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19話 二人の会長

学園から指定された高ランカーたちが現場に駆け付けた時、ダークが既に抜けた男が倒れており、側には負傷した俺と田辺。

辺りには炎上した車と、戦闘の巻き添えを食らって窓や壁が損傷したコンビニエンスストアがあった。


一番最初に辿りつたランカーの女性が俺たちのともへと近づいてくる。

スタイルが良く、目鼻立ちのくっきりした派手めな美人さんだった。


「二人とも怪我の具合は? 」

「俺は頬と肩を打っただけです。それより、田辺が背中を強く打って立ち上がれない。至急ヒールを使える者をよこして欲しい」

「いいえ。まずは春鷹様から」

「馬鹿を言うな田辺。お前がヒールを受けなければ、俺も受けないからな」

「ではエクスヒールをお受けてください」

「そんな言葉遊びをしているんじゃない。いいからお前は休め」

俺と田辺のそんなやりとりにあきれたのか、美人のお姉さんはため息をつきながら、どこかへ連絡した。


数分もすると、綺麗なお姉さんの呼んだ救護班がやってきて、駄々をこねる田辺の治療に入った。

「おじさん、動かないでください」

「まずは春鷹様から、うがっ」

口と体を抑え込まれて、田辺は強制的に治療に入らされた。


「では、あなたも」

別の救護班がやってきて、おれも座らされた治療を受けた。

ヒールで頬の傷を塞いでいく。

「綺麗なお顔だから丁寧に直しましょうね」

治療班のお姉さんが優しく声をかけながらヒールを続けた。

身長が高いので普段あまり年下扱いを受けないのだが、なんだか久々に子供扱いされて嬉しい。


じーっとしていると、頬の傷が完全に塞がり痛みもなくなった。

「はい、良く我慢しました」

救護班のお姉さんは頭も撫でてくれた。

この人好き!

子ども扱いしてくれるのでいい人だ。

名前を覚えておこう。鈴峰さんね。


また子ども扱いされたくなったらわざと怪我でもして彼女のもとへ行こう。

肩の治療も終わった頃、最初の派手目のお姉さんが戻って来た。


「治療は終わったようね」

「はい、では私たちは他に負傷者がいないか探してきます」

「よろしくね」

鈴峰先輩はそういって、そそくさとこの場を立ち去った。

仕事に熱心な人である。好感度更に追加。


「じゃあ君に聞きたいことあるから、質問いいかな? 」

派手目のお姉さんがそう言って隣に腰かけてきた。

コンビニ損壊の責任を問われたらダークのせいにしてしまおう。そうしよう。


「まずあなた名前と学年、クラスを聞いてもいいかしら? 」

「はい、中等部、1年1組、水琴春鷹です」

「あら、中等部の子だったの。身長高いから高校生かと思ってたわ。それに、今水琴って」

「はい、おそらく想像通りの水琴です」

あのクズの御曹司がいる水琴家です。

「へえー、あの大財閥の水琴家ねー。そういえば入学式の代表挨拶で見た顔だったわ。もしかしてお友達になってた方がいいのかしら? 」

お友達ですと?

それは聞き捨てならない。ただでさえ、友達に飢えている身だ。

チャンスがあれば拾いに行きますよ!


「中等部なら私の担当ですね。雪美先輩」

「あら、蓮ちゃんじゃない」

ここに闖入者が更に一人。

その相手は俺も良く知る、東条蓮。現在の中等部生徒会長にして、3年後も高校生徒会長をしている生粋の真面目系生徒。

主人公を導き、いつも裏方で優しく守ってあげる真に優しい人だ。

今日もメガネが良くお似合いである。


「担当とかそういうのどうでも良くない~? 一緒に話を聞こうよ」

「そうはいきませんよ、雪美先輩。この状況を見るに、レベル3ダークは彼に討伐されたみたいですね。それも単独で。話を聞いて、使えそうならうまいことスカウトしてランカーに入れようとしているんじゃないですか? 雪美先輩は」

「あらあら、何を言っているのやら、いつもの疑い性がにじみ出ているわよ、蓮ちゃん」

なにやら詳しくわからないが、二人の視線がぶつかり合って火花を散らしていることだけは分かった。


「水琴くん、お姉さんと話したいわよね? 」

派手目のお姉さんがぎゅっと腕を掴んできて、体を摺り寄せてきた。

「はい! 」

俺は即断した。

このお姉さんと話がしたいです!

「ほらー、水琴くんがそう言っているし、ほら蓮ちゃん一緒に聞こうよ」

「先輩、そういうズルはほどほどにしてくださいよ。それと水琴くん、簡単に体を摺り寄せてくる女性にろくな人はいませんよ。一応人生の先輩からの忠告です」

「あ、はい」

この東条蓮生徒会長は、ゲーム内の性格通りだととてもいい人だ。

間違っても嘘をつかないし、誠実味の溢れる人で非常に好感が持てた。

そんな人のする忠告だ、素直に受け入れよう。


「彼の名前は、水琴春鷹君。あの水琴家の御曹司だそうよ」

派手目のお姉さんが説明し、東条先輩がスマホ端末に記録していく。

先ほどから家柄ばかりを褒めているということは、おそらくだが俺のクズエピソードを知らないな。

知らないなら、敢えて言うこともないな。

「クラスは1組、魔法クラスは現場を見るに【炎使い】ね」

「そうでしょうね。水琴くん、一応スマホのステータス画面を見せてください」

東条先輩に言われて、俺は素直にステータス画面を見せた。


「ん……!? 」

東条先輩の声にならない驚きが伝わって来た。

すぐさま派手目のお姉さんも駆け寄り、そのステータス画面を見た。


「魔法クラス、炎使い。レベル3にして、攻撃魔法値1100オーバーですか。異常ですね」

東条先輩のひきつった顔を見て、派手目のお姉さんも少し笑った。

ダークを倒してレベルアップしているようだった。

攻撃魔法値もそれで少し上がったのか。

「こんなの初めて見たわよ、私も。蓮ちゃん、これはもうランカー入れてもいいんじゃない? 」

「ダメですよ。まだ中等部1年ですよ、彼は。それに水琴家の御曹司だって言ったのは先輩じゃないですか、なにかあったらどうするつもりです? 」

「あちゃー。それもそうだ」

また俺の知らないことをペラペラと。混ぜてください。友達になってください。


一つ気になったことがあった。

俺の魔法クラスは【炎使い】ではない。【黒炎使い】である。

ステータス画面を確認した二人が、そろって見間違いをするはずもない。

それに現場を見た時から二人は【炎使い】だと断定していた。

たしかに【黒炎使い】は【炎使い】の延長上にありそうな魔法クラスだけど、少し引っ掛かる部分ではあった。


「このステータス画面を見る限り、疑いようはないけど、ダークは君一人で倒したんだよね」

「はい、そうです」

「レベル3のダーク相手によくその程度の怪我で済んだわね。快挙よ」

「ありがとうございます」

偉い偉いと派手目のお姉さんが頭を撫でてくれた。

今日二人目の優しい人だ。この人も好き!


「レベル3のダークだと思われるけど、倒した時にダークは何体出てきた? 」

「3体です」

そして俺の中に吸い込まれました。もちろん言わないけど。

「じゃあレベル3のダークで確定ね。細かい検証はあるだろうけど、レベル3以上のダーク討伐には報奨が与えられるわ。また後日呼び出すから取りにいらっしゃい」

報奨か。なんだろう。美味しいものとかならいいな。


「水琴くん、魔石はもしかして手の甲に嵌めたの? 」

派手目のお姉さんが手を握って聞いてきた。

「そうです」

主人公をパクりました。

「すごーい。手のような良く使う体の部位って高位魔法使いしか魔石を嵌められないんだよ!? 普通ははじかれちゃうからみんな変なところにつけるのにね」

そうだったんだ。

それで主人公くらいしか手につけていなかったのか。

「手と舌は特に凄いって昔から言うんだから。やっぱり水琴くん有望だよね」

「ランカーには誘わないで下さいよ」

派手目のお姉さんの前に東条先輩が立ちはだかった。

また何やらお互い牽制しあっているが、それよりもびっくりな情報がまた出た。


舌に魔石を嵌めるのも高位魔法使いの特徴なのか……。

てっきり春鷹の馬鹿がやらかしただけだと思ってたから。


「ま、今日のところはいいか。じゃあね、攻撃魔法値1000オーバーの水琴くん! 」

手を振って派手目のお姉さんは消えていった。

残った俺と東条先輩が詳しい状況をさらに詰めていく。

コンビニの件は追及されなかった。

「壊れた建物ってどうするんですか? 」

「この都市内の建物には防御魔法が付与されているから一日も経てば自然と直るわ」

そういうことか。

これ以上春鷹のクラッシャー経歴書に内容を加えたくない俺としては安心する話だ。


「さっきの人、高等部生徒会長の花崎雪美先輩っていうんだけど」

ああ、そうだったのか。

入学挨拶のとき、高等部代表はあまり意識していなかったから忘れてしまっていた。

「あの人絶対にまたあなたに接近してくるわ」

それはありがたい。まだ友達0人の俺としては、ぜひともお友達になって欲しい限りだ

「なにかと上手に言いくるめて、あなたをランカーに入れようとするだろうけど、首を縦に振っちゃダメよ」


ランカーとはこの学園が定めている強い者たちのことだ。

ランカーは10名で構成され、入るためには他のランカーからの推薦が必要となってくる。

ゲーム内じゃ、実績を積んむと東条先輩から推薦がやってくるのだが、今の感じじゃ彼女はランカーにかなり反対のご様子である。

ちなみにランカーになってたら数字を割り当てられるのだが、1を割り当てられた生徒はトーワ魔法学園にて最強と認定された証となる。

ゲーム内でこの1を得るには、およそ数百に及ぶサイドイベントを消化しなければならないいばらの道である。

俺は当然1になるまでそのサイドイベントを消化した男だ。


とは言っても、この世界で1番をとるつもりも、ランカーになるつもりもあまりない。

俺が危惧している理由と、東条先輩が反対しているのもその辺りが理由だろう。

「ランカーの美味しい話をとことんちらつかせるだろうけど、ランカーは上位ダークと戦う義務があるの。つまりいつも危険の最善線に立つことになるのよ。あなたなら高等部になってからでも遅くはない。今はまだ若いのだから、危険な目は回避すべきよ」

やはり危険度の高さから反対していたのか。

まあ俺もそのつもりなので、話を聞き入れた。

「わかりました。そうします」

「素直でよろしい。じゃあ様子を見て、寮に戻るのよ」

「はい」

「後ろの方は知り合いかしら? 」

振り向くと、そこには復活した田辺の姿があった。

「田辺! 元気になったか、良かったな! 」

「はい、無事回復できました」

では、私はこれで、と東条先輩は俺たちの前から姿を消した。


「春鷹様こそ傷は癒えましたか? 良ければ実家から専属の医者を連れてきますが」

「ばっちり完治だよ。広坂の爺さんにはもう少し楽をさせたいから連れて来なくても結構」

「そうですか。春鷹様の先ほどの戦闘、あまりのお強さに感服致しました。これからの更なる成長に期待しております」

「そう思ってもらえてうれしいよ。それより田辺、車潰れたけどどうやって帰るの? 」

「タクシーでも拾って帰ります。それはそうと、春鷹様がゴミ拾いをしていた件は、学園側に盛大に抗議させていただきます」

またその話か。

結局この後田辺を納得させ得ることはできず、田辺は抗議するの一点張りで帰っていったのだった。





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