表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バレンタイン

作者: らいず

 この世には、記念日がある。

 節分、ひな祭り、クリスマス…他にも色々あるけれど、皆で同じ日に、好きな人や、大切な人と、幸せな時間を過ごす。

 でも、そういう記念日とは別に、人によって日付が違う物があるよね。




 ぼくは、きねん日があまり好きじゃない。特にバレンタインデーは、もやもやした気もちになる。

 そんな今日は、2月14日。バレンダインデーだ。

「はいどうぞ。今年もれん君は特別に、良いチョコレートにしたからね。味わって食べて」

「…ありがとう。おばさん」

 ぼくはお礼を言って、親せきのおばさんからチョコを受け取る。よく分からないけど、とても高い物らしい。

 でも、ぼくは別にうれしくない。

 特別にって言うけれど、ぼくは普通の子どもだし、だがしの5円チョコだって、十分おいしいと思う。

 それに、実は特別なわけでも無い。

「今日でいくつになったんだっけ? 9歳? 大きくなったわねー」

 ぼくは、にっこりと笑顔で、おばさんとお話をする。

 そう。今日は、ぼくのたん生日でもある。

 他の親せきの子よりも、良い物をもらっていると言っても、それはきねん日2つ分だからだ。

 お父さんやお母さんは、たん生日プレゼントと、チョコレートを両方くれるけど、ときどき会う親せきの人達からは、よく、すごいらしいチョコをもらう。

 いとこの子たちは、今日チョコをもらって、たん生日には、プレゼントをもらってる。

 ぼくは、それがとってもうらやましかった。

 みんなだけ、ぼくより色々もらえて、いいなあ。

 だからぼくは、きらい…では無いけれど、バレンタインがあまり好きじゃない。

 ぼくだけそんをして、みんなずるいなって思うから。




 今日は教室が、いつにも増して騒がしい。

「ずるいよなあ蓮は!」

「そんな事無いよ」

 僕…いや、俺は、今でもバレンタインが好きじゃない。

「ねえねえ!」

 友人と話している横から、クラスの女子に声を掛けられた。

「なに?」

「今日誕生日なんだって? おめでと~。義理チョコ、余ってるからあげる!」

「ありがとう」

「じゃね」

 そんな一瞬のやり取りのうちに、俺の手元には、一つの10円チョコが増えていた。

「こ、この…やっぱりズルすぎるだろ! いいよなあお前はチョコ貰えてさあ…」

「いや、本当そんな事無いからさ。義理チョコだし」

「それでも貰えるなら幸せだろぉ…」

 皆、イベント事が好きだなあ。


 友人はこう言うけど、そんなに良いものじゃない。

 毎年、こうしてチョコを貰ったりするけど、当然義理な上、その中でも余り物だ。

 クラスの一番大きなグループで、ワイワイ騒いだ後のおまけに過ぎない。どうしようかとなった時、理由のある俺に、気まぐれで回ってくるだけだ。

 俺としては、お返しを考えないといけないし、何より小さい頃の、もやもやした気持ちが蘇ってしまう。

 羨ましく思われるのも、わからないでは無い。でも俺にとっては、ただただ困るばかりだ。

 

 最近はもう慣れてきたけど、誕生日に物を貰って、お返しをするって言うのは、やっぱりなあ…。

 少しだけ、残念な気持ちになってしまう。

「はあ…ここにも無しか…。畜生! じゃあな蓮! 爆発しろ!」

「しないよ。また明日」

 周りでは、最後の希望とばかりに下駄箱を覗き、一喜一憂する人がちらほら居る。

 実際、イベントにあやかって、チョコと一緒に告白したり、それで付き合い始める人はいる。

 まあ、俺にはそんなアテなんて無いし、関係ない…。

「…まじか」

 俺の下駄箱には、手紙が一つ。

 そして、“二つ”の包みが入っていた。




 ―――あの…ずっと……ずっと好き…でした! 私と、お付き合いして下さい!


 2月14日。

 この日付に、俺にとって、3つ目の意味が加わった。




 娘を膝に乗せ、僕はゆっくり、自宅のリビングでくつろいでいる。

 今日はクリスマス、世界中の人が楽しみにしている記念日だ。

 そして、僕の家族にとっては、もう一つ意味を持つ日でもある。

「わたし…おたんじょうびがちがえばよかった」

「うん?」

 娘が、まだまだ舌足らずな声で、ぼそりと呟く。

 他の人なら、何が言いたいのか、わからなかったかもしれない。

 でも、僕には想像が付いた。

「どうしてお誕生日、違う日が良かったの?」

「ようちえんのみんな、くりすますと、にかいおいわいしてるから…」

 どうやら、理由まで僕と同じだ。

 うちの親戚にも、二つの記念日を合わせて、少し高価な物を下さった方が居た。

 もちろん、娘の事は、心からお祝いしてくれている。

 でも、子供には少し、伝わりにくいんだ。

「そうか…。わかるよー僕も、おんなじだからね」

「ばれんたいん!」

「そう。えらいなー嬉しいよ。僕の誕生日はバレンタインデーだ」

「ぱぱも、ぷれぜんともらえなかったの? やーだね…」

「そうだなあ。確かに小さい頃は…でも僕は、誕生日がバレンタインで、良かったと思ってるよ」

「えー! なんでぇ?」

「うーん…まだ難しい気もするけど…聞きたい?」

「きく!」

「わかった」

 僕は、自分にとっての、幸せな記憶を辿る。


 ママは、とてもとても恥ずかしがり屋だった。

 それでも、勇気を振り絞って、僕に大好きだって伝えてくれたんだ。

 僕は驚いたけど、それから仲良くなっていったんだよ。

 今はとってもとっても幸せだから、ママが僕を好きって言ってくれて、本当に良かったと思う。

 でも後で聞いたんだけどね。

 ママ本当は、もっともっと前から、好きですって言いたかったんだって。

 でも勇気が足りなくて、どうしても言えなくて、頑張って頑張って…。

 何回目かのバレンタインデーに、やっと好きだって言えたんだって。

 もし、イベントの後押しや、誕生日をお祝いしたいって気持ち、他にもたくさん、全部全部一緒にならなかったら、一生言えなかったかもしれないんだって。

 本当にギリギリで、好きって言う事が出来たんだよ。

 それにね…。


 はて、なんだかやけに静かだな。

「…」

「あらら」

 どうやら、寝てしまったみたいだ。

 それにやっぱり、まだ難しすぎただろう。

 …。

「ちょっとした事なんだけどね…」


 あの時、下駄箱に入っていた物。

 校舎裏を指定した手紙と、バレンタインデーのチョコレート。

 それから、僕への誕生日プレゼントが入った包み。

 あれを受け取った時、思ってしまったんだ。

 ああ…彼女は、とても素敵な人かもしれないって。

 僕はそれからずっと、彼女の事を好きでいる。

 もしもこの事が無かったら。

 僕がただ、普通にチョコレートを貰っただけだったら。

 果たして僕は、ちゃんと彼女と付き合っていただろうか。

 想像するだけで、少し怖くなってしまう。


「パパ―? 少し手伝って貰えますかー?」

 おっと、ママが呼んでる。

「今行くよー」

 僕は娘を寝かせて、布団を掛ける。

 そして、最愛の人の元へ向かった。

 二人で並んで作業をしながら、年明けに行く旅行の話で盛り上がる。

 我が家では毎年恒例の、記念日に合わせて行く旅行だ。


 そうそう、実は僕にとって2月14日は、あれからもう一つ意味が増えてる。

 自分の誕生日で。

 彼女と付き合い始めた記念の日で。

 僕たちが…家族になった記念日でもある。

 そして、この日がこんなにも、僕にとって幸せな日になったのは、きっと誰もが知ってる、もう一つの意味のおかげだった。


 記念日が重なると、損した気分になる事もあるけど…でも、こういう事もある。

 昔は、あまり好きでは無かったこの日。

 今では、一年で一番大好きな日だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ