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17話 魔石到着

清掃二日目。


この清掃のせいで更にクラスメイトからの距離が開いている気がするのだが、それは勘違いであって欲しい。

今でさえ届かないような距離なのだ。

これ以上離れてしまえば、その後に待つのは……。


しかし、どんな理由があろうと清掃をさぼるわけにはいかない。

俺は今日も2時間きっちり働き通す気持ちでいる。


学園都市内はかなり広い。

俺一人の清掃で大きな影響はないのだが、清掃ロボットでは手の届かないような場所に俺の需要がある。

「ピピピーンピッ」

俺の手にするゴミ袋内のごみを検知した清掃ロボットだったが、所有物と判断して側を通り過ぎた。

彼らは全長120㎝、長方形のかたちをしており、角は丸みを帯びている。

二つのセンサーを胴体部分に設置しており、そのセンサーを駆使してゴミを探している。


ゴミを見つけると、胴体下部についた360度方向転換可能なタイヤを動かして側までより、下方に設置された吸収口からゴミを吸い上げるのだ。


タイヤがついているし、細かい手はない。

彼らに自動販売機の裏や下の清掃は不可能だと断言できる。


同じ仕事をしながらでも、俺たちは共存可能という訳だ。

今日と明日もよろしくな、お掃除ロボット。同じ志を持ったもの同士共に頑張ろう。


手があったら握手を交わしていたところだ。

いかんいかん。考え事ばかりをしていて手が止まっていた。


誰が見ていなくともきちんと清掃しなくてはな。

次のターゲットとなる自販機を探していると、近くで車が急ブレーキをかけた音がした。


ここは学園都市内だ。

車が走ってもいいが、生徒中心の街である。

交通面には気をつけて頂きたい。

間違っても荒い運転は許されない。

ここは俺が代表して少し注意してくるか。


「春鷹様!? 」

車の運転席から飛び出してきた男は我が家で秘書を務める田辺だった。

交通事情に迷惑をかけていたのは我が家だったか。これは申し訳ない


「田辺、こんなところで急ブレーキをかけるなんて迷惑じゃないか」

「そんなことより、なぜにゴミ拾いなど!? 」

「ああ、これは教室の花瓶を割ってしまった罰だ。そんなこととはなんだ。俺に与えられた立派な仕事だ」

「おやめください! あなたは水琴家の次期当主なのですよ!? 花瓶など言ってくださればいくらでも弁償いたします! 」

「そういう態度はいかん。花瓶を割ったのなら、弁償は当然として、それとは別に誠意を示す必要がある。この清掃はその誠意なのだ」

「ならば、私がやります。ゴミ袋をこちらへ! 」

「それもいかん。これは俺がやるからこそ意味のある行動だ」

そうは言ったものの、田辺は納得してくれない。


路上でゴミ袋を取り合う俺たち。

はたから見るとどんな感じだったのだろうか。


俺は必死だったからそんなことを考えている余裕はなかった。

「放せ! 田辺! 」

「放しませぬ! 御父上が悲しみますぞ! 」

「これくらいで悲しむような人じゃない。ていうか、何をしに来た田辺! 」

「魔石ですよ。無事入手できましたので、こうして届けにやってきました! ゴミ袋をこちらへ! 」

「相変わらず仕事が早いな。ゴミ袋は渡さん! 魔石だけこちらに! 」

「交換といきましょう。こちらは【黒炎使い】の魔石を! そちらはゴミ袋を! 」

「なにを? 卑怯だぞ。ゴミ袋はやれんと知りながら」

「いいや、渡せるはずです。水琴家の自覚を持っていただければ、すぐに手は緩むはずです! 」

「これは水琴家の問題ではない! 俺の個人の問題だ! 」

俺も田辺も譲らなかった。

秘書業務だけしているかと思っていたが、流石に非力な中学生相手くらいなら押し込めるか。

くそ、このままではゴミ袋を田辺に取られてしまう!


そんな大ピンチを、意外なやつが救ってくれることとなった。

ダーン!! と轟音が鳴り響いたかと思うと、次いで衝撃と物理的な破片がいろいろと飛んできた。

とっさに田辺がかばってくれたが、俺も田辺も少なからずのダメージを受けることになった。


立ち上る煙とサイレンの音。


目の前には、田辺の乗って来た車が見るも無残に潰されいた。

ボンネットの上に立ち、雄たけびを上げるのはダークだった。

吠えるだけでなく、ゴリラの様にドラミングもしている。

どう見ても物理型のダークだ。

それよりもあれは……。


ひとまずゴミ袋の奪い合いどころではなくなった。

俺も田辺も結構な重傷を受けている。

俺は頬を斬ったようで、血が顔からぽたぽたと流れる。車の部品が右肩に当たったのか、そこもひどく痛む。

田辺は背中を強く打ったみたいで、立つのも厳しい状態だった。


ゴミ袋を奪われる大ピンチから脱したかと思いきや、次は命を懸けた本当の大ピンチがやって来たみたいだ。

「立てるか、田辺」

「少し厳しいです。私を囮に置逃げ下さい、春鷹様」

「馬鹿を言うな。そんなことをすれば、それこそ父上が悲しむ」

何より俺がそんなことを許さない。

二人でこの場を切り抜ける。


しかし、田辺は立ち上がれない状態だ。

非力な俺が田辺を担ぎ上げることができるはずもない。


「田辺、魔石をよこせ」

苦悶の声をあげながら、田辺は胸元を探って魔石の入ったケースを取り出す。

ケースがやたらと高級なので、なんだか魔石っぽくない。

この世界じゃ魔石は雑貨ショップで1200円で買えるので、こんな高価な包装をするのは異例だ。


「もしかしてこの魔石高かったのか? 」

「今は……、そんなことを言っている場合では……」

苦しんでいる田辺に余計なことを言わせてしまった。確かに今はそんなことを聞いている場合じゃない。

学割が効いたかどうかも聞くべきじゃないな。


俺は魔石を取り出すと、すぐに魔石を体に埋め込もうとしたのだが、どこに埋めるか決めていないことを思い出した。

目の前のダークはまだ吠えているが、そう長く考えている時間もない。

背に腹は代えられない! ここは舌にはめ込もう!


となるくらい、俺はまだ気の動転はしてない。

右手の甲だ。そこにはめ込む。

とっさに思いついたんじゃない。ファンキャン主人公、文月大夜のパクリだ。

これこそ背に腹は代えられない!

なんならこの世界では俺が先にはめこむ、パクリはお前だ文月大夜!


体に魔力核のある者は、最初の魔石を体に押し込むと自然と吸収してくれる。

俺の右手の甲にも魔石がゆっくりと浸透していって、やがて全てが入り込む。

手には魔石の特徴だった、黒いひし形の痣が残った。


ドクンと辺りに衝撃を生じさせる。

田辺が少し吹き飛ばされて、吠えていたダークのバランスを崩させた。


それと同時に注意がこちらに向く。


一対一か。

相手は相性の悪い物理型。それもおそらく物理攻撃型ダーク。


そして、トーワ魔法学園の方面から鳴り響くサイレン。

これは、レベル3以上ダークが出現した合図だ。


これが鳴り響くと学園側から認定されているトップランカーの生徒たちが現場へと駆け付ける義務が生じる。

つまり目の前のダークはレベル3、ダークが3体以上憑依した敵だということ。


俺の知識から見てもこのダークは3体憑依だと断定できる。

憑依したダークは物理攻撃型2体、物理防御型1体と見た。

憑依された男は筋肉質の大柄な男だ。ダークとの親和性も良し。


魔石をはめ込んだばかりの生徒が相手にするようなレベルではない。

時間が経ちさえすれば、ここにはレベル3以上のダークを相手にできるトップランカーたちも駆け付けてくる。

近くに瞬間移動スポットは見えないが、数はそれなりにあるはずだ。そう遠くでもないだろう。

時間さえ稼げれば……。


しかし、俺にはそんな気は毛頭ない。

こいつめ、やってくれたな。

どこから降ってわいたか知らんが、我が家の車を踏みつぶし、挙句我が家の使用人を傷つけまでした。

この次期当主、水琴春鷹の前で!

しかも俺が拾い集めたゴミ袋までどこかへ行ってしまったじゃないか!

俺の同志であるお掃除ロボットたちの仕事まで増やしやがって。

万死に値する!


「かかってこい、ダーク。田辺の弔い合戦だ! 」

「春鷹様……、この田辺、まだ生きております……」



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