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27話 水餃子

現場へと走りながら、エプロンを外すことを忘れていたことに気が付く。

エプロンには店の名前『トーワ最旨中華屋』の名前が入っている。


まあ悪いことをするつもりじゃないのでこのままでいいだろう。

人だかりができている現場に到着すると、その中心でダークに取りつかれた男がアーアーと声をあげながら挙動小さく暴れているのが一瞬見えた。


男は俺と同じようにエプロンとコック帽をつけていた。

どこかの店のコックのようだ。恐らく同じ中華屋。

助けて良いものかどうか判断に迷うな。客を取り合う可能性が出てくる。


人だかりの最前線では、人々がダークに近づかないように警察官が必死に人だかりを抑え込んでいた。

「危ないですから! 近づかないで! 」

土日は他の街からトーワ魔法学園都市に遊びにくる人も多い。

ここは街として発展しているし、先輩の清掃ロボットたちが常に綺麗にしていることもあり非常に居心地がいい。

特殊な魔法壁も上空に張り巡らされており、環境も素晴らしくいい。


極めつけは、ここは学生のための街であるから、娯楽施設もデートスポットも多い。

若者を中心に集まる街で活気が非常にある。


他の地域から来る人達は、滅多にダークを見かけたことのない人も多く、その危険さを理解していない人が多い。

今の人だかりも、多くがこの街の住民ではないだろう。

この町の住民が、頻発するダークの危険さを知らない訳はない。


俺が人だかりの間を縫って、中心に近づこうとするのだが、押し戻されてしまう。

相変わらずの非力具合に悲しさ全開だ。

「おい、押すんじゃねーよ! 」

再び人だかりから押し出される。

「俺は写真を撮りたいわけじゃない」

「動画も後にしろよ」

そういう話ではない!


ダークがどの型かわからないが、型によっては被害が凄く大きくなる可能性もある。

一刻も早く対処したいのだが、人だかりの壁はなかなかに厚い。


なんとかかんとか、隙間を見つけてようやく人だかりの最前線に躍り出る。

ダークの様子がはっきりと見えた。

片手に中華鍋を持って、ボーっと突っ立ている。


恐らく魔法型のダーク。

中華鍋を持っているので物理型に変更可能かもしれない。

鍋で叩いたり、鍋でキックを防いだり……、魔法型だな!


「ちょっと道を開けてください」

俺が最後の人だかりである警察官を通り過ぎて、ダークに対処しようとしたらガッツリと腕を掴まれた。

「コックさんは後ろへ! 」

え? ああ、そうだけど、そうじゃない!


「大丈夫です。中華屋なので強火には自信があります! 」

「いいから下がって! 」

今度はガッツリと怒られてしまった。


おうおうおう、帰って中華鍋の手入れに戻っちゃうぞ。

いいのか? いいんですかい?


と言う訳にもいかないので、俺はまた警察官と押し問答する。

学園生徒としての義務を果たしに来たんだから、黙っては帰れない。

「どいてください! 」

「帰ってください! お客が困ってますよ! 」

「いいや、今は客が入ってないので! トーワ魔法学園の生徒としてダークは放置できません! 」

「あら……」

ぱっと警察官の手が離れた。


「学園生徒ならもっと早く言ってください。エプロンなんてしているからコックだと思ってました」

そういえば言ってなかったことを思い出す。

お互いになんか申し訳ない感じになってしまった。

「なんかすんません」

「いえいえ、こちらこそ」

「お詫びに後で中華食べに行きます」

「ああ、いつでもどうぞ。いいエビが入ってますので、エビチリがおすすめです」


ようやく遮るものがなくなったので、ダークが動かないうちに勝負をつけてしまおう。

俺とダークを囲む人だかりから向けられるカメラが若干恥ずかしい。

撮影禁止でお願いしますよ!


こんな人だかりを前にして、あの恥ずかしい呪文を唱える勇気はない。

かといって、まだスマホに術式は組み込んでいない。

いつ組み込むんだよ!?


だから、今日もあの方法で仕留めようか。

俺の攻撃魔法値1100オーバーと、この詠唱の仕方だとオーバーキルになってしまう可能性がある。

それでも背に腹は代えられないか。


右手を胸の前に持ってきて、左手を手の甲に添える。

くらえ、【黒炎使い】の炎を。今日は中華屋仕様の強火である!


ダークフレ……。

魔法を発動しようとした俺が、ダークの思わぬ行動で詠唱を中止した。


ただの雑魚だと思っていたダークだが、彼は俺の魔法を察知したのか中華鍋を構えて盾にしたのだ。

中華鍋が火に強いと理解しているだと……!


しかし、それって普通の火のレベルの話だよね。

魔法で生み出されてる炎は防げないぞ!?


なのに俺は魔法を打てなかった。

今や同じ中華屋のコックをしている身として、中華鍋に危害を加えることなど俺にはできない。

中華鍋は中華料理屋の魂なのだ。


俺が戸惑っていると、ダークはようやく攻撃に打って出た。

口や耳から少しずつ漏れ出していた黒い煙が、まるで蒸気機関車のごとく音を立てながら大量に吐き出され続ける。


音と異様な光景に、流石に人だかりから逃げ出す人が出てきた。

俺も後ろに飛びのく。


これは間違いなく妨害魔法タイプのダークだ。

あの大量に噴き出す黒い煙を吸い込むと、体のどこかに支障がでることだろう。


あれに魔力を封じる負の効果がある場合は、最悪魔法を使えずダークを仕留められなくなってしまう。

一般人への被害も大きくなることだろう。


一刻も早い処理が必要となる。

しかし、俺はやはり手を出せないでいた。


ダークの側面に回っても、後方に回ろうとしても、彼は俺に中華鍋を向けてくるのだ……。

刻一刻と辺りを黒い煙が包んでいく。


……すまない!

俺は決断した!

魂ごと散るがいい、ダークよ!


ダークフレイム!

右手の痣に触れながら、手から黒い炎を噴き出す。


一直線に飛んでいく狼の形をした黒い炎が、黒い煙を全て焼き尽くしながら、ダークに嚙みつく。

ダークは成すすべなく倒れて、その場で黒い炎に焼かれた。


すぐに男の体からダークがすーっと漏れ出す。

それを見て、警察官が倒れた男に駆け寄った。


ダークが倒されて、人だかりから歓声が上がった。

俺に拍手が向けられる。


けれど、全く嬉しくない。

男が持っていた中華鍋がボロボロになっていたからだ。

すまいない! 魂をすまない!


俺はその場から走り去った。

他に手立てはなかったんだ!


人だかりから出て、トーワ最旨中華屋の前についたとき、何かがついて来ているのに気が付いた。

ダークだった。

そうか、こいつも仲間になりたいのか。

頷いて手を差し出すと、俺の手の痣へと急いで入っていった。


これでダークは4体目の吸収である。

店の扉を開いて中へと戻った。


「ただいま。金髪さん抜け出してごめん。すぐに仕事に戻るよ」

「客来てないしいいよ。ダークと戦ってきたんだからちょっと休みなよ」

「いえ、いいんです」

「なんか落ち込んでる? 」

「ちょっと、うまくいかなくて」

「ああ、ダークね。まあそんなもんだよ。相性もあるしさ。あいつらあれで結構強いから。駆け付けただけ偉いって」

「そうですかね……」

「そうだよ。こんな休みの日なんてみんな見て見ぬふりだもん。気にしないで元気出していこう。次があるさ」

うん、と頷いた。

金髪さんは見た目と違って案外優しい人のようだ。


もっと強くなりたい。

もっといろんな魔法を使いたい。

中華鍋を犠牲にしないほどに!


とりあえず、今は中華鍋を振ろう!

バイト中だからね。


午後の部も金髪さんと二人で忙しさを凌いで、無事閉店までたどり着くことができた。

あの警察官もちゃんと来て、エビチリを頼んでいってくれた。

二人とも立っているのがキツイくらいへとへとになっていた。

急がしくないって言ったの誰だ!


「あー、だめだ。本当に疲れた。もう一歩も動けない」

「金髪さんは休んでてください。清掃は俺がしますから」

「真面目だねー。あんたの方が疲れてると思うけど」

金髪さんが限界みたいなので、俺が手を動かして清掃に入った。

明日も学園がある。

急がないと明日に響いてしまう。


「もうこのバイト絶対やめよう。絶対やめる」

「やめないで下さいよ。金髪さんいないと俺一人じゃ無理ですよ」

「えー、じゃあもうちょっとやろうかな」

「もうちょっとやって下さい」

清掃がある程度進み、疲れの中に少し空腹を感じていた。


「そうだ、賄い何にします? 」

「んー、水餃子どう? あっさりしてるし、あんたも食べられるかも」

金髪さんはやっぱり優しさの溢れる人だな。

小さなところに気遣いを感じられる。俺もそのアイデアに同意した。


レシピにもあったので、水餃子を作っていく。

焼き餃子より油分が少なくて食べやすそうだ。


準備ができたので、二人の皿に盛っていく。

席に座って二人で食べてみた。


「どうよ」

パクリと食べる。

うん、美味しい。

結構アッサリかも。

「お酢だけつけても美味しいよ」

つけてみる。

パクリ。

うん、美味しいわ。

「いけますね。数はキツイけど、美味しい! 」

「そうだろう、そうだろう」

「食べ終わったら店閉めますか」

「そうだな」

「来週もまたお願いしますね」

「ほいほーい」


その後重たい体に鞭打って店を綺麗にして、金髪さんの施錠を見届けた。

「じゃあなー」

「金髪さん、たむろせずにちゃんと真っ直ぐ返ってくださいよ」

「不良じゃねーよ! 」

店の前で別れて、俺は寮へと急いで戻っていった。


帰り道、スマホでスキルボードを確認する。

”料理スキル”

ランクB

成長度005。


一日でこれだけ伸びたか。

20回でランクAに上がってしまうぞ!

春鷹の器用さにも驚きだが、仕事量多すぎでしょ!!









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