10話 ダークとの戦闘
俺とあやが車から降りたため、ダークは注意をこちらに向けてきた。
ダークの目的は生身の人間だ。
ファミリーカーにこもるか弱い家族よりも、外に出た中学生二人の方が与しやすいと判断されたのだろう。
ダークはトーワ魔法学園都市以外でも当然出現する。
そういった場合、日本全国に配置されている魔法省所属の戦闘員が殲滅していくことになる。
しかしトーワ魔法学園都市は魔法省の管轄外となっており、ダークの処理は生徒に任せられることになる。
目の前のダークを見て、俺は雑魚だと判断した。
ダークは本体の強さと、乗り移った人間の能力によってその力具合が決まる。
今回の場合、ダークも小さく、サラリーマンも魔力無しの一般人だ。おおよそ大きな被害につながる危険性はない。
しかし、それは魔法を使える身だから楽観できることである。
魔力無しにとってダークは仕留める方法のない災厄である。
こんな雑魚でも恐怖の対象にはなり得る。
そして、魔力は持っている俺とあやがだ、魔法をまだ習得していないので雑魚だと楽観視してもいられない。
仕留める手立てはあるのだが、あまり乗り気しないな。
「春鷹、魔力の操作は一通りできるよね」
「トーワ魔法学園に入学を決めている身だ。当然だろう」
俺もあやもまだ魔法は使えないが、その体には魔力を宿しており、それを操作することで一般人を超越した能力を発動することができる。
それでも魔法には遠く及ばない強さではあるが、雑魚一体にならどうにかなるんじゃないかと思われる。
魔力を四肢に集めたあやはその身体能力が向上したことを確かめてその場でジャンプをして体の調整を図っていた。
俺が彼女と同じことをしても、もとの運動能力がカスなので大して役には立てないだろう。だから真似はしない。
俺は魔力を体全体を包むように広げた。
「あや、俺が攻撃を引き付ける。その間になにか攻撃を頼む」
「大丈夫なの? 」
「ああ、たぶんな」
俺は一歩前に歩き出す。
当然ダークの注意は近づいた俺に注がれる。
防御力カスの俺が前に出ていいわけないのだが、このダークとは相性が良さそうだ。
俺がもう何歩か歩み寄ると、ダークは戦闘態勢に入る。
黒い煙を拭きだす口を大きく開けて、そこから黒い球体を俺めがけて噴き出した。
ちょうど野球ボールサイズのそれを、顔への直撃寸前にまっすぐ伸ばした片手で受け止めた。
「春鷹!? 」
どこからかあやの驚いた声が聞こえてきたが、問題はない。
俺の魔法耐久値は悪くない数値を誇っている。雑魚が放つダークボール一つくらいなら、魔法が使えなくてもこの通り受け止めることができるのだ。
そう、このダークがとりついたサラリーマンは物理型ではない。
ファミリーカーにしがみついたときからそうだと感じていた。
物理型のダークは車を壊してでも生身の人間を襲おうとする。けれど、このダークはファミリーカーにしがみついて開ける方法を模索していた。
魔法型のダークという俺の予想は当たった。
後は、攻撃魔法タイプなのか、それとも妨害、支援、耐久なのか。そこはどうでも良かった。
この程度の雑魚が、俺の魔法耐久を突破できるとは思えなかったからだ。
悪いな、これでもゲーム本編じゃ魔法耐久タイプを選択していた男だぞ。
物理型以外で俺に勝てると思うな!
そして、魔法型と相性のいい人が、ダークの後ろに回り込んでいる。
気が付いたときにはもう時すでに遅し。
魔力を全て右足に移動させたあやが、その高い身体能力と魔力を持ってしてダークの頭部へとハイキックを叩き込んだ。
「ぐおおおおおお」
ダークを纏ったサラリーマンの体が、蹴られた位置から10メートル吹き飛び、反対車線で体を地面にぶつけて勢いを止めていた。
かわいそうに……。
ゲーム内の俺もあんな感じでやられていたよな……。
魔法を使った戦闘以外だと、このように憑依されたサラリーマンの体にも結構なダメージが行く。
魔法なら無傷と言う訳ではないけど、魔力だけの攻撃の方が明らかに痛そうだ。
ゲーム内でも一度イベントであるんだよ。
主人公が敵の罠にはまって、毒を飲まされて一週間魔法を使えなくなる時が。
その時、展開的に当然ダークに襲われるのだが、主人公は魔力のみで戦うことになる。
物理型ダークとの殴り合いの死闘だ。
無事勝つんだけど、勝った主人公も、負けたダークの憑依体もそれはそれはボコボコに顔を腫らしていた。
見ていて痛々しいことこの上ない。
だから乗り気がしなかったんだよなー。
けど、ダークが乗り移る人間って言うのは良からぬことを考えている人間らしいから、今回は自業自得ってことで納得してくれ。
反対車線まで吹き飛んだダークをそのまま放置という訳にはいかない。
一般人が近づくわけにもいかないので、俺がその傍まで歩み寄った。
驚いたことに、倒れたサラリーマンの体にはまだダークがとりついていた。
雑魚のくせになかなか根性あるな。
しかも俺が近づくと、最後の気力を振り絞って立ち上がろうとする。
俺と同じ魔法型で、サラリーマンの体も俺と同じひょろガリだ。
うむ、なぞの同情を覚えてしまうな。
良くあやの、あの強烈なキックを受けきったと褒めてやりたいが、言葉も通じないしそうもいかないだろう。
俺たち物理耐久カス組はな、2ターンで幕引きとこの世界では決まっている。
「次は盾役の仲間と共に来い」
魔力を拳に集めて、とどめのパンチをくれてやった。
倒れ込んだサラリーマンの体からダークが漏れ出し、空中で黒い塊が分解されてその存在を消した。
ダーク討伐完了である。
俺の物理攻撃なんてカスみたいなものだが、相手の物理耐久もカスだったな。
なによりあやの攻撃の後じゃ、耐えられるわけもないか。
スマホを取り出して、ステータスを確認する。
魔法を覚えるまでレベルはないので、特に経験値的には役に立たなかったようだ。
減っているHPは1だけ。
魔法攻撃ならこんなものか。
これくらいなら1,2分放っておけば回復する量だ。
やはり魔法攻撃でこの俺は倒せないな!
物理攻撃は……知らん!
その後警察の方が来て、サラリーマンを保護していった。
車に戻り、俺とあやはまた学園へと向かうことに。
今度はダークも現れることなく、俺たちは無事に寮へとただり着けた。