすこし解決へと向かう。
『話しかけんなよー……』
15回もしつこく声をかけると、春鷹はうつむいて小声でそいうのだ。
そして更にしつこく15回声をかけると、またびっくりな反応が返ってくる。
『あっちいけよー。一人でいたいんだよ』
嘘だろ。あの春鷹があっちに行けと言っているだと!?
いつもお前から絡んでくるのに!
しかし、ファンキャンのヘビープレイヤーである俺はそのとき気が付いた。
あ、こいつコミュ障じゃないかと。
そう思いついた後、俺の中に次々と春鷹がコミュ障だという証拠が思い浮かんでくる。
春鷹が傲慢な態度で接する人間は身内の人間とあと一人だけ……。
身内を覗けば、実は主人公意外とは会話すらしていないキャラなのだ。
しかしこんな彼だが、なぜだか主人公の前だけでは長ったらしいセリフとハイテンションをお見舞いする。
そして俺は気が付く。
春鷹は主人公と友達になりたかったのではないか、と。
長ったらしいセリフもハイテンションも主人公の前だからさらけ出すことのできた姿。春鷹は主人公に身内のような感情を抱いていたのだ。
しかし、主人公の周りにはいつも気のいい仲間や可愛いヒロインたちがいる。
そんな姿を見て、春鷹は嫉妬したのではない。だから50回にも及ぶ凶行に走ったのではないか……。
以上春鷹に取り巻きがいない理由、俺の推測兼願望である。
攻略サイトでも有力視された情報だ。提供者は言うまでもない、俺である。
でないと説明できない点が多すぎるキャラなのだ。水琴春鷹という男は。
で、実際春鷹の体に乗り移ってどうかと言うと、うーんコミュ障な感じはしないでもない。
というのも、肝心の俺もコミュ障に近いものがある。
確かに知らない人との会話になったら手間取ることになりそうだ。
まあ、これはいいか。
別に俺はこの世界で取り巻きを連れて歩く予定もない。
友達が一人二人できればそれでいいのだ。
そのくらいなら俺でも楽勝でできるんじゃないかと思っている。
そしてたら主人公と友達になりたいとか思う気持ちもなくなるだろう。無事最大の地雷回避というわけだ。