2話 残念さ
恵まれた家庭、恵まれた容姿、更には恵まれた能力値を持ちながら、なぜ俺が桜の様に散り行くことを願ったか語りたいと思う。
この世界には魔法があり、ゲームの開始時高校入学の15歳の時、魔法学園で主人公と俺こと水琴春鷹は出会ってしまう。
その時高校一年生にして身長180cmあり、名門の家の出身ということもあり主人公も俺に一目置くのだが、残念ながらそれは無駄な期待に終わる。
戦闘イベントでボスっぽく長い演出と長い会話で散々期待させた挙句、2ターンでやられるというボスっぽいキャラ史上最速で死ぬ男、それが俺だ。
小学校時よりエリート教育を受け、生まれ持ったものも一流。なのになぜ水琴春鷹が2ターンで死ぬことになったかは、その能力値を見るとわかる。
今現在の、ではあるが俺の能力値を開示しよう。どうせこの割合のまま成長して本編を迎えるのだ。能力値に成長はあっても言いたいことは伝えられるだろう。
スマホ端末に表示される俺の能力。
最新技術で、スマホの中に埋め込まれたセンサーが人体組織を一番奥に秘められた魔力核という細部まで読み取るという設定だったはず。ゲームの中では当たり前の機能だったが、こうしてちゃんと動いているところを見るとちょっとだけ感激する。水琴家の経営する会社がつくった能力解析アプリだ。水琴家自体はこの世界で凄く活躍している素晴らしい一族である。
水琴春鷹 12歳 男
身長163cm 体重49kg
HP 323 ■■■
MP 967 ■■■■■■■■■■
物理攻撃 021 ■■
物理耐久 017 ■
攻撃魔法値 357 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
支援魔法値 012 ■
魔法耐久値 101 ■■■■■
妨害魔法耐久 214 ■■■■■■■■■■■
素早さ 256 ■■■■■■■■■■■■■
器用さ 311 ■■■■■■■■■■■■■■■■■
ラック 045 ■■■
分かっていただけただろうか。
この能力値の素晴らしさを。
ゲームをやり慣れている方ならすぐさまわかることだろう。
このキャラは高い攻撃魔法値と素早さを活かして、MPをガンガン消費しながら高威力魔法を連射して相手を殲滅していくキャラなのだと。
チームの攻撃の要であり、花形だ。
容姿がキモくても、セリフがうざくても、間違いなく重宝されるキャラである。
水琴春鷹は敵キャラなのだが、ファンキャンが売れすぎたため、有料拡張パッチが売られることになり、あの敵キャラが仲間に!! という宣伝のもと売りに出されたのだが、プレイヤー数500万人もいて水琴春鷹要の拡張パッチを購入した人はたったの134人だったらしい。ちなみに俺も買ったその一人である。1500円も払った。
他の敵キャラたちはほとんどが万単位の売り上げを記録したというのに……。しかもほかのキャラたちはなぜか1000円という設定だった。ほんと謎である。
驚くことに、水琴春鷹の攻撃魔法値は作中最高値を記録している。
あらゆるボスや主人公の仲間たちを抑えての堂々一位だ。
素早さもかなり上位にランクインする。
戦闘面ではほとんど関係のない器用さも実は作中でトップクラスを誇っている。きちんと育成すれば器用さも最終的には一番高くなる男だ。
更に驚くべきことは、水琴春鷹の作中レベルが最高でも45までしか上がっていなかったことである。
ゲームの終盤、レベル45の状態で新しい魔法を覚えたと高らかに笑い、主人公に戦いを挑み、いつものごとく2ターンで50回目の敗北を期した次の日、春鷹は階段から落ちて死ぬのだ。
雑な切られ方だろう?
それが俺、水琴春鷹の境遇なのだ。
ちなみに主人公のレベルをマックスの100まで上げても、レベル45の水琴春鷹の攻撃魔法値の半分にも達しない。
主人公の仲間で、攻撃魔法値が一番育つヒロインでさえ、レベル100の時に僅差ではあるがレベル45の水琴春鷹の攻撃魔法値に負けているのだ。
それほどまでに攻撃魔法値がぶっ壊れ数値を記録しているのに、なぜ春鷹がカス程度の強さしか持っていなかったかを解説しよう。
中学の入学と同時に、この世界では魔法のタイプを決めるのだ。
大きく分けて、5つのタイプ。
物理強化魔法で、物理面を強化して戦闘を行うタイプ。
攻撃魔法で相手を殲滅するタイプ。
支援魔法で味方を支えるタイプ。
魔法耐久で守りを固めて粘り強く戦うタイプ。
妨害魔法で相手を弱らせながら闘うタイプ。
パーティーを組むうえではこの5つのタイプをバランスよく組み合わせて戦う必要があるのだが、個人で戦う場合は圧倒的に物理強化魔法タイプと、攻撃魔法タイプが強い。
春鷹は物理面がカスなので、物理強化魔法タイプは関係のない話である。
しかし、攻撃魔法タイプとの親和性が非常に高い。
性格も唯我独尊な春鷹なのだから、当然そこをチョイスするべきなのだが、なぜか彼は魔法耐久タイプを選択している。
馬鹿ですか、と言いたい。
確かに春鷹の魔法耐久値は悪くない数値を誇っている。
ただし、悪くないのであって、良くはない。
それに魔法耐久を高めて戦うには、間違いなく仲間のサポートが必要である。
それなのに、春鷹はいつも一人で主人公たちに喧嘩を売りに行くのだ。
悪役が基本つるんでいるのに、春鷹はいつも一人で戦いを挑みに行く。その様は一種の潔さはあるのだが、なんで一人なんだと皆に突っ込まれていた。
金も権力もあるのに、周りに取り巻きをいくら連れていてもおかしくないのに、基本一人行動が好きな男、この場合非常に残念と言わざるを得ない春鷹である。
本来なら高すぎる攻撃魔法値を活かして、戦闘開始と同時にボス特権で主人公パーティーに高威力魔法の先制攻撃を行える立場にあるのに、この残念過ぎる選択でそれらは一切なくなった。
春鷹の理想像を言えば、主人公パーティーの立ち上がりと同時に高威力魔法叩き込む。魔法耐久値の低い者はいきなり戦闘不能状態からのスタートとという高難易度の華々しいボスになり得た。
そして金と権力を使って湧き出てくる取り巻きという名の肉壁たち。彼らはただガードしていればいい。可能なら妨害魔法や支援魔法を入れてくれてもいい。しかし、そんなことをせずとも肉壁にさえなっていれば春鷹のえげつない攻撃魔法値が火を噴くのだ。そうしていれば、どれほど良かったものを。どれほど魅力的な敵役になれたのだろう。
しかし、春鷹は最初の地雷を踏むことでその道を外れてしまったのだ。
実際の春鷹の戦闘をお見せしよう。
春鷹は長く派手な演出とセリフで如何にも強敵ボスとして姿を現す。
しかも悪いことに50分くらいの強制イベント後に、セーブもできずに春鷹とのボス戦が始まってしまう。
多くのプレイヤーたちが手に汗を握ったことだろう。いかにも強そうなこの男に負けてしまえば、50分の積み重ねが無駄になってしまうのだ。やり直すにしても、また50分のリスクを負わなければならない。
そんな絶対に負けられない戦いが最初の春鷹戦である。
悪いことはまだ続き、春鷹は戦闘開始と同時に、システムを超越した先制攻撃を仕掛けてくる。
システムが決めたものなので、主人公パーティーはなすすべなくその先制攻撃を受けなればならないのだが、春鷹はそこで自分の魔法耐久値を4倍にする魔法を使用する。
……まあ、他に選択肢はありそうなものだが、妨害魔法系とかね。でも魔法耐久値が低くて弱点をカバーするためとかなら理解できる。しかし、ステータスを見て貰えばわかるのだが、春鷹の魔法耐久値は別に低くない。与えられた先制のチャンスでカバーする必要は絶対にない。
それよりも、間違いなく物理耐久を補うべきなのだ。
魔法耐久値が4倍に跳ね上がった相手に魔法を撃つ選択はないだろう。とりあえず様子見で物理攻撃を加えてみるというのが一般的な思考になるだろう。
それで主人公パーティーの最速メンバーが春鷹を殴るのだが、ぐああああああと激しい雄たけびを上げて春鷹は膝まづいてしまう。
紙耐久だからね。見ての通り。様子見のパンチ一発でひれ伏すのだ。
本当なら1ターンで終わるが、システムに助けられてHPが1だけ残る。そして、システムの恩恵により与えられた2ターン目を、春鷹はようやく攻撃に手を回すのだが、所詮1ターンでできることなど限られている。あえなく、彼はいつも2ターン目で倒されてしまうのだ。
紙耐久なのに、どうして一人で前線に出てしまったのか。
残念過ぎて笑うほかないのが春鷹というキャラなのである。
魔法の分類タイプを5つにしました。
物理強化タイプの追加です。