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23話 スカイフットボールメンバー

教室内に宇佐ミミさんというオアシスを得た俺は、未だしばらくこの学園という名の砂漠で戦えそうだ。

「はい、答えます」

「では水琴君、答えてください」

今日も授業中、誰も発言したがらない場面で俺は挙手し、授業がスムーズにいくように手助けする。

せっせと真面目ロールをこなしているなと自分に満足である。

先生方も助かったと視線を向けてくることがある。

継続していけばクラス内でも徐々に俺の評価が変わってくるかもしれない。


あれ? 水琴春鷹ってクズッていう話だったけど、真面目で良い生徒じゃん。

てな感じで!


まあ好感度の上昇はそれほど急務ではない。

なぜならば、俺には居場所ができつつあるからだ。

授業が終わったら、今日も絶対に彫刻クラブに通おうと思う。

猫ちゃんと熊くん、宇佐ミミさんがいるあの静寂な空間が待ち遠しい。


そんな期待をしていた俺だったが、授業が全て終わると、1組に一人の女子生徒が姿を見せた。

教室をキョロキョロ探っているその人は、早瀬あやだった。


「春鷹! 」

俺を見つけるや否や、駆け寄ってくる。

早瀬あやは一般的にいって、かなりの美少女になる。

ゲームのメインキャラが不細工ということはそうそうなく、早瀬あやもその例に漏れない。


彼女が急によそのクラスにずしずしとやってきたため、男子数人が色めき立ち視線を向けてくることも無理はない。

やたらと視線を集めていることにも気が付かず、綾瀬は嬉しそうに話し始めた。


「メンバー集まったよー。私たちのチームカフェルオンのメンバーがね」

カフェルオンとは先日あやが作ったスカイフットボールチームの名前である。

ゲーム内においては主人公が入るチーム名でもあり、主人公との接触を避けたい俺にとってそこらへんは少し怖いところである。

しかし、早瀬あやと仲良くなれるチャンスに加えて、彼女とチームメイトになればスカイフットボールで活躍できるチャンスも増えることから俺はチーム加入を決めていた。

能力は惜しいが、最悪主人公の加入は阻止すればいい。


俺がスカイフットボールで活躍できれば、父の冬之介が喜んでくれるばかりか、甘やかしっぱなしの田辺らへんも大変喜んでくれることだろう。

迷惑ばかりかけてきた身としては少しでも喜びを返してやりたいのだ。


「ほら着いてきて」

あやに手を引っ張られて廊下まで連れ出された。

そこに待つ屈強な体格を持つ男子が三人。


「はい、右からマーク、マーティン、マーチスね」

「はい? 」

「カフェルオンのメンバーよ。全員同じ一年生だから、皆気さくに行こう! 」

「「「Yaeh!! 」」」

三人が声を揃えて、それぞれの筋肉のストロングポイントを見せてくる。

ああ、ダメだ。

このノリはついていけない。

異国の人とか、そういう問題じゃない。根本的に違う人間たちだ。


「みんな凄いフィジカルなんだよ。スカイフットボールも経験者だし、私の志を話したらみんな喜んで加入してくれた」

早瀬あやのコミュニケーション能力は凄いと思っていたが、コミュ障の俺の心を簡単に開くどころか、国の壁も軽々と飛び越えてしまうのか。

その能力は本当に素晴らしい。少し分けて頂けれないだろうか。


「志ってなんだ? 」

「もちろんカフェルオンを世界最強のチームにすることよ。ね、みんな! 」

「「「Yaeh!! 」」」

志は凄く共感できるけど、やっぱり何か溝を感じるな……。

「ほら、春鷹も言っても見てよ。気分が高まってくるよ」

言ってみてよって、まさかそれを!?

どうやらそうらしい。

「じゃあ行くよ。みんな、目標は世界一だよね? 」

うそ、もう来るの!?

言うの、言っちゃうの!?


「「「「Yaeh!! 」」」」

言っちゃいました……。

恥ずかしい。もうお嫁に行けない。

でも不思議と心の溝が少し埋まった気がするのは、勘違いだろうか。


マークが肩を組んできたので、気のせいじゃいないっぽい。


「あれ? でもメンバーあと2人足りないよな? 」

「ああ、もう一人いるよ。影薄君がね。影薄君どこいったかな? 影薄いんだー、影薄君。でも乗り気だったから練習にはちゃんと来ると思うよ」

……あやの後ろで挙手している髪の長い人がそうなんじゃないだろうか。

あれ? 見えてるの俺だけ?

マークも、マーティンも、マーチスも気づいていないけど。

幽霊じゃないよね? 影薄君だよね!? 


「ゴールキーパーは? 」

スカイフットボールはフィールドプレイヤー6人、ゴールキーパー一人の、一チーム7人制のスポーツである。

一人足りない。

「ああ、ゴールキーパーは後でいいよ。とりあえずフィールドプレイヤーで練習ね」

ゴールキーパーへの軽視!

ゲーム内じゃゴールキーパー超重要だったよ!

札束で有力プレイヤーの頬を叩き合う、醜い場外乱闘が起こるほどに。

それが極まったら、リアル戦闘にまで発展するくらいだったんだぞ。


とは言え、俺が文句を言う権利はみじんもない。

あやが頑張ってメンバーを集めていた頃、俺はクラスで浮いていただけなのだから。


「じゃあ行くよー、みんな」

「「「Yaeh!! 」」」

ちょっと待って! 言い忘れた!


こうして、あやが率いる我がチームカフェルオンの練習始動となった。

何か忘れている気がしないでもない。

なんだろう。


「み、水琴君! 」

名前を呼ばれたので、振り向くとそこには宇佐ミミさんがいた。

「なに? 」

すぐさまあやが俺に代わって要件を聞いた。

「水琴君は彫刻クラブの、メンバーで、その、今日も部室に来ないかなーって……」

宇佐ミミさんは勇気を振り絞って、頑張って言葉をひねり出す。

少しうつむきながらでも声をしっかり出していた。頑張っている様子がうかがえる。

忘れていたのはこれだ!


「あー、ダメダメ。春鷹は私たちカフェルオンのメンバーだからね。今から練習だから連れていくよー」

えっ!?

そんな強引な! あやのみせる態度には取り付く島もない。

せめて俺に説明と謝罪をさせてくれ。


「で、でも! 水琴君は昨日楽しそうに彫刻してました! 指をギュリっとしちゃったけど! 」

「指をギュリっとやっちゃうようなクラブにうちの大事な春鷹を置けないよ」

ギュリって公用語なの? 知らなかったの俺だけなの?


「で、でも! 」

「春鷹はスカイフットボールの方が好きだからねー。こればっかりは仕方ないよね。じゃあさ、火曜日だけ貸してあげるね」

「そ、そんなっ!? せめて、木曜日も! 」

「うーん、ダメね。じゃあ春鷹、行くよー」

俺は襟元を引っ張られてあやに強制連行されていった。

後ろ向きに引きづられる俺は、置いて行かれる宇佐ミミさんの顔がしっかりと見える。


頑張ってコミュニケーション能力オバケのあやと戦った宇佐ミミさんが目を潤ませながら俺たちを見送っていた。

すまぬ! 

せっかく俺のオアシスになってくれたのに!

本当にすまぬ!

火曜日は、火曜日は絶対に行くからー!

絶対に熊の木彫りを彫って見せるからー!!


引っ張られて行く道中、あやは嬉しそうに我がチーム、カフェルオンの構想を話してくた。

我がチームのフォーメンションは、一般的な2、3、1で行くことになったらしい。


2、3、1はそれぞれのポジションに割く人数である。


まずは2、ディフェンスの後方ポジションにマーティンとマーチスを置く。

冷静でフィジカル能力の高い二人向きのポジションとのこと。


そして3、中盤でゲームを作ったり、守備や攻撃にも参加するミッドフィルダー。

その左に俺、真ん中にマーク。右に影薄君。

真ん中にはフィジカルに優れて、能力値のバランスがいいマークが入る。

視野の広い彼には向いているポジションらしい。


ちなみに、ゲーム内で春鷹がここしかやらないと駄々をこねるポジションだ。

理由はセンターだから。中心だから。一番目立つからだ。

それと正確な情報か怪しいが、春鷹の父冬之介が歴代最高のセンタープレイヤーと言われている。

そこに憧れてセンターに固執した可能性もある。


センターポジションには主人公の文月大夜を置くプレイヤーが多いし、何よりここのポジションには高いフィジカルが求められる。ていうか、サイド以外は全部フィジカル重視である。

それにセンターは能力のバランスの良さも求められる。

尖がった能力値の春鷹は論外もいいところである。


そんなポジションにフィジカル能力値カスの春鷹が入れば、当然ボールの競り合いに負けてとことんボールを失ってしまう。

春鷹の高いテクニックも、シュート能力も発揮される前に、フィジカル面で潰されてしまうのだ。

惜しい、非常に惜しい。サイドプレイヤーになってさえいれば、エースにもなれた男だったのに。


しかし、あやの采配はどうだろう。

俺をきちんとサイドに配置した。


彼女はゲーム内でもスタープレイヤーだったが、現実でもスカイフットボールの知識に優れる人のようだ。

バトルパーティーから外れることはあっても、スカイフットボールのメンバーから早瀬あやを外す人はいないと言われるくらいの能力値を持った人だからな。


サイドは俺と影薄君。

おそらく二人ともフィジカルカスッカスで、シュート能力か、パス能力に優れている。


そして最後の1、フォワードとして前線で相手の脅威となり続けるポジションに早瀬あやが入る。

フィジカル、シュート能力が求められる攻撃的ポジション。


スタイルの良い早瀬からは想像しづらいが、彼女はゴリゴリのフィジカル能力で男子にも競り合いで負けない。

間違いなくセンターフォワードには彼女を置くのが最適である。


これがあやの嬉しそうに語った内容だ。

スカイフットボールが好きで、構想を練ることも好きな俺もその話を聞いて想像を膨らませる。


うん、あやが言う通り確かに強そうだ。

三人の外国人プレイヤーのフィジカルはそうそう競り合いに負けないだろうし、しっかり守ってくれさえすれば、超攻撃特化の俺と、スカイフットボールの化身早瀬あやが点を取ればいい。

影薄君は、知らん。

影薄いからこっそりボールを取ってくれるかもしれない。


宇佐ミミさんたちの彫刻クラブに申し訳なさを感じながらも、俺は次第にスカイフットボール熱を高めつつあった。

そして、そんないい波長が更に驚きの男を見つけるきっかけとなった。


「あや、待って! 」

「ん? どうしたの? 」

俺を引っ張る足を止めて、あやが確認してきた。

「守くんがいた! 守くんが! 」

「だれよ、守って」

「ゴールキーパーだよ。俺が誘ってくる。あやたちは先に行ってて」


俺は駆け出した。守くんのもとに。

彼はそう、間違いなく守くんだ。


ゲーム本編には出てこない。

しかし、ファンキャンの中ではかなり有名な人物だ。


スカイフットボールの最高ゴールキーパー。

初期能力が高く、成長率も素晴らしい。あの守くんだ。


間違えるはずもない。

ゲーム内で彼をめぐって、札束で頬を殴り合ったこと数十回。

結局話がもつれて、守くんをめぐってリアル戦闘になること数十回。

しかし、最終的に敵チームに入る決断をして、我がチームにとことん立ちはだかるあの守くんだ!






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