11話 入学式
ダークと戦った日から、無事何事もなく入学を迎えることができた。
周りは新しい制服に身を包んだ同級生たちがいる。
今日はいよいよ入学式である。
皆緊張していた。俺はあやと知り合いなので、不安な気持ちが周りに比べて少しだけ薄かった。
先日急遽知らされたのだが、入学生徒の代表挨拶は俺がやるらしい。
成績の良さと家柄の良さを考慮しての選出とのことだった。
だが、まだコミュ障卒業1年生の俺にはあまりにも高いハードル。
しかし、俺はこの学園で真面目にキャンパスライフを送ることを誓っている。
学園側からの依頼を断るのはその理念に反するのではないかね!
コミュ障卒業1年生でありながら、俺は果敢にも依頼されたあいさつを受け入れた。
多くの保護者に見守られながら、俺たちは入学式が行われる会場へと入る。
中学生が先で、その後に新高校生が入る。
まずは教師側からの挨拶があり、次に高校生徒会長が歓迎のあいさつを述べた。
歳が離れすぎているし、ゲームに登場しない彼らはほとんど知らない。
しかし、中学生徒会長の歓迎挨拶となると話が変わってくる。
礼儀正しい所作で壇上へと上がり、歓迎のあいさつを述べていく人物。
ゲーム内で最初にチュートリアル役的な役割で主人公を導く人だ。
東条蓮。
この人は中学時代も生徒会長だったのか。如何にもって感じの真面目会長だったけど、イメージに違わない人で安心した。
そして続くは新入生側の挨拶。
高校代表の挨拶が終えられて、次に呼ばれたのが俺である。
「水琴春鷹くん、お願いします」
「はい」
壇上へと上がっていく。
やたら視線が集まるのは当然として、なにやらどよめきと同時にざわざわと話声が聞こえだしたのはどういうことだろうか。
水琴家のクズ長男のクズエピソードでもしているのだろうか?
水琴家も春鷹も有名だからな。
事実なので仕方ないが、それは後にしていただきたい!
後で謝罪に行きますので!
「水琴春鷹、中学生代表としてあいさつさせていただきます。まず、我々のためにこのような盛大な式を催してくださり誠に感謝しております。皆を代表してお礼を述べさせ貰います。ありがとうございます! そして次に、皆様が一番気になっていることをお話ししたいと思います。なぜ悪い噂しか聞かない水琴家の長男が代表挨拶を行なっているのか……。おそらく金やコネの力だと思っている方が多いでしょう」
感謝を述べた後、俺のいきなりの核心をつく話に、会場がシーンと静まった。
ここには水琴家の当主である俺の父や母も来ている。仕事で水琴家とかかわりを持つ者には、なんてことを言っているんだと肝を冷やしている人もいるだろう。
父に恥をかかせないようにすぐさますり寄っている人物もいることが容易に想像できる。
間髪与えず、俺は続きを話した。
「その通りです! 私は親の金とコネで、この場で代表挨拶する権利を勝ち取りました。どのくらいの金額を支払ったか気になる方は、保護者席にいる我が父、水琴冬之介にお聞きください! 今日は縁日なのできっと教えてくれるはずです」
どっと会場が笑いに包まれた。
ここまでの開き直りを見せれば、意外と負の感情が解き放たれて、笑いにつながるだろうという予想が当たった。
コミュ障脱出1年生には厳しいミッションだったが、会場が暗くて人の顔が見えないのが功を奏して無事言い切ることができた。
しっかりと会場を味方に掴めたので、その後はテンプレート通りの挨拶をこなして、最後に美しい所作で一礼をして中学生代表の挨拶を終えた。
会場から今日一番の拍手が飛んでくる。
非常に満足のいく出来だった。
こんなことで春鷹が犯してきた罪はなくならないだろうが、少しばかりは印象を良くできたのではないかと思う。
壇上から降りて席に戻る途中、グーと親指を立てて笑っているあやの姿が見えた。
うん、いい出来だったみたいだ。
こうして俺たちの入学式は終わった。
校長の挨拶後、生徒には保護者と接する機会が与えられる。
長い寮生活になる。地方に実家があるものは別れが惜しいだろう。
俺もせっかくなので父と母のもとへと向かった。
凛々しい立ち姿の父、冬之介。
優しい笑顔を携えた俺と同じ線の細い母、小春。
俺を優しく抱きしめてくれるような家族ではない。
しかし、二人の目元はどこか満足気だった。
「春鷹。つまらん男に成長したと思っていたが、今日のは悪くなかった。最近のお前はどこか違うと田辺からも聞いている。次に会える時に、また面白い姿を見られると期待してる」
「はい」
「ちなみにだが、今日の代表挨拶の為に払った金は、我が家の持ち株半分くらいだ」
思わずくすりと笑ってしまった。
冗談のわかる父親で良かった。
父冬之介はそれだけ言うと、側にいた田辺を連れて会場を出ていった。
母は父が去った後、俺の側によって頭をなでてくれた。
「ご飯はちゃんと食べるんですよ」
「はい、わかっています母上」
「チーズバーガーはほどほどにね。お父さん見たいな和食が一番よ」
「最近身に沁みて感じております」
「そう、それは良かった。それと、春鷹の代表挨拶にお父さんは1円も払っていないわ。もう失礼しちゃうわ」
「あはははは」
思わず乾いた笑いが出た。
母に冗談を述べるのはなるべくやめておこう。
「じゃあね、春鷹。元気にするのよ」
「ええ、母上こそお体に気をつけて」
母も使用人と共に会場を出ていった。
周りでも同じような光景があり、暇になった俺は教室へと戻ることにした。
いよいよ、明日は大事な魔法タイプを決める日だ。